第11話 2年前の忘れ物

 情報と人材を中心に幅広くなんでも商材として扱う会社メイヤーズカンパニーの社長にして、人類防衛の最前線、白鶯ハクオウ騎士団の参謀ヴァイスハウプト・メイヤー。

 鷲鼻にカイゼル髭が特徴の悪人面のこの中年男の趣味は……なんといっても金儲け。

 それは人類存亡をかけた防衛線のさ中であっても変わることはないのだった。


 鉄と油の匂いのする広い屋内。

 白鶯の大型格納庫にいるメイヤーと、そしてマキナ教授。

 その彼らの前には1台の蒸気式自動車。

 輝く車体を見つめる2人の視線は真剣そのものであった。


「こんなとこにいたのかい。……何やってんだい? オッサン」


 ヒールの音を響かせてそこにやってきた褐色にブロンドの美女はメイヤーズカンパニーの社長秘書。

 そして現在は防衛部隊の小隊長に出向中のキリエッタ・ナウシズである。


「社長と言わんか社長と……。今は開発担当による新製品のお披露目だ。ちょうどいい、お前も見ていけ」

「はぁ? 何アンタ、車屋やる気なのかい」


 スパナを手に車体の最終チェックを行っていたマキナが振り返る。

 頬に油汚れを付けた白衣のドワーフはニヤリと不敵に笑った。


「ただの自動車ではないぞ! 驚天動地の未来技術だ。世の人々の生活スタイルに革命を起こすのだよ」

「は、はあ……?」


 ぶち上げたマキナによくわかっていないキリエッタが首をかしげた。


「百聞は何とやらか。見ていてもらおう」


 教授は車体から1歩離れて立つ。


C,Bシービー……エンジンをかけるのだ」


 マキナがそう呼びかけると車体はブロロロロ、と低い排気音を響かせて細かく振動を始めた。

 ……エンジンがかかったのだ。


「なっ……ええ?」


 流石に驚愕してよろめいたキリエッタ。


「ははは、エンジンをかけた程度で驚いていたら身が持たないぞ! 合成霊人格を搭載したコイツの真骨頂はここからだ! 行き先を告げるだけで自動で走ってくれるのだよ。夢みたいな話だとは思わないかね?」

