第4話 地下の王国グロックガナー

 時刻は宵の口。外国の料理を出す高級な店。

 品のいい音楽の流れる店内にバン!と机を拳で殴りつけた大きな音が響いた。


「くどいぞ、フェルザー!!」


 怒鳴り声を叩きつけられた男……フェルザー・ミューラーは表情もなく父を見ている。

 料理と酒の並んだテーブルを挟んで向かい合っている父と息子。


「考え直してください、父さん。どうかもう1度捜索隊を……」

「ダメだと言っているだろう!!!」


 激昂しているザグレス・ミューラーが唾を飛ばしてがなり立てる。


「捜索隊ならもう出した!! そいつらだって戻ってこないだろうが!! いい加減にしろ、兵隊だって無尽蔵に沸いてくるわけじゃないんだぞ!!」


 護衛と共に遺跡の探索に向かったザグレスの息子の1人であるハインツ・ミューラーの期間予定日からはもう一週間が経過している。

 組織から精鋭を捜索隊として派遣したが彼らも音信不通になってしまっていた。

 ……否、フェルザーはそう聞かされている。

 それが父の狂言であり、実際は捜索隊など出ていなかっという事を彼が知るのはもう少し後のことだ。


 兄であるフェルザーの焦燥は日に日に大きくなっていった。


「この件で何人兵隊を無駄に潰したと思っている。ロクに家業を手伝いもしないにばかりかまけているドラ息子にだ!! もうあいつの面倒は見切れん!! これ以上組織から兵隊を出すことは許さんぞ、いいな!!」


