第14話 流れ星に願いを 後編

 唸りを上げて頭上ほんの数cmを巨大な刀身が横薙ぎにしていく。

 フォルドーマが無造作に放った一撃だ。

 当たらずともその攻撃は暴風に等しく全身を持っていかれそうになる。

 表情に出てはいないが回避を続けるリューは必死だ。

 無表情の彼の額には今、汗が浮いている。

 荒れ狂う相手の乱打は一撃一撃が致命傷になりうる威力を秘めているのだ。


「……フハハ、やはり戦いはいい。挑みかかってくる相手がいるというのはいいものだ」

「ソイツが猛者なら尚更なぁッッ!! キヒヒヒッ!!!」


 大将軍の左右の面が交互に喜悦の言葉を放っている。


「……む?」


 そのフォルドーマが動きを止めた。

 必然的にリューの動きも止める。

 赤い髪の男はそれでも油断なく大将軍の死角にいた。


「なんだ……?」


 怪訝そうにそう言うとフォルドーマは周囲を見回した。

 自分を遠くから包囲している人間たちの様子がおかしい。

 ……ざわついている。

 空を見上げているものが多い。


 そして大将軍も天を仰ぎ、そこに輝く真昼の星を見た。


 ───────────────────────────


 一筋の涙が頬を伝って落ちる。


 天の輝きを見上げてルクシオンは涙を零す。


(……何を泣く?)


 それを見るメルドリュートは訝しむように眉を顰める。

 自らの死を目前にしてもどこか空虚であった彼女の心を空の輝きの何が動かしたのか……?


「まあ何でもいいか……。もうお前に興味は無くなった。終わりだよ。お前は殺す。そんでオレ様は帰って寝るぜ」


 その言葉に反応を示したルクシオン。

 我に返ったかのようにメルドリュートを見ると涙を指先で拭った。


「……御免なさいね」

「あぁ?」


 突然の謝罪に怪訝そうな顔をする女魔族。

 ルクシオンはそんな相手の様子を気にした様子もなく言葉を続ける。


「殺されても別に構わないと思っていたけど……少し事情が変わったわ」

「あ~そうかよ。こっちはお前の都合は知ったこっちゃねえんだよ」


 はっ、と鼻で笑ってから……メルドリュートの姿は消失した。

 否、消えたように見える高速で瞬時に距離を詰めると大戦斧をルクシオンに向けて振り上げる。


「オレ様が殺すつってんだから大人しく死んでおきなぁッッ!!!!」


 ……ガキィィィン!!!!


 激しい激突音と共に火花が散る。

 そして……。


「な……ッ!!」


 呆然としたのは女魔族。

 彼女の激しく痺れる両腕は何も持っていない。

 弾き飛ばされた大斧は後方に落ちて砂煙を上げた。


「………………………」


 追撃はない。

 黙ってルクシオンは刃槍を引いた。


(どういう……つもりだ?)


