第12話 闘神クオン

 消失したパロドミナス。

 目を閉じたリューが意識を集中して周囲を走査サーチするが転移した魔族が再度姿を現す予兆はなかった。

 ……離れた場所に跳んで逃走したようだ。


「よう、久しぶりだな」


 そんなリューに葉巻を咥えてメイヤーが近付く。


「……来ていたのか」


 振り返った赤い髪の男がメイヤーに視線を向けた。


「ああ。そもそもが2年前のあの時、私たちはもうこの街にいたんだぞ。お前は地下から戻ってすぐに姿を消してしまったんで会えなかったがな」

「そうか」


 リューとヒューゴの2人が命からがらといった状態で地上に帰還したあの時、街は大混乱のさ中だった。

 あちこちで建物は倒壊しており火の手も上がっている。

 死者に怪我人はどれ程いるのか見当も付かない。


 更にはリューたちとほぼ同時に地下から大量のドワーフが逃げてきた。

 この天変地異がドワーフが原因であると誤解するものも大勢いてそれも混乱に拍車を掛ける。


 半月ほどもかかってようやく人々が落ち着き復旧の手立てに付いて皆が頭を悩ませ始めた時には既にリューの姿はどこにもなかった。


「それで私はフェルザーに手を貸しつつ連絡を取ってこの街にカエデとルクシオンの2人を呼び寄せた。何があったかはお前と一緒に脱出してきたヒューゴから聞いとる」


「……おいっ!! リュー!!」


 2人の会話にぷんすか怒りながらカエデが割り込んでくる。


「このバカッ! どこに行ってたんだ!! お前がいなくなったって聞いて心配……は、別に私はしてないけど……皆気にするだろ!!」


 詰め寄るカエデに表情を変えずにリューは静かに目を閉じる。


「お前たちがいる事を知らなかった。地下で奴らに遭遇したが手も足も出なかった。だから鍛え直す必要があった」


 そうだろう、とでも言うようにメイヤーは腕を組んでうなずく。


「大方そんなとこだろうとは思っておったわ。成果はあったようじゃないか。背丈は変わっておらんようだが」

「身長は関係ない」


 若干低い声で答えるリューであった。


「……リュー」


 騒ぎを聞き駆け付けたキリエッタがそこにいた。

 褐色の肌の女傑はリューを見て一瞬瞳を潤ませたが、すぐにそれを悟られまいとするように目を閉じて軽く首を横に振った。


「なんだよ。澄ました顔して戻ってきちまってさ……。あ、アタシは別に心配してたわけじゃないけどね」

「世話をかけたな」


 そっぽを向いたキリエッタに淡々と返すリュー。

 だが、クリスティンがもしもこの場にいたとしたら気が付いていただろう。

 彼の言葉が普段より幾分か穏やかな口調であった事に。


(皆でやたら強調しているが、こいつらどんだけリューを心配してなかったんだ)