 最後までわめきながらザグレスは店の戸を叩きつけるように乱暴に閉めて出て行った。

 閉ざされた戸をしばし無言で眺めていたフェルザーだったが、やがてこめかみの辺りに右手を当てると重たい息を吐き出す。


「……実に虚しい。あれが自分の血の繋がった肉親だと思うとな」


 それは独り言ではなく、フロアにいた3人目の男に向けたもの。

 その男は窓辺に立ち外を向いている。

 黒髪に黒服の上下の体格のいい男だった。

 ……顔は窓の外の景色に向けられていて年齢がよくわからない。

 足元には1匹の大きな黒豹が寝そべっている。


「そうは言うが君の父上殿は人の権力者としてはごくごくありふれたタイプだよ。極めて平均的だ」

「ならば世も末だ。君が言うのならそうなのだろうがな……」


 憂鬱そうにフェルザーが椅子に深く座り直す。


「では君の気が晴れるような話をしようか。『赤い髪の死神』が今この国に向かってきている。数日中には入国するだろう」

「……ほう?」


 視線を上げたフェルザー。

 その目に幾ばくかの輝きが戻った。


『赤い髪の死神』

 会った事も無い男だがその名はよく知っている。

 ある組織の凄腕の暗殺者だった男。

 そして自分の顔も知らない兄の仇であるとされている男だ。


「それは朗報だ。是非父にも知らせてやらなくてはな……」


 口元に冥い笑みを浮かべフェルザーはグラスを傾ける。

 恨み骨髄である赤い髪の死神が自分のお膝元に姿を現したとなれば父はどういった行動に出るか……。

 まるで現場を見ているように鮮明にその光景をフェルザーは思い浮かべる事ができる。


 ……それはクリスティンとリューがフィロネシスに入国する数日前の出来事であった。


 ────────────────────────


 ロンダン地下遺跡2層入口にて2体の蟲熊……インセクトベアを屠ったクリスとリュー。

 頭部を失ってもがいていた魔物が動かなくなるのを確認してから長い階段を上がって階上に顔を出す。


「終わりました! 開けて下さい。……ヒューゴさーん、行きましょう」

「はァ!!??」


 手を振るクリスティンに驚愕して顎が外れそうなほど大きく口を開けて目を剥いているヒューゴ。


「終わったって……オイ、もうやっちまったってか? 蟲熊を? お前らが?」

「はい。2匹いましたけどもう大丈夫です。倒しましたので」


 クリスの言葉に背後の冒険家たちが「2体だと……」「信じられん」等とざわめいている。

 続いて上がってきたリューが抱え持っていた何かを床に投げ出した。

 ドスッと重たい音を立ててが床に転がる。

 大人の一抱えほどもこげ茶色の塊……触覚に複眼、それに大きな顎がある。

 リューが蹴り落とした蟲熊の頭部だ。


 ……おおっ、とフロアの人々がどよめいた。


「でしたら、遺骸はこちらで買い取りますよ。爪や表皮や一部の臓器など高額でお引取りします」


 管理局の職員がそう言うとクリスはいやいや、と首と手のひらを振って謝絶した。


「あ、私たちは必要ないので皆さんでお好きになさってください。階段下りた所に倒れてます」


 では、とぺこりと頭を下げてクリスとリューは再び階段を下りていく。


「おいおい、凄えのを連れてきたじゃねえかよ」


 顔馴染みの冒険家に言われヒューゴは頬を伝う汗を手の甲で拭う。

 いつの間にか鼓動が早くなっている。

 それを自覚しつつ無精ひげのエルフがニヤリと笑った。


「……ああ。一流だろ?」


 もう何十年も忘れていた胸の昂ぶりを感じつつ2層へ向かうためにヒューゴは鉄格子の戸を潜るのであった。


 ────────────────────────


 ロンダン地下遺跡、第2層。

 ここはまだ地上の都市で言う所の城塞にあたるエリアであり居住区画はほんのわずかでフロアの多くは外敵に備える構造になっている。

 そんな事を歩きながらヒューゴは2人に解説していた。


「……つまりだ。身分が高く裕福なヤツほどここじゃ下層で暮らしてたってワケだな。敵が攻めてくるとしたら上からだからな。上層はトラップが多く兵士の詰め所があちこちにある」

「なるほどなるほど」


 得意げに説明しているエルフに聞き入っているクリスティン。

 リューは油断なく周囲に注意を払いつつ2人の後方を歩いている。


「……お前さんたちにゃ詫びなきゃならねえな」

「はい?」


 エルフの声のトーンがやや沈んで落ち着いたものに変化する。

 そんな彼を不思議そうにクリスが見た。


「正直よ、お前さんらの腕前にオジさんは懐疑的だったぜ。2人ともまだ若えしよ。本当に頼りになるのか?ってな……。それがまさかこんな凄腕だとはな。悪かったぜ」


 自嘲気味に笑って鼻の頭を指先で掻くヒューゴ。


「気にする必要はない。俺は今でもお前の探索者としての技量に懐疑的だ」

「……おふッ!」


 辛辣なリューの言葉に変な声を出してヒューゴがつんのめった。


「おおっと……」


 3人の目の前に現れたのは巨大な石の扉だった。

 その石扉の脇の壁に細かい文字が刻まれ記号の付いた無数のキーが配列されている石板がある。


「んじゃオジさんのお仕事っぷりをちょいと見てもらおうかね。何々……? 『暁に神の座』か。これは最初のキーは左っていう意味でな。古来の宗教画だと常に神が描かれてたのは画面の左側なんだよ。左が神サマの定位置ってわけだな」


 言いながらもヒューゴの指が高速で石のキーの上を走っている。

 指先が触れたキーに描かれた記号はどういう仕組みになっているのか都度淡い輝きを放つ。

 やがて石扉表面の大きな紋様が輝いたかと思うとズズズズ、と重たい音を立てて扉が左右に開き始めた。


「ま、こんなもんは基礎中の基礎でドヤ顔するようなもんじゃないんだけどな」

「いえいえ! 凄いですよ。こんな大くて重そうな扉を……」


 感心しながらクリスティンが開いた扉の縁を掴んだ。


「んんんん~~~~…………ッ!!!!」


 彼女が力を込めて引っ張るとズズズズ……と石扉が閉じていく。


「いや、動かせるんかい」


 カクンとヒューゴが肩を落とした。


 ────────────────────────


 実際の所、ヒューゴの知識と技能に関する2人の不安は杞憂であった。

 その後の探索行で彼は遺跡の先導者としての優秀さを遺憾なく発揮してクリスティンたちを驚かせるのであった。


 並みの探索者パーティーであれば障害となって足止めを受ける事になるであろう難解な遺跡の機構と凶悪で強い魔物たち……クリスティンたちは力を合わせてそれらを突破していく。