 メルドリュートが口を開きかけたその時、ルクシオンが目を閉じた。


「拾ってきていいわよ」


 ギリッ! と女魔族の奥歯が軋んで鳴った。

 屈辱と怒りで目が眩む。

 たった今弾き飛ばした自分の武器を拾ってこいと言っているのだ。


「舐めんじゃ……ねぇぇッッッッ!!!!」


 ほんの一瞬だけメルドリュートは迷った。

 言われた通りに武器を拾いにいくかどうか。

 そしてその事を恥じて更に怒り、徒手空拳のまま再度ルクシオンへと襲い掛かった。


「……そう」


 再び目を開けたルクシオン。

 その瞳に激昂して迫るメルドリュートが映る。


「あなたがいいのなら、それでいいけど」


 ───────────────────────────


 星が落ちる。

 炎に包まれた巨岩が天の彼方より降ってくる。


「……ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」


 ……ついでに悲鳴も降ってくる。


 青空を超えたさらにその先、星の瞬く黒い空には何だか絶叫が響いていた。

 騒いでいる何者かは落ちる星の上に武器を突き立ててしがみついているのだ。


「だっだだだだだだだダメです!! 今度こそダメです!! アカンですよ!!! 死ぬような気がします!!! 熱いです!!!!!」


 灼熱の炎の中で銀色の髪を靡かせてこの世の終わりがきたかのように騒いでいる娘。

 数多の世界を巡る長い旅から帰還した者。

 クリスティン・イクサ・マギウス。


「大丈夫だって。お前には私の防護魔術が効いてる。炎も熱も遮断してるんだぞ」


 その傍らには大きな黒い獣が……黒豹のメギドがいる。

 黒豹は今、隕石を落下速度と位置を制御しながらクリスティンをシールドするという非常に高度な魔術展開をしていた。


「でっでっでっでもー!! 視覚的かつ気分的に熱いです!!!!!」

「そこは根性でどうにかしろ」


 あっさり流すメギド。

 長い旅でクリスティンのあしらい方を大分学習したようだ。


「大体こんなもの落っことしたら大惨事ですよ!! どうしてこう私は人生で何度も何かを落っことして大惨事にしそうな現場に遭遇するんでしょうか!!!」

「考えがある。任せておけ」


 獣が細めた瞳には確かな知性の光がある。


「空の彼方に帰還してしまった時は困ったことになったと思ったがな。災い転じてというやつだ。こんな時に表をうろうろしていた己が身の不運を嘆け……魔族ヴァルゼラン!!!!」

「ぶ、ぶつけるんですか!? 当たってくれますかね……!?」


 裏返った声を張り上げるクリスティン。


地上したには人の私がいる。彼が位置を誘導する」


 ……同時刻、地上。


「やれやれだ……」


 小高い丘の上に立ち、空を見上げる1人の男。


(この国も世界も私にとってはどうでもいい事だが)