 離れてやり取りを見ていたマキナはそう思った。


 ───────────────────────────


 城の廊下でリューとヒューゴが行き会った。

 この2人も2年ぶりの再会である。


「おっと……お久しぶりだな。元気そうでまずは何よりだ」


 猫背で上着のポケットに手を突っ込んだ無精ひげのエルフはそう言ってへらへらと笑った。


「ああ」


 対するリューの返事はそっけない。まあこれがこの赤い髪の男のデフォルトなのだが。


「あー……あん時は済まなかったな。どついちまってよ。オジさん他に手が思いつかなかったもんでさ」

「いや」


 苦笑しながら申し訳なさそうにしているヒューゴにリューは静かに首を横に振る。

 地下迷宮から脱出する際にヒューゴがリューを背後から殴って昏倒させた時のことを話しているのだ。


「お前のお陰で助かった。礼を言う。俺を抱えて地上へ逃げてきたんだろう」


 あの時の自分は目の前でクリスティンを失い冷静さを失っていた自覚がリューにもある。

 ヒューゴが力ずくで自分を止めてくれていなければ殺されるまでパロドミナスに突っかかっていたかもしれない。

 そうでなくともあの場であれ以上留まっていれば脱出が間に合わなかった可能性も大きい。


「ま、オジさんが頑張ったのはグロックガナーまでだよ。そっからはドワーフたちが担ぐの代わってくれてよ。変わりモンが多いけどいい奴ばっかだ、あそこのドワーフはな」


 照れ笑いしつつリューの肩にヒューゴがポンと手を置く。


「……クリスティンだってきっと無事さ。希望を持とうぜ」


 置かれた手をちらりと見てからリューはうなずく。


「ああ、そうだな」


 リューの脳裏を銀色の髪のシスターの笑顔がよぎった。


「……きっと無事だ」


 ───────────────────────────


 食堂の長テーブルに湯気の立つ丼が並んでいる。


「……まあお前が戻ってきたんなら食事はこうなるわな」


 小さく苦笑するメイヤー。

 彼は別にこの「お約束」を嫌がっているわけではない。

 変わらない仲間が微笑ましいというのをこの中年流に少し捻くれた出力をしているだけだ。


 食堂にはリューの知人たちが集められている。

 戦時中なのでささやかなものだが、帰還祝いの食事会といった所か。


 振舞われるのは当然のようにラーメンだ。


「えっ? 何これぇ!? 私が食べたラーメンと全然違うぅ!!??」


 裏返った声を上げているのはマキナ教授。

 そう、彼女がラーメンと呼ばれている料理を口にしたのはこれが初めてではない。

 2年前にはラーメンそのものがなかったこのロンダンの都。

 しかし魔物の出現によって大量の傭兵が各国から流入した結果、多数のそれまでなかった食文化もこの国に流入することになった。

 その中にラーメンも含まれていたのだ。