 こうして彼らが2層の探索を開始してより数日が経過した。


「1層2層にはもうオジさんたち研究者連中にとっちゃ旨みのあるもんはほとんどないんだ。前言った通りな。その辺はトラップだらけで価値あるものは遺されちゃいない。だから皆とにかく下を目指す。ハイツだってそうしたはずだ」


 簡易キャンプで休憩中の一行。

 携帯食を口に放り込んで咀嚼しながらヒューゴが喋る。

 クリスティンたちはここまでの道中数組の他の探索者たちと行き会い情報交換をしてきている。

 ハインツの目撃情報や壊滅したパーティーの情報等は今のところ聞こえてこない。


「……で、だ。ここまで進んでオジさんが感じたことは、多分もうハインツは2層にはいねえな」

「3層に行ってるって事ですよね?」


 ほぼ味の無い携帯食料の不味さにクリスは微妙な表情だ。


「ああ。ビギナーの探索速度にしちゃ早すぎでちょっと信じられねえが、実際オジさんたちも初探索でここまできてるしな。絶対あり得ないって話じゃあない」

「遭難しているのではなく、今も探索を続けている可能性もあるという事か」


 リューの言葉にヒューゴがうなずく。


「帰還予定日を守る気があるのかどうかってのは良識の有無で人間性の話だからなぁ。その辺は会った事ねえオジさんたちじゃわからんな」


 それに、とエルフは更に続ける。


「どうにも引っかかってる事がある。2層の道程がオジさんが想定してたよりも随分楽だ。この感じで3層が『幻の』なんて言われるもんかなぁ……」


 楽、とは言ってみてもそれはあくまでもこのパーティーにとってはという意味である。

 実際には彼らは険しい道程を越えてきているのであるがヒューゴはもっと辛い探索行を想像していたらしい。


 ……そして、それから2日後。


 クリスティンたちは遂に3層への階段を見つけ出した。


「………………………………」


 下層へと続く長い階段を目の前にしてしばし言葉もない一行。

 特にこの日を長年夢見てきたヒューゴの脳裏には今日までの様々な記憶が去来していた。


『俺はなぁ、いつか3層もその先も自分の足で辿り着いて踏破してやっからよお!』


 酒場で飲んだ暮れていた頃の自分の言葉を彼は今思い出している。


『お前はその前にまず遺跡に入れてもらうとこからだろうよ、教師ティーチャー!』


 そしてそれをはやし立ててバカ笑いしている知人たちの声も。

 妻も子供たちも去っていってしまい、1人になってもずっと諦めきれずに追い続けた夢であった。


(本当に……来ちまったぜ)


 目の前の景色が揺らぐ。

 潤んだ瞳を乱暴に手の甲で拭う。

 まだ自分は入り口に立っただけなのだ。

 ……感傷に浸っている場合ではない。


「……行くぞ」


 先に立つ赤い髪の男が階段を下り始めた。

 クリスティンとヒューゴもそれに続く。


「…………んんんん????」


 階段を下り始めてすぐにヒューゴの表情は希望に満ち溢れた軽い興奮状態のそれから微妙なものに変化していった。

 何か酷く不可解なものに遭遇したかのような……そんな怪訝そうな顔付きに。


「どうしました?」

「いや……」


 クリスティンには軽く首を横に振って否定するも彼の胸中の疑念はどんどん大きくなっていく。

 そしてそれは階下に到着した時に確信に変わった。


「んがぁ! やっぱりだ!! おかしいぞこれぇ!!?」

「うわわ、なんでしょう!?」


 背後で叫ばれたクリスは飛び上がった。

 ヒューゴは通路の石壁を掌で撫でている。

 指先から伝わる冷たい石の感触も彼の疑念が思い過ごしではない事を肯定していた。


「新しいんだよ! 階段の途中からおかしいと思ってたぜ2層までと明らかに年代が違う!! この壁なんてとても千年近く昔のもんじゃねえ……せいぜいがここ2,300年くらいの年代のもんだ」