 襟元の開いた白いシャツに黒のジャケットにスラックス。

 野性味のある顔つきながらどこか気品も感じさせる整った顔立ちの男……人間態のメギドがそこにいた。


「まあこれはこれで面白い。今回だけは手を貸してやろう」


 そう言ってからメギドは背後を振り返った。

 そこには地べたにフェルザーが寝かされている。

 応急手当はしてあるものの全身傷だらけで虫の息だ。


「すまないな友よ。治療は一仕事終えてからになる」


 再びメギドが空を見上げる。

 そして彼方の分体へと座標を魔力信号で送った。


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 流れ星が輝きを増しながら迫る。

 大将軍フォルドーマはその落下する燃える巨岩の軌道に何者かの意図が作用していることを察していた。


「あれをわしに……」

「キヒヒッ! オレに……」


 そうだ、あの隕石は……


『当てるつもりか!!! 面白い!!!!』


 左右の面の言葉が重なり合い一つの叫びとなった。


「巻き添えになりたくないなら離れているんだな。クリストファー・リュー……お前との勝負、一旦預けておくぞ!!!」

「………………」


 赤い髪の男は無言でその場を離脱する。

 ……あの魔族は空から降ってくるあれを迎撃するつもりなのだ。

 自身の巨体よりも遥かに大きな……あの燃え盛る巨岩を。

 遠巻きに大将軍を包囲していた戦士たちもなりふり構わず離脱を開始している。


 広い荒野に残されたものはフォルドーマただ1人だった。


「……よし! 真下の奴は受け止めるつもりだ。運がいいぞもう誘導の必要はなくなった。脱出するぞ!!」


 落下を制御していた魔力をオフにしてメギドがクリスティンを振り返った。


「ええ……これをですか? 凄いですね。下の人は野球選手か何かなのでしょうか」


 クリスティンが野球選手をどういう目で普段見ているのかはよくわからないが、こんなものは野球選手であってもどうにもしようがない。

 降下する隕石から1つの影が飛び去って行く。


 ……そして、


 天地を引き裂くかのような衝撃と轟音を伴って巨岩は大地に到達した。

 4本の腕に持った4つの武器の内、3つを投げ捨て残った大剣を両手で構えたフォルドーマが直上に迫った隕石に渾身の力で叩きつける。


「ヌおおおおおッッッッッ!!!!!」


 魔将の咆哮が落下の轟音でもかき消せないほどの振動となって周囲に広がった。

 巨岩の表面が砕けて亀裂が入る。

 しかし砕けない。

 それを悟り、大将軍は残った大剣も投げ捨て4本の腕を一杯に広げて隕石を受け止めた。


 大地が揺れる。

 ……震えている。


 鳴動は止まず大気もまた揺れていた。


「……クハハハ」


 フォルドーマは笑っていた。

 燃え盛る巨大な岩塊を受け止めて、左右どちらの面も笑っている。

 巨躯には炎が燃え移り、体のあちこちにヒビが入り始めている。


(……これがいくさだ……)


 遂に2本の腕が崩れ胴体から離れて地に落ちた。

 その瞬間、辛うじて耐えていた大将軍の全身に巨岩の負荷が圧し掛かる。

 全身のヒビが広がり鮮血が噴き出すも、即座に蒸発するこの世の地獄。


「これが……勝負だ……」


 微かな呟きはどこか満足げに聞こえた。

 その言葉は爆発の轟音にかき消されて誰の耳にも届くことはなかった。


 ───────────────────────────


 大地に落下した隕石が周囲に放った高熱の豪風。

 その灼熱の風の中でメルドリュートが地に両手と両膝を突いて俯いている。


「……ハァッ……ハァッ……くそッ……!!」


 女魔族の全身は傷だらけであり地面には血が滴っている。

 気力を取り戻したルクシオンの強さは圧倒的であり歴戦の猛者であるメルドリュートを一切寄せ付けることもなく一方的に叩きのめした。

 回復に回す魔力も尽きたメルドリュート。

 地面を見つめ最早顔を上げることすらままならない。


「……殺せ……よ……」


 掠れた呟きに答える者は無く。

 メルドリュートは最後の力を振り絞って顔を上げる。


 そこにはもう誰もいなかった。

 ただ熱風だけが吹いている。


 糸が切れたかのように女魔族は地に倒れ伏す。


「こっちの生き死になんざハナっから眼中にねえってか……クソッ」


 喘ぐように言って奥歯を噛みしめるメルドリュートであった。


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 大地に炸裂した巨岩は砕け散り、大小の無数の破片となって周囲に散った。

 それらは未だに炎に包まれ周辺の光景を黒煙で霞ませている。


「あややや、これは酷いですね。ちょっと小さな子には見せたくない感じの景色になっちゃってますね」


 パチパチと残り火の燻る荒野をクリスティンが進む。

 焦げ臭い異臭に彼女の表情が陰る。


「奴らに蹂躙し尽された光景よりかは幾分かマシだろう。……どの道、あいつらはこのくらいやらなきゃ倒せない。千年近く前に私のオリジナルが仲間と共に『魔王』を倒した時もそうだった」

「何かを落っことしたんです……?」


 クリスティンの問いに黒豹は「いや」と首を横に振る。


「その時は落としたんじゃない。逆に。何十もの転移魔方陣を縦に重ねて罠に掛けた魔王をそこへ入れた。何度も加速しながら空への転移を繰り返した奴は最後に月の表面に叩き付けられた」