「がははは! これを市販すれば大儲けだぞ秘書!!」


 得意げに胸を反らした教授とメイヤーの言葉に呼応するかのように車は一層激しくエンジンを吹かす。


『オオオオオッッッ!!! 早く!! 早くオレを公道に解き放てェッッ!!! 全てをブチ抜いてやる!!! 何人たりともオレの前は走らせねえッッッッッ!!!!』


 ……そして咆哮した。


「……いや、ダメだろこれ」


 世に放ってはいけない何かだった。

 走る狂気、暴走する悪意である。

 脱力したキリエッタはこめかみを押さえてため息をつく。


「まあちょっと性格はワイルドかな。だからクレイジーバッファローと名付けたのだよ。愛称はC,Bシービーだ」

「だから狂える猛牛を世に放つなっての」


 見てはいけないものを見てしまった顔のキリエッタ。

 そんな彼女の脇をとことこ歩いて車に近付く者がいた。


「ほうほう。なるほどなるほど。何やら面白そうな事をしていますね」


 それは先日フェルザーを尋ねたアメジストと名乗った少女。

 彼女は腰の小さな翼をぴこぴこ羽ばたかせて興味深げに車を見ている。


「む。なんだお前は? この場は部外者立ち入り禁止だぞ」


 見慣れぬ少女をメイヤーがジロリと睨んだ。


「まあまあ、ダンディな髭のおじさま。私はとても役に立ちますよ」


 それを軽く流してアメジストは車のボンネットに手を置いた。


 ぽわん、と音がして車体を淡い輝きが包む。


『私は……何故あんなに猛り狂っていたのだろう……』


 突然穏やかな口調になったC,B。

 悟りきったような口調に合わせるかのように排気音も随分静かなものになった。


「おおっ!? 何だ? 何をしたんだ君は……!!?」


 C,Bの突然の変化に教授はえらい慌てている。

 今までに数多くの合成霊人格の矯正の試みはあったが、一度も成功した事はなかったからである。


『今の私は満たされている。心が静かだ……まるで凪の海原のように。今なら穏やかな心地で全てを抜き去り私があらゆるものの先頭を走るだろう』


「……根本的な所が変わってないんだよ」


 ぐったりしてぼやくキリエッタであった。


 ────────────────────────


「まあそんなわけでして。私は輝光界インブレシャイアからやってきました。基本的には皆さんの味方です。仲良くしていただけると嬉しいです」


 相変わらず無表情で淡々と自己紹介を済ませるアメジスト。

 一同は今、格納庫の片隅で木箱を椅子とテーブルにしている。


「天界に神様なぁ。まー今実際に別の世界からちょっかいかけに来ておる連中がいるんだしな。そういうのもあるんだろうが……」


 複雑な表情のメイヤー。

 この世界での人間種族の多くは敬虔な女神エリスの信徒ではあるが、そういった者の中にも女神や天界の実在を信じている者が果たしてどれだけいるのか……。

 恐らく多くの者は漠然と「自らの心の中にあるもの」と解釈しているはずだ。


「クリスティンあたりが聞けば喜ぶかもしれないけどね」


 シスターである仲間の事を思い浮かべてしんみりした表情になるキリエッタ。


「クリスティンさんとは?」

「アタシらの仲間だよ。今ちょっとばかり困った事になっててね……この場にはいないんだけど」


 尋ねるアメジストに答えながらキリエッタは何かを思いついた。


「そうだ。アンタがそんな偉い人(?)だっていうんならクリスティンの事どうにかならないかね」

「まず誤解を解いておきますと私は下っ端ですよ。しがない美少女で偉くはないのです。とりあえずお話をお伺いしましょう」


 そこでキリエッタは彼女が聞いている範囲のクリスティンの身に起こった出来事を説明する。


「おやおやまあまあ、それはまた災難でしたね。そういう話ですと申し訳ないですが私がお力になれる事はなさそうです」

「なんじゃい期待させおって」


 勝手に期待しておいて随分な言い様のメイヤーであるが別段気を悪くした様子も無くアメジストは肩をすくめた。


「たとえ話になりますが航海の途中で船から指輪を落としたらしいので見つけてきてくれと言われたような感じなのです。私の上司にあたる存在ならどうにかできそうな人に心当たりがないでもないですが……。その人を動かすにはとりあえず申請が受理されるまでに数百年。そして申請が通る保障もありません」