 残念ながらこの国のラーメンの伝道師にはリューはなれなかったというわけだ。

 別に本人は気にしていないが。

 彼はただ箸の使い方を一から教えずに済んだのは助かったとは思っている。


 そんなわけでマキナもラーメンを口にする機会に恵まれたわけだがレシピがもたらされたといって味が保証されているというわけではない。

 彼女が食べたものは「もどき」とも言うべき粗雑な一杯であった。


「これが本物だ」


 赤い髪の男がそう告げる。

 彼も戻ってからここのラーメンは食べている。

 ……そして怒った。

 こんなものがラーメンの名で食卓に上っているという現実に静かに怒った。

 なんなら魔族の侵攻よりもそっちの方に怒った。


「……これは美味い!!!」


 大声を張り上げているのはグロックガナーのドルガン王だ。

 王国のドワーフたちは今は大半がロンダン近郊にまたどさくさ紛れに勝手に街を作って居付いてしまった。


「こんな美味いものを作れるお前はえらい!!!」


 相変わらず褒めて伸ばす王であった。


 総じて和やかな雰囲気の集まりではあったが、誰もが喜んでばかりというわけでもない。


 麺をすすりつつも剣呑な視線をリューに向けているのがルクシオンである。


「……2人で大丈夫だっていうから行かせたのに」

「すまなかった」


 怨念の言葉を吐いているルクシオンにリューが詫びる。

 クリスティンとリューの2人が旅立った時にどうしても付いていくんだと言って泣くルクシオンさん(六百ウン十歳)をそう言って留めたのである。

 ……ちなみに言ったのはクリスティンであってリューではない。


「返してよ。私の……私のクリスティンを返しなさいよ」


 言いながらルクシオンの目尻にじわりと涙が浮かぶ。


「いやお前のじゃないだろ」


 余計な事を言ったメイヤーがルクシオンに睨まれた。


「ルク。リューが悪いんじゃないよ。アンタだってわかってるんだろ?」


 キリエッタがやんわりと諭すと図星を突かれたのかルクシオンはそっぽを向いて頬を膨らませそれ以上何か言おうとはしなかった。


 そこで僅かな時間場が沈黙する。


「格納庫に現れた魔族を撃退してくれたという話だが」


 食事の手を止めフェルザーが口を開く。


「ああ、パロドミナスと名乗った魔族……お前の弟に化けていた奴だ」

「ならば私にとっても仇のようなものだ。ご苦労だった」


 礼を述べるフェルザーにリューはかぶりを振る。


「殺せてはいない。奴は自分が戦闘は不得意だと言っていた。一勝したからといっても喜べるような状況ではない。今は戦闘職の魔族たちもこの世界に来ているはずだ」


「うむ。奴以外に7名がこの世界に来ている。我を含めてな」


 食堂の一角から聞こえたエコーのかかった無機質な声。

 皆が食べる手を止めてそちらを見る。


(ああよかった……ようやくに話が行くのか)