 魔王……そう呼ばれている魔族ヴァルゼラン

 先代の侵攻軍大将軍ハザン。


 自身の記憶ではない。

 だが継承された思い出である。

 獣の瞳はどこか遠くを見ているようにクリスティンには見えた。


「結局それでも殺せはしなかったがな。戻ってきた時にはかなりのダメージを負っていた。それでなんとか倒せた」

「それはなんというか……大変でしたね」


 そう言うしかないクリスである。


「今、やった奴も魔王と同格の実力者のはずだ。指揮官だといいがな」


 そして黒豹が歩みを止める。

 一瞬遅れてそれに気付いたクリスティンも立ち止まった。


「さて昔話はここまでだ。……懐かしい顔が出迎えてくれているようだぞ」

「え?」


 顔を上げたクリスの、その視線の先に……。


 赤い髪の男が立っている。

 ずっと会いたくて、再会を願う気持ちを糧に変えて旅を続けてきた……その相手が。


「……ふぁ」


 堰を切ったかのようにクリスティンの両眼から流れ落ちる涙。

 ぼろぼろと大粒の涙を零しながらフラつく足取りで彼女が一歩前に進む。


「……リューっ」

「クリスティン」


 お互いに相手の名を呼んで……。

 お互いにそれ以外の言葉は何も思い浮かばないで……。


 クリスティンの足取りは速足から駆け足に変わっていく。


「リュー……どぅフ!!!!!」


 横合いから何者かのすごいタックルを食らってヘンな声を上げて吹っ飛ばされたクリスティン。

 やれやれ、というようにリューはため息をつく。


「あばばば……な、なんです何事ですか……あっ……」


 仰向けに吹っ飛んだ自分。

 そこに馬乗りになっているのは青い鎧の女騎士だ。


「ルク……」

「クリスティン……!! もうバカ!! どこ行ってたのよ……もう……バカ……」


 べしょべしょに泣いているルクシオンの落とした涙がクリスの胸元に滴る。


「ルク……ごめんね」


 微笑んでクリスティンは上体を起こした。

 わんわん泣いているルクシオンを彼女は優しく抱きしめる。


「ただいま、ルク」


 メイヤーやカエデも側まで来ている。

 表情を周囲に見られたくないとでもいうように覆面を鼻の上まで上げるカエデに、何故だか勝ち誇った様子で葉巻を吹かしているメイヤー。


「お友達の方、ご無事だったようですね。大変喜ばしいと思います」


 そう言ってアメジストは音を立てないように拍手をする仕草をした。


 ……こうして。


 クリスティン・イクサ・マギウスはこの世界に帰還したのだった。


「……ちゃんと戻ってきてえらい!!!」


 そしてドルガン王に褒められた。


 ───────────────────────────


 クリスティン帰還は仲間たちにとっては喜ばしいニュースではあったものの、白鶯騎士団やロンダンの街の住人たちは未だ大混乱のさ中であった。

 街は半壊しており、死者やけが人も多く出ている。

 そして、全ての指揮を執るべきフェルザー・ミューラーは未だ意識を取り戻していない。


 大将軍フォルドーマを退けはしたもののそれで魔族の地上侵攻が中断されるのかどうかもわからない。

 向こうにはまだクオンを始めとする実力者が無傷でいるのだ。


 今はメイヤーやドルガン王が中心となって迎撃態勢の再構築が行われている。


「アンタも大変だったねえ。ここじゃない世界に飛ばされるとか……」


 しみじみと言うキリエッタ。


「メギドさんが色々助けてくれましたから言うほどキツくはなかったですよ。キリエッタさんやメイヤーさんたちが来てたのは驚きました」

「オッサンに振り回されてるだけさ。ま、今となったら来といてよかったと思うけどね。アンタたちがこんな目に遭ってんのに遠くで知らずに過ごしてるのは気分よくないしさ」


 苦笑して肩をすくめる褐色の肌の女傑。

 2人の前ではキリエッタの部隊の戦士たちが瓦礫の撤去を行っている。

 大きな石柱を数人で動かそうとしているところだった。


「ちっ、こりゃダメだ。道具持ってこい」

「あ、私手伝いますよ」


 びくともしない石柱に音を上げる男たちに小走りでクリスティンが駆け寄る。


「アッハッハ、お嬢ちゃんが手伝ってくれてもちょいと厳しいかな」

「よいしょ……!!」


 力を入れて両手で持った石柱を浮かせるクリスティン。