「……その頃には全員死んどるわい」


 肩を落として葉巻の紫煙を吐くメイヤー。


「その方はご無事をお祈りさせていただく事としてですね。私は別方面から皆様のお力になりたいと思います」

「是非なってもらおうか。君には聞きたい事が山とあるぞ!!」


 目を輝かせて身を乗り出したドワーフ娘。

 彼女が知りたいのは先程合成霊人格の性格を変えたアメジストの不思議な力についてだ。


 2人が専門的な話を始めてしまったのでメイヤーとキリエッタは会話に加われなくなる。


「ちゃんと金儲けのネタになりそうな話も聞きだしてくれよ」


 そう声を掛けるメイヤーであったが夢中になっているマキナの耳には入っていない。

 やれやれと鷲鼻の男はため息を付いた。


 ────────────────────────


 ロンダン地下、ヴァルゼランの大魔宮。


 最深部……大将軍フォルドーマの前に今1人の魔族がいた。


 青い肌は多くの魔族と共通。

 その容姿は小柄な老人に見える。

 ローブ姿で腰が曲がっており杖を突いている。

 鼻が大きくその下には左右2本の触手を髭のように生やしており、頭部の先端も触手状に長く伸びてカタツムリの殻のように渦を巻いていた。


「何用だ。グロンボルド」


 大将軍の下半身の四足獣は膝を屈して座した状態であるのだが、それでもまだはるか高みからグロンボルドと呼ばれた老魔族を見下ろす大将軍の2つのかお


「大将軍閣下に申し上げまする」


 しわがれた低い声で言うとグロンボルドが頭を下げる。


「ここの所どうにも魔物の消耗が激しすぎますぞ。これでは供給が追いつきません。この爺も流石に消耗してきましたわ」


 グロンボルドは魔物を進化強化し自在に操る能力を持つ。

 現在7つの地上の穴から沸いて出ている魔物たちはこの老魔族の手によるものなのだ。


 ぬう、と大将軍の左面が唸る。


「おォォい! パロドミナスッッ!!!」


 かと思うと右面が虚空へ向けて叫び声を上げた。


「お側に控えておりまするぞ閣下」


 誰もいなかった空間が一瞬蜃気楼のように歪みパロドミナスが姿を現した。


「どうなってるんだ地上はよォ!!? 連中を程良く痛めつけるのにちょうどいい戦力を手配してるはずだろうがァッ!!!?」


 唾を飛ばして荒ぶる右面にパロドミナスは冷や汗を浮べて頭を下げる。


「は、ははっ! そ……それがですねぇ、地上の者たちが最近立て続けに新しい兵器を導入しておりましてですな。どうもそれで魔物たちが蹴散らされてしまっているらしく……」

「……新兵器だと?」


 フォルドーマの左面がギラリと鋭く目を輝かせた。


「奴らがそんなに武装を進化させているとはな……。魔物をぶつけ続けた事が裏目に出たか」

「ですが大将軍閣下が御気になさるようなものでもございますまい。グロンボルド老師もこうおっしゃっておられる事ですし、当面地上は放っておくというのはいかがでございましょう」