「そうなんですか。ちょっと感じが変わったかなみたいには思いましたけど……」


 クリスティンからすればそこまでの年代の違いは見てもわからない。

 少々雰囲気が変わったかと言う程度の微かな違和感はあったが……。


 ヒューゴは乱暴に頭をバリバリ掻いて目を血走らせ周囲を見回している。


「……どういう事なんだ、オイ!? なんで急に途中から500年以上も年代が飛んでんだよ」

「しっ……」


 それまで黙っていたリューが軽く右手を上げて後ろの2人を制した。

 クリスとヒューゴは咄嗟に呼吸を止めて全身を硬直させる。


「開けた場所に出る。誰かがいるぞ」


 感知するオーラで進む先を走査サーチしたリュー。

 そのまま赤い髪の男は無造作に通路の先のフロアへ立ち入った。


 そこでは簡素な木造のテーブルを挟んで2人の男が向かい合って座っていた。

 ……2人とも人間種族ではない。


 身長は1m4,50といったところだろうか。

 背は低く手足や胴は太く短い絶対的にずんぐりしたシルエットだ。

 手袋をしているかのような大きな手に節くれだった太い指。

 どちらも顔の下半分を覆い腰近くまである長い髭を生やしている。


(……ドワーフ族)


 声には出さずにリューがその亜人種の名を思い浮かべる。

 ドワーフは地の神を信仰する種族。

 力が強く頑健で見かけによらず手先が器用である。

 鉱脈を見つける能力に長けており鉱夫をしている者が多い。


 黒い髭と灰色の髭の2人のドワーフ。

 彼らは将棋かチェスのような盤上のマスに駒を置く遊戯に興じており入ってきたリューにも少しの間気付かなかった。


「……ン? おい客だ」


 やがて黒い髭のドワーフがリューに気付く。

 ちょうど続いてクリスティンとヒューゴもフロアに入ってきたところだった。


 そこは簡素で生活感のあまりない詰め所のような部屋であった。


「ようお疲れさん。……ああん? 新入りか? お前ら。……うーむわからん。人の顔は見分けがつきにくいな!!」


 黒髭のドワーフはそう言って木製のパイプをフーッと燻らせた。


「新入りだろうよ。男衆はともかくそんなでっけえ姉ちゃん来た事なかったろうが!」


 灰色の髭のドワーフも大声を出すと木製の大ジョッキをぐいっと煽った。


「細っせえ腕してんなあ? ちゃんと肉食ってんのかあ?」


 先頭に立つリューの身体をジロジロ無遠慮に眺めながらテーブルの引き出しから何かの紙を取り出す黒髭。


「こっから先ぁな、オラたちの国だ。オラたちのルールを守れるなら好きにしてもらっていい。ダメなら入れるわけにゃあいかん!」


 ドワーフを出した紙は誓約書のようなものであり、要約するとドワーフの国の法に従い破れば彼らの法で裁かれることに同意するという内容のものであった。

 その他にも外でこの国の存在を口外しないという項目もある。


(なるほどな。『幻の3層』か……)