 かくんと口を開く男たち。


「ハハッ、相変わらずのパワーじゃないか」


 それを見て楽し気に笑うキリエッタであった。


 ───────────────────────────


「まったく……ほんとにバカ!! すごいバカ!!」

「もう機嫌直してくださいよ~カエデちゃん~……」


 半壊した砦の一室でぷんすか怒っているカエデを前に四苦八苦しているクリスティン。

 クリスの右手は隣に座ったルクシオンがっしり抱え込んでいてべったりくっ付いている。


「危ない真似はしないっていうから旅に行かせたのに!! 帰ってこれるかわからない他の世界に飛ばされるってそれ以上危ないこともそうそうないだろ!! バカッ!!」


 頭から湯気を立てそうな勢いのカエデを必死になだめるクリス。

 とはいえ、この怒りが彼女の心配の裏返しでもあるとわかっているので内心嬉しくもある。


「本当に反省してるんだろうな……?」


 ジロっと睨むカエデにカクカクうなずいて見せるクリスティン。

 怒る彼女は微笑ましくもあって……だが笑ったりしたら大変だ。


「パパ様とママ様にもちゃんとすぐに手紙書けよ」

「ええ、それはもう。何ならもう頭の中で文面はできあがってます」


 両親への連絡はカエデに言われるまでもなくクリスティンも考えている。

 クリスの返事にフーッと長い息を吐いたカエデ。

 ようやくお説教は一段落したようだ。


「数か月おきだった手紙が2年以上も滞ってるんだからな。パパ様もママ様も相当心配してるはずだ。ある程度は私がごまかしてあるけど……正直もう限界だった」

「2年……」


 その時、クリスティンの目が遠くを見るかのように揺らいだ。


「ん? どうした?」

「え? ああ! いえいえ……そうそう、2年ですね。時間が経つのは早いなあと思いまして……えへへ」


 照れ笑いをするクリスティン。


「……………………」


 そんな彼女の腕を抱きかかえるルクシオンはその一瞬の変化に気付いていたが黙ってクリスの横顔を見つめるだけで何かを口にすることはなかった。


 ───────────────────────────


 ロンダン地下、大魔宮最深部。


 先日まで大将軍が鎮座していた空間には今巨大な臓器のような半透明の袋が設置されている。

 何かの液体に満たされたその内部には傷付き多くの身体のパーツを失ったフォルドーマがいる。

 4本の腕の内の2本は失われ、胴体や下肢にも崩れて欠落している箇所が多くある。

 隕石の衝突により深い傷を負った彼は今身体を修復している最中なのだ。


 そしてその再生器の前には小柄な老魔族がいる。

 浮かぶ椅子に座ったローブ姿の魔族。


(うう~む……ここまで傷が深いとなると……。元のとおりに回復されるかどうかは微妙やもしれぬぞ)


 グロンボルドが顔を顰め、髭のように生えている2本の触手がゆらゆらと力なく揺れた。


「いずれにせよこうなればもう後は閣下ご自身の生命力に賭けるしかないわい」


 肩を落とし、ふわふわと浮遊しながらグロンボルドは大広間を出て行った。


 そして、それからわずかに時が過ぎまたも眠る大将軍の前に姿を現した者がいる。

 空間の一部分が蜃気楼のように歪みそこに姿を現した魔族。


「……クックック」


 声を抑えて忍び笑いを漏らし、そこに立つのはパロドミナスであった。

 大げさに芝居がかった仕草で両手を広げその姿を大将軍に見せつけるかのようにくるりとその場で一回転する。


「いやいや、まさかこうまで事が予定通りに進むとは……。順調すぎて少々怖く感じてしまいますな」


 透明の壁の向こう側。

 青緑色の液体の中のフォルドーマ……自らの主たる魔族であるはずの彼を見るパロドミナスの顔には確かな喜悦があった。

 口の端を吊り上げるパロドミナスの背後に2つの影が立つ。

 ゆっくりと振り返り背後の何者かを見て文官を自称する魔族が目を冷たく光らせた。


「さて御二方にもいよいよ動いてもらいますよ。……我々の真の目的の為」


 禍々しい魔の空間に揺れる三つの影。


の為に……」


 不吉な笑いが木霊する中影は1つまた1つとその場から消えていくのだった。

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