 1人カエデだけはそっと胸を撫で下ろしていた。

 何しろ食事会の開始時点から自分の隣に座っている鎧なんだか虫なんだかわからない異形の装甲戦士のせいでラーメンの味など全然わからない状態だったからだ。


「突っ込むべきなのかどうなのかわからんから放置しとったが……お前は何者だ?」


 複雑な表情のメイヤー。

 リューが平気で丼をその魔族にも出したので皆あえて口にはしていなかったが気にはなっていたようだ。


「我が名はクオン。お前たちが魔族と呼ぶもの……ヴァルゼランの内の一体だ」

「いや、そのクオンさんがなんで今ここでラーメン食ってるのって話だよ」


 キリエッタの問いにはリューが答えた。


「俺が呼んだ」


 そして続けてとんでもない事を言い出す赤い髪の男。


「……師匠なのでな」


 ───────────────────────────


『闘神』クオンとクリストファー・緑の出会いはリューがロンダンの都から姿を消して2か月後に遡る。


 リューは打ちのめされていた。

 パロドミナスとの絶望的な実力差に。

 あれ以来過酷な修練を己に課してはいるものの、それでも差が埋まる気はまったくしない。


 悪戯に身体を痛めつけても増すのは焦燥ばかり。

 クリスティンを失ったあの日からリューの精神こころは暗黒の淵にあった。


 武闘家として修練を重ねつつもラーメン屋としての修行も怠るわけにはいかない。

 空虚な気持ちで人の往来の乏しい街道に屋台を出していたある日のこと。


 その魔族は突然空からやってきた。


 飛来した青黒い鎧の戦士にも甲虫にも見えるその異形。

 瞬間的に察する。……魔族だ。

 顔を合わせたばかりのパロドミナスとはあまりに違う容姿であっても本能的にリューがそう看破したのは感知のオーラを持つ者でもある彼の鋭い洞察力故か。


 同時に察したのは目の前の相手の恐るべき戦闘力。

 パロドミナスの時は肌で感じた絶望的な実力差をまったく感じることができない。

 海面から覗き込んだところで深海の深さは推し量れないのだ。


 どうやら相手は上空から自分の屋台を見て降りてきたらしい。


「それはなんだ? 食べ物を出すのか?」


 屋台を指差しエコーの掛かった抑揚のない声で問う魔族。

 クオンはこの時腹を空かせていた。

 そして彼は魔族でも指折りの美食家でもある。

 原始的な食事は好まない。


「そうだ。ラーメンを作るためのものだ」

「らあめん……それは美味いのか?」


 ……その問いが赤い髪の男の心に火を付けた。


「ああ。この世で一番美味い」


 過剰なリューのラーメン上げが出た。


「この世で一番と言うか。興味がある。だが我はお前たちの世界の金銭を持ち合わせてはいない。金銭以外で我に要求できそうならあめんの代価はないか?」

「必要ない」


 短く言ってリューが調理の準備を始める。


「持っていない者からは取らない。食べたければ出す」


 それはラーメンの作り手としてのリューの矜持のようなものであった。

 ……往々にして要求されてない相手にも出す。


 こうして魔族クオンは生まれて初めてラーメンを食べた。

 使い慣れない箸は鷲掴みにして。


「……なるほど、言うだけのことはある」


 食事を終えた魔族は満足げにうなずいた。


「久しくなかった満足感だ。これほどのものを無償とは心苦しいぞ。繰り返すが何か我に要求はないのか?」


 食器を洗う手を止めるリュー。


「それなら、俺の修行相手になってほしい」


 決意を秘めた瞳でリューは顔を上げる。


「そんな事か。いいだろう。……ただし条件がある」


 どんな感情なのかもわからない赤く鋭い大きな2つの目がリューの姿を映す。


「死んでも文句は言うな」

「……むしろ望むところだ」


 目を閉じて静かにうなずくリューであった。


 それから2年近く、リューとクオンの修業は続いた。

 日時は決まっていない、たまに魔族はふらりとやってきてはリューの相手をする。

 修業の前にはクオンにラーメンを出すのが通例となった。


 ……何故なら修業の後でそうしようと思ってもリューが満身創痍か瀕死なので不可能だったからである。


 ───────────────────────────


 自分とクオンの出会いと関係を語ったリュー。

 話し終えてしばらくは誰も何も口にしなかった。


「前々から思っておったが……お前も大概狂っとるよな」


 ようやく口を開いたメイヤーが渋い顔で言う。

 酷いことを言っているが誰も非難の言葉は口にしなかった。

 程度の大小はあれ概ね一致した見解だったということだ。


『闘神』の異名を持つ魔族でも屈指の強者であるクオンとの常に死と隣り合わせの鍛錬でリューは2年で大きく実力を上げたのである。


「正気の修業になどさしたる意味もない」


 平然と言う装甲の魔族。

 冷めてしまったコーヒーを口に運びつつメイヤーがチラリとクオンを見る。


(いやコイツ、リューが自分らの敵対者だってわかっておるんか……? パロなんとかがやられたって聞いても平然としとるし)


「パロドミナスを倒せたのならお前の腕は相当上がっている。そのまま研鑽を積め。楽しみだ、お前と命のやり取りをする日が来るのが」


 その魔族の言葉にああ、とため息をついて再びメイヤーは冷めたコーヒーを飲んだ。


(そういうタイプか。イカれとる奴ばかりだな……)


