第20話 やってきた妖精王

 敵であろうとなるべく命を奪うことはしたくない。

 とはいえ生かすのだったらそいつらのその後はどうするのか。

 ……クリスティンは悩んでいた。


「う~……難しいです」


 困り果てた表情でもうとっくに冷めてしまっているスープをスプーンでかき混ぜているクリス。

 そんな彼女を正面に座ったルクシオンが見ている。

 現在この砦には四人の魔族ヴァルゼランが捕えられている。

 捕えられている……? そうは言えない状況の者もいる気がするが広義にはそう言って差し支えないだろう。


 リーダーであるフォルドーマ。

 今はリューの修行相手をしているクオン。

 魔物を操るという触手の老魔族グロンボルド。

 なんか自分の毒で弱っているショルドワ。

 ……彼らの処遇をどうするのか?

 生かせというのならクリスティンがそれを決めなければならないのだった。


「そもそも殺さないでっていうのも立派な思想とかそういうのがあっての事じゃないですからね。単に何となくイヤだって言う私のワガママで……」


 ため息を付くクリスを見ながらカップを口に運ぶルクシオン。


「……別にいいんじゃない?」

「はひ?」


 カップをソーサーに置いて不意に口を開いたルクシオンにクリスが顔を上げた。


「ワガママでいいんじゃない? 別に誰もクリスティンに聖人になれだなんて望んでいないと思うわ。貴女がそうしたいのだから生かす。貴女がそうしたいのだから手下にする……そして暴れる。それでいいじゃない」

「ルク……」


 瞳を潤ませてルクシオンを見るクリスティンの脳裏にほわんほわんと場面シーンが思い浮かんでくる。

 それは荒れ果てた大地を土埃を上げて爆走する一団。

 集団の中央にいるフォルドーマが担ぐ神輿には玉座が据え付けられておりそこにクリスティンが座って高笑いしながらふんぞり返っていた。


「……いや、暴れませんけど!! 手下にもしませんし!!!」


 そして慌てて訂正した。


「それは例え話。好きにすればいいってこと」


 ルクシオンは落ち着いている。

 例の事件の後でクリスティンたちの仲間になったルクシオンであるが、それからは何についても若干上の空というかどこか他人事のように立ち振る舞うのが常であった。

 しかしクリスティンの相手をする今の彼女は普段よりも少しだけ嬉しそうに見える。


「どんな選択をしようと私は最後までクリスティンの味方。それだけは変わらないから」

「ルク~……」


 可能であれば今すぐルクシオンを抱きしめたいクリスティンであったがテーブルを挟んで向き合っているのでそうもいかない。

 結果として大きく前のめりになる。


「皆が満足するような結論は最初からないわ。だから、後悔だけはしないようにね」


 身を乗り出してきたクリスの頬の食べかすをルクシオンがハンカチで拭った。


 ────────────────────────


 そうして、クリスティンは今日も再びフォルドーマの浸かっている水槽の前にやってきた。


「と、いうわけでして皆さんは処刑とかはナシで何かしてもらう事になりました」


 これにはさしもの大将軍フォルドーマも困惑の色を隠しきれない。

 彼は居心地が悪そうに骸骨同然に痩せこけた巨体を揺るがす。


「おかしな奴だ」

「どう考えても処刑するとこだろうがよ……そこはよォ」


 左右の面が交互に戸惑いの言葉を口にする。

 戦いに敗れた者には死あるのみ、それが魔族の通念でありフォルドーマもそれを逃れようとは思わない。


「いいえ、それはしません」


 だが迷いの無くなったクリスティンは力強く肯くのだ。


「何か私がイヤなので……!!」


 格納庫内が静まり返った。

 誰も何も言おうとしない。

 だって、何かヤダと言われたらもうどうしようもないのである。


「……それで、我らを殺さず何をさせるつもりなのだ」


 1分以上経ってからようやくフォルドーマが口を開いた。


「それなんですが、色々考えてきたんですよ。でもどうしても引っかかる部分があって……」


 ファイルを取り出したクリスティン。

 彼女は困った表情で手にしたペンの尻でこめかみを掻く。


「大きすぎるんですよね。その、フォルドーマさんの身体が。その辺もうちょっとどうにかならないですかね?」


(なるわけねえじゃろ……!!!)


 それまで無言でやり取りを聞いていたグロンボルドがやはり無言で突っ込んだ。


「まあ、ならんこともないが」

「えっ!? なるの!!?」


 今度は声に出して突っ込んでしまった老魔族。

 すると俄かにフォルドーマの浸かる水槽が細かく振動を始めた。


「我が二つ名は『変幻するもの』……姿は自在に変えることができる」


 縮んでいくフォルドーマ。

 全高5m以上だった巨躯は見る見るうちに30cmほどまで縮んでしまった。

 見た目も単にサイズが小さくなっただけというのではなく、何だかコミカルでファンシーな……言うならばマスコットのようなというかぬいぐるみのようなというか。

 腕が四本顔が二つなのはそのままだが、その顔も犬と熊のような動物の顔になっている。


「普段の姿は戦闘力と威厳を重視したものだ。このように本来わしは定まった形状かたちを持たぬ者よ」

「おおー、いいですね! 可愛らしくていいと思います。前のお姿はちょっとおっかなかったですし……。お顔が二つなのは一緒なんですね?」


 クリスティンの問いに小さいフォルドーマが両方の顔でうなずいた。


「威厳を保って喋りたい時とぶっちゃけて喋りたい時があるからな」

「キャラ崩せねえなら最初から二つのキャラでいきゃァいいってこった! ヒヒヒッ!!」


(そんな理由でアンタ顔二つだったんかい)