 パロドミナスの提案にも大将軍は渋い顔をして首を立てに振ろうとはしなかった。


「いいや。それで奴らが兵器の開発を止めるとは思えん。このまま泳がせ続ければ魔族我らにすら通用するものを生み出す可能性もある」

「……………………………………」


 パロドミナスとグロンボルドが顔を見合わせた。

 お互いに表情で「考えすぎでは?」と語っている。

 ……だが2人とも実際にそれを言葉にはしない。


「メルドリュートもクオンもこんな時に不在か。ならば……パロドミナス、お前が行け。長く地上にいたお前であれば奴らの兵器開発の要所を探り当てるのも容易かろう」

「行ってブチ壊してこいッッ!! 重要人物は殺してこいよ……バカな動きができねぇように念入りになァッッ!! ヒャハハハハハハッッッ!!!!」


 大将軍の左右の面が交互に声を張り上げる。


「承知致しました閣下。万事このパロドミナスにお任せくださいませ」


 恭しく頭を下げたパロドミナスの姿がぼんやりと滲み周囲の光景に溶け込むように消えていった。


 ────────────────────────


 アメジストによる輝光界の謎技術を搭載したマキナ教授の新兵器が配備された事により地上の防衛に当たっている部隊の戦力は大幅に増強された。

 ほぼ作業といっても差し支えの無いレベルで魔物たちは日々駆逐されていく。


 その兵器とは……「スーパー成仏くん」

 あのごんぶとビームの破壊光線を大幅に強化したもの。

 ……当然ネーミングは教授によるものだ。


「……まあ、それは喜ばしい事だ。喜ばしい事ではあるんだが……」


 格納庫のメイヤーは新兵器の資料を眺めながら浮かない顔である。

 そんな彼を意外そうにカエデが見る。


「なんだよ。あれを売りさばいて大儲けしてやるとか言うんじゃないのか?」

「バカタレが、あんなやばいもん国外に出せるか! 世界中メチャクチャになるわい!! どっちにしろあの小娘にもダメだと釘を刺されとるしな……」


 アメジストにはこの兵器は今回の魔族による侵攻に対処するためだけの利用に留める事を約束させられている。

 それが終われば全て廃棄する事も含めてである。

 どちらにせよアメジストがいないと完成させられない兵器なので図面はいくら流出しようが問題はないのだった。


「そもそも私は死の商人になる気はない。傭兵の斡旋はするが兵器は商材にせんよ」

「よくわからんとこで真面目になるよな、オッサンは……」


 そんな2人に向かって作業台から教授が手を振っている。


「おーい! そんな所にいないでこっちに来て見てみてくれ!! 新しいのが完成したんだ!! 名付けて『大いなる裁きくん』だ!!!」


「……なんかもう名前が怖い!!!」


 そう叫んでカエデが顔をしかめて……。


 次の瞬間、彼女は表情を強張らせて目を見開いた。


「教授!!! 危ない!!!!」


 ……その叫びにマキナが「へ?」とポカンとする。


 虚空から射出された赤い光が完成したばかりの新兵器に炸裂し爆発した。

 マキナが爆炎に飲まれる。


「教授ッッッ!!!!」


 そして空中にゆらりと姿を現したローブ姿の魔族。


「いやいやいやいや……困りますなぁ、そう勝手をされては。あなた方は適当に魔物と遊んでくれていればよかったのですよ。余計な事をするから小生がこうして出向いてこなくてはいけなくなってしまったではないですか」