 リューが何故誰も3層に辿り着いたとい者が名乗り出てこないのか、その真相を知る。

 彼らは皆、この取り決めを守って口を噤んでいるのである。


「オイオイオイオイちょっと待ってくれよ! ここは大昔の遺跡だったはずだろ? それがなんでドワーフの国になっちまってんだよオイ!」


 唾を飛ばしてまくし立てるヒューゴ。

 そんなエルフをドワーフ2人が胡散臭げに半眼で見る。


「なんでって、そりゃあなあ?」

「んだ。オラたちが見つけてねぐらにしただけだ」


 灰色髭のドワーフが立ち上がるとのしのしと窓に歩み寄った。


「見てみい。オラたちの王国『グロックガナー』だ」


 3人が窓から外を見る。


「……っ」


 言葉を失うクリスティン。

 そこから見える光景に圧倒される。


 如何なる仕組みでか……地下なのに真昼のように明るく照らし出された広大な空間。

 そこに確かに『国』があった。

 高低差の大きな町並みに遠く無骨ながら巨大な城も見える。

 そして街を行く多くのドワーフたち。


「……お、お、お、お前ら……これ3層をぶち抜きやがったな」


 震える手で窓の外を指差すヒューゴ。

 確かに彼の言う通り3層のみを利用した国にしては『高さ』がありすぎる。


「んだ。3層の床を取っ払ってな。吹き抜けにして作った国だ」


 うんうん、と肯く灰色髭。

 ヒューゴはへなへなと床に崩れ落ちた。


 彼らの説明はこうだ。


 今から二百数十年前に鉱脈を掘り進めていたドワーフの一団がこの遺跡を掘り当てた。

 彼らが横壁を突き破って入ってきたのがこの3層だ。

 そしてドワーフたちは拠点に丁度いいと集団で移住してきてここに国を建てたというわけだ。

 年月をかけて少しずつ遺跡を改装し遂には3層と4層を直結させてしまった。


「なるほど、道理で上には皆さんの痕跡がないわけですね」


 納得するクリスティン。

 彼らは横から遺跡に侵入したのである。


「……でもよお、こんな跡形も無く改装しちまう事はねえじゃねえかよ」


 床に座り込んでしまったヒューゴがぶつぶつ言っている。


「オラたちが暮らしやすいようにすんのは当然だろうが」

「んだ。お前ぇらのもんってわけじゃねえだろ。早いもん勝ちだ」


 肯きあうドワーフたち。


「それにオラたちが暮らしてるのは3層と4層だけだ。その下はまだ手付かずだでよ」

「んだんだ。そっから下はあんまいい鉱石いしも出ねえでな」


「……!!」


 その言葉に目に輝きを取り戻したヒューゴが勢いよく立ち上がった。


「下だと!? 4層よりもまだ下層があるってのか!!??」

「あるぞ。お前らのお仲間が今必死こいて潜ってるぞ」


 興奮気味のエルフの問いを肯定する黒髭。


「なるほどなぁ。そりゃ全員律儀にこの国の事を黙ってるわけだ。5層の探索すんのに拠点としてここを利用しねえ手はねえからな……」


 腕組みして嘆息しつつ得心がいったと肯くヒューゴである。


「その話は一旦忘れろ。俺たちがここへ来た理由を忘れるな」


 ヒューゴに釘を刺すとリューは荷物からセピア色の写真を1枚取り出した。

 ハインツを写したものだ。

 それをドワーフたちに見せる。


「俺たちはこの男を捜しに来た。見覚えはないか? この国に来た可能性が高い」


 写真を受け取ったドワーフたちがそれをまじまじと眺めた。


「んだコイツはモヤシみてえなやつだな。ん~~~~、どーかな……地上人の見分けはどうにも付かねえなぁ」


 黒髭が首を捻っている。


「なあこのモヤシ、あれじゃねえのか? ホラ、例のよ……」


 灰色の髭のドワーフが言うと黒髭も何事かに思い至ったらしい。

 2人のドワーフがジロリとクリスティンたちを見る。


「お前ぇら、コイツの仲間なのか?」


 明らかに先程までより態度を硬化させて黒髭が問う。

 空気がピリついた事にリューもクリスも気付く。


「仲間ではない。この男を捜して欲しいと依頼を受けてきた者だ」


 慎重に言葉を選びつつ答えるリュー。

 ……場合によっては戦闘になるかもしれない。

 頑健で力が強いドワーフ種族は優れた鉱夫であると同時に優れた戦士でもある。


 どうする?というようにドワーフたちが顔を見合わせている。

 やがて黒髭がリューに写真を返した。


「そんなら気の毒だがよ、仕事は失敗したって報告すんだな。そいつは連れて帰れねえよ」

「どういう事だ?」


 赤い髪の男の問いに、黒髭のドワーフはもじゃもじゃの太い眉毛の下の目をやや細めた。


「そいつはな……大罪人だ。今捕えられて牢にブチ込まれとる」


 ……そして低い声で厳かにドワーフはそう告げたのだった。




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