 クオンもコーヒーカップを口に運ぶ。


「……これはあまり好きではない」


 コーヒーはあまりお気に召さなかったようだ。


 ───────────────────────────


 深い深い地の底にある臓物のような建造物により構成された大迷宮。

 世界を制圧せんと異界からやってきた魔族ヴァルゼランたちの前線基地。

 赤と紫と桃色に彩られたその迷宮はあちこちが不気味に鼓動を刻むように伸縮している。


 その悍ましき闇の迷宮の最深部は巨大な空間であり、奥には巨躯の異形の魔族が鎮座している。


 1つの頭部に2つの面、4本の腕、4足の魔獣の下半身を持つ異形の大巨人。

 大将軍フォルドーマ……この侵略の総指揮を執る魔族たちの頭目である。


「……アッハッハッハッハッハッハッ!!!」


 その大将軍を前に哄笑しているトゲトゲ髪のスレンダーな女魔族。

 メルドリュートのすぐ横には傷付いて苦し気なパロドミナスがいた。


「マジかよコイツ!! 負けてきやがったぜ!! ダッセーなぁ!!」


 一頻り腹を抱えて笑うとメルドリュートは笑いすぎて出た涙を拭った。


「はー笑った。……オイお前、人間にやられてくるとか鈍りすぎじゃねえの?」

「いやはや、まったく……申し開きもできませんですな。まさか……あれほどまでに腕を上げていたとは……」


 満身創痍のパロドミナスは直立すらできない状態なのか身体を斜めに傾けている。

 まだ傷口も塞がっていない彼の足元にはポツポツと血が滴っていた。


 両者を前にフォルドーマはしばらくの間無言であったが……。


「最早やむを得ぬか……」


 大将軍左面の重々しい一言に2人の魔族が彼を見上げた。


「もう少しじっくり事を進める予定だったのによォ!! 雑魚どもが跳ねやがって!!」

「先々、輝光界の皆さんに煩わしい思いをさせられるとしても地元の皆さんには我らヴァルゼランの本当の力と恐怖を思い知らさねばならぬか」


 右面と左面が交互に口を開き……そして。


 ズズズズズズ……。


 大広間を鳴動させて大将軍が立ち上がる。


「思い知るがよい地元の皆さんよ!! この大将軍直々に……」

「お待ちください」


 細身で全身を白いマントで覆い、目の部分だけに黒い穴が開いているのっぺりとした仮面を被った何者かがその場に現れた。


「……お前か。ショルドワ」

「閣下が直々にお出になる程ではございません。このショルドワにお任せください」


 ショルドワと呼ばれた仮面の魔族が深く大将軍に頭を下げる。


「数千の毒物を体内で生成できる『猛毒のショルドワ』……お前の魔性の毒で地上の皆さんを恐怖のどん底に陥れるか。よかろう、行くがいい」


 再び一礼してショルドワは顔を上げた。


「ははっ、必ずや……」


 そして仮面の魔族の姿は蜃気楼のように揺らいで消えたのだった。


 ───────────────────────────


 ……そして、一週間が過ぎた。

 大魔宮最深部、大将軍の間。


「地上の皆さんが次々に毒で命を落としているとか、そういう情報は入っておるか?」

「いやぁ、聞きませんのう」


 フォルドーマの左面が尋ねるとグロンボルド老師が首を横に振る。

 相変わらず魔物を放っているが防衛に出てくる地上の戦士たちの数や様子に変わりはない。


「……あ奴め、随分と慎重にやっておるようだな」

「ジラしすぎなんじゃねえのかァ? ちょっとばかしよォ」


 大将軍の左右の面が交互に唸る。


 ……そして、それから更に四日が過ぎた。


「遅い……!」


 不機嫌さが滲み出ている声音の大将軍。

 近くで本を読んでいたグロンボルドがその声の圧にビクンと肩を震わせる。


「ま、まあまあ閣下。そう興奮なさいますな。……どれ、この爺が為になる昔話などお聞かせいたしましょう。これはワシが昔、冥獄界オルドゴウルでツケで飲み歩きまくった挙句に結局払わずに逃げ切って『暁の魔術師』と呼ばれた時の話でございますが……」

「いらねェんだよジジイ!! 隙あらば昔の自慢話しようとすんじゃねェ!! 焼いて食うぞ!!!」


 フォルドーマの右面に怒鳴り散らされ、小柄な老魔族はその圧で後方にごろごろと転がっていった。


 そしてその転がるグロンボルドと入れ違いになるようにパロドミナスが広間に駆け込んでくる。

 まだ傷が癒えきっておらず転移が出来ないため徒歩である。


「だっ、大将軍閣下に申し上げます!! ショルドワ様がお戻りになられました……!!!」

「ほう。ようやく戻りおったか。……して、首尾はどうだ?」


 フォルドーマ左面の言葉にパロドミナスは複雑な表情になった。


「……いえ、その、それがですな……」


 そこへ2体の骸骨兵スケルトンが担架を持って広間に入ってきた。

 その担架の上に寝かされているのは仮面の魔族。


「ぬぅ……ッ!! ショルドワ!! 何があったというのだ!!!」


 担架の上の魔族は衰弱し切っていた。

 か細い呼吸で辛うじて息はあるのがわかる。


「その……どうにも大迷宮の出口がわからずにさ迷っていらしたようで。迷宮の隅っこで行き倒れになっているのを今朝、魔物が見つけて参りまして……」


「………………………………」

「………………………………」


 大将軍の左右の面がどっちも真顔になった。


 すっかりやせ細ってぷるぷる震えているショルドワをメルドリュートが見下ろす。


「コイツのアレさはちょっとマジモンだから笑えねえんだよな……」


 そう言ってため息をつくメルドリュートであった。

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