 青い肌の魔族はそう言って口の端を上げた。


「やれやれ酷い目に遭った。髪の毛が少し焦げてしまったじゃないか」


 声は爆発地点から少し離れた場所から聞こえた。

 一同がそちらを見る。


 コテツに抱えられたマキナが手を振っていた。

 鋼のカラクリ兵は主人を救出した時に損傷したものか、左腕が二の腕からもげてしまい破損面からバチバチと火花を散らしていた。


「しぶといですね。あなたの首は持ち帰る必要があるので……悪しからず」


 無事だったマキナを見て黒い目に冷たい光を宿したパロドミナス。

 その魔族へ向けてカエデが無言でクナイを投擲する。


「……おや、こんなオモチャで何がしたいのですかな?」


 パロドミナスはそれを無造作に素手で払い散らす。

 そして魔族がふわりと地上に降り立った。


「飛んでいたのではやり辛いですかな? ならばこのように、ほら、降りてまいりましたぞ」


 両手を広げた魔族……まるで友人を歓待するかのように。

 迷わずにカエデがパロドミナスに襲い掛かる。


 両手に構えた短刀と鍛え上げられた体術で魔族を狙うカエデ。

 高速で舞う刺客の攻撃をパロドミナスが涼しい顔で捌いていく。


「……ふむ、あなたも人間にしてはお強いですな」


 そう言ってパロドミナスはまるで虫を払うように雑にカエデを払って弾き飛ばした。


「ぐっ……!!!!」


 数m飛ばされ呻いてすぐに体勢を立て直すカエデ。

 その頬に冷たい汗が伝う。

 ……ルクシオンならまともに戦えてもやはり自分の手には余る。そう肌で感じて彼女は眉を顰める。


「あまり長居もできませんのでそろそろ終わりにさせていただきましょうか……」


 無数の赤い光がパロドミナスを取り巻くように浮かび上がる。


「すばしっこいあなたでもこれだけの攻撃はかわしきれますまい」

「……………………………………」


 険しい表情のカエデ。

 その表情を見て魔族は満足げに笑った。


「おい」


 不意に……。

 声がした。


「はい?」


 その声のした方向を見たパロドミナスのその頬に拳が炸裂する。


「がッ……は!!!!!」


 血を吐きながら吹き飛んだ魔族が壁に激突した。


「なっ、なんです……!!!?」


「お、お前……」


 頬を押さえたパロドミナス。

 立ち尽くすカエデ。

 奇しくも両者は同じ驚愕の表情でそこに立つ男を見る。


 ……そこに立つ、小柄な赤い髪の男を。


「……ホレ見ろ。心配なんぞいらんだろうが」


 現れたクリストファー・リューを見てメイヤーはそう呟いてニヤリと不敵に笑うのだった。


 ────────────────────────


「リュー!!!」


 叫んだカエデを一瞬ちらりと見るリュー。

 今は再会の挨拶を交わしている余裕はない。


 たった今一撃を入れた相手が体勢を立て直している。


「リュー……そうそう。クリストファー・リューさんでしたねえ、確か」

「久しぶりだ。あの時は世話になったな」


 自然体で立ち近付いてくるパロドミナスに対峙するリュー。

 2年ぶりの邂逅。

 あの日……クリスティンがこの世界から消えてしまったあの日以来の。


「なるほど、この2年随分と鍛えてらっしゃったようですな。小生が人間からまともに攻撃を受けるのは実に数百年ぶりですよ」


 魔力を再生に回したパロドミナス。

 頬の傷は見る見るうちに癒えていき流れた血も霧散する。


「間もなくお前は……」


 腰を低く落としてリューが構えを取る。


と思うことになる」

「ほう……?」


 嘲るように表情を歪ませたパロドミナス。


「それは随分な自信ですな。ですが……」


 パロドミナスの両手が赤黒い蜃気楼のようなオーラを纏った。


「そう思うとおりにいきますかな……!!!??」


 踊りかかってくるパロドミナス。

 赤手から繰り出される無数の攻撃が雨霰のようにリューに降り注ぐ。


 躊躇わずにリューは前に出る。

 攻撃の弾幕の中へと身を投じる。


「…………………っ!」


 パロドミナスの表情が変わった。

 余裕の笑みがその口元から消えた。

 自らの攻撃を眼前の赤い髪の男は巧みに両手で防ぎ捌いていく。

 数発は彼を掠めて傷を付けたがどれも浅い。満足なダメージを入れる事ができていない。


(こ、この男……何故!! 死に物狂いでやったとて人間が2年でこれほど強くなれるはずが無い!!!)


 初めてパロドミナスの表情に浮かんだ焦り。

 ……ずっと人に化けて人に混じって暮らしてきた。

 人間の事はよく知っている。

 鍛えれば強くなるその変化の度合いもよく知っているはずだ。

 だからこの男の変化はありえない。


 不得意な近接戦闘。

 あえて相手の土俵で叩きのめしてやるつもりがその判断は大きな誤りであった。


 パロドミナスの姿が揺らぎ消失する。


 そして数m離れた場所に魔族は再び姿を現す。


「……なッ!!!??」


 その瞬間に魔族は目を見開いた。

 転移したその場にリューの拳があった。


 再度の転移。


 そして離脱した先をまた赤い髪の男が強襲する。

 青い肌の頬が引き攣る。


「馬鹿な……ッ!!!」


 ……間違いない。

 この男は転移先を察知している。


 これはリューの持つ異能、感知するオーラによるもの。

 転移したものが姿を現す時、コンマ数秒前にその空間には魔力によるゆらぎが生じる。

 それをからリューは教わった。

 そのゆらぎをオーラで察知して仕掛けているのだ。


「おのれクリストファーッッッ!!!!」


 オーラを纏った真紅の手刀が襲い掛かってくる。

 それを紙一重で回避してリューはパロドミナスの懐に入った。


 握ったリューの拳に力が篭る。

 ……これは、2年前あの時の忘れ物だ。


 ほんの一瞬の静寂。

 1秒にも満たないわずかなその瞬間に両者の殺意の視線が交差する。


 クリストファー・緑の渾身の拳がパロドミナスの胸板に飲み込まれた。


「がはッッッ……!!!!!」


 激しく血を吐きながら後方へ吹き飛ばされたパロドミナス。

 床に叩きつけられた彼は一度跳ねてうつ伏せに投げ出される。

 一瞬遅れ、床に血飛沫が舞い落ちた。


「うぐっ……グ……」


 顔を伏せたまま呻く魔族の耳にコツコツと靴音が近付いてくる。


 倒れ付すパドロミナスのすぐ頭の横に立った赤い髪の男。


「ふっ……フフ、いやはや……まったく……」


 震えながらようやく顔を上げるパロドミナス。

 吐いた血で汚れた口元に苦笑が浮かぶ。


「……あの時に殺しておくんでしたよ、クリストファー」


 そういい残すとパロドミナスの姿がぼやけその場から消えたのだった。

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