 何とも言えない気分で二人のやり取りを聞いているグロンボルドだ。

 交互に二つの口調で話しかけられるのは聞いてる方としては落ち着かないのである。


「よしよし。とりあえずフォルドーマさんの方はこれでOKですね。それじゃ次にイカのお爺ちゃんなんですけど……」

「イカじゃないつーに」


 半眼でボヤく老魔族。


「何かこうアピールポイントみたいのがありましたらどうぞ」


 面接のようになってきた。

 おほん、と仰々しくグロンボルドは咳払いをする。


「ワシは『歪ませるもの』グロンボルドじゃ。歪ませるといってもそれは物理的な話ではない。ワシが干渉して変質させてしまえるものはその生き物の『在りよう』……生き物をこちらの望む方向に進化させ習性を変えて自在に操る事ができるのじゃよ。どうじゃ、恐れ入ったか?」

「……すいません。もうちょっとわかりやすくお願いできますか」


 いまいち理解ができていない感じのクリスティン。

 身を乗り出し気味に唾を飛ばしてグロンボルドがまくし立てる。


「つまりもう割となんでもありって事じゃ! 魚を空飛ぶようにもできるし鳥が火を吐くようにもできる! そんな風に生き物を好き勝手に作り変えて操れるって事じゃい!!」

「すごいですねえ……」


 素直な賞賛を浴びて若干頭が冷えたのか触手の魔族は椅子に座りなおして一息ついた。


「……とはいえ能力の行使には条件がある。知性のレベルが一定以下の生き物にしかワシの力は通じんのじゃ。必然的に対象は獣か魔物になる。獣もサル程度に賢くなったらもうダメじゃ」

「という事はイノシシはOKって事ですよね。それだけで私にとっては神様のような能力ですよ」


 あくまでもイノシシを敵視する女、クリスティン。

 その彼女のイノシシへの怒りの出所がわからない老魔族は怪訝そうな顔をするばかりだ。


「お爺さんも何かやってもらえそうとして……後はショルドワさんですか」

「あいつはいいぞ。かなりイイ」


 話に割って入ってくるマキナ教授。

 ちなみに毒を使う魔族ショルドワは多少回復してきてはいるものの相変わらずベッドの住人である。


「あいつの能力は体内で自分が考えた効果の毒を精製するというものだ」

「そう聞くと随分おっかない能力のように……」


 クリスの言葉に教授がうむ、とうなずく。


「毒と聞けばそういう意見になるのはしょうがない。だがなクリスティン。毒と薬は紙一重なのだよ。望んだ効果の毒を生み出せるということはそのまま望んだ効果の薬を作り出せるということでもある。例えば体内の悪性の腫瘍のみ限定的に減衰させたり消滅させたりできる毒があればそれは立派な薬だろう? 奴の存在がこの世の多くの難病患者を救う鍵となるかもしれないぞ」

「すばらしいじゃないですか! そうですそういうの欲しかったんですよ! 私たちと平和的に共存できそうな切っ掛けになりえるようなそういうのを!!」


 興奮気味のクリスをまあまあというように宥める仕草をする教授。


「……と、ここまではいい事ばかり言ったが当然そう都合のいい話はないのだよ。この話には大きな障害がある」

「うぇ」


 ヘンな声を出すクリスティン。

 教授はため息と共に肩をすくめる。


「ここ数日何度かショルドワと話をしてるんだが……あいつ、とてつもねえブッ飛んだバカなのだ」

「とてつもねえブッ飛んだバカ!!??」


 裏返った声でクリスティンが復唱する。


「うむ。私はバカにもそれなりに理解と耐性があるから平気だったが、バカ耐性ない奴が会話したらショックで気絶するかもしれん……そのくらいにはバカ」

「………………………」


 絶句するクリスの肩を教授がぽんぽんと叩いた。


「ま、幸いといっていいのかわからないが奴らは数千年とかいうレベルの寿命があるようだし気長にやるとしようじゃないか。もしかしたら私たちの曾孫のそのまた曾孫の代くらいにはどうにかなってるかもしれんよ」

「めっちゃ遠い……」


 虚ろな目になるクリスティンであった。


 ────────────────────────


「……それで、結局どうなった」


 棒付きアイスキャンデーを舐めながらクリスティンの話を聞いていたクオン。

 まだ寒い時期だというのに相変わらずの夏服でアイスを食べている彼女はなんとも寒々しい。


「はい。それで団長さんにも色々と相談に乗ってもらってですね。皆さんには開拓のお手伝いをして頂こうかと」


 ちなみに今はリューとクオンの修行の合間である。

 涼しい顔でアイスを舐めているクオンの足元には立ち上がることもできないリューが仰向けに転がって荒い息を吐いていた。


「ここからはかなり離れた場所なんですけど畑をやったり酪農したりするのに適した土壌の豊かな土地があるんですよ。でもその付近は凶暴な魔物たちが縄張りにしていて今は私たちは近付けません。そこをイカのお爺ちゃんの力で魔物には大人しくしてもらってですね。新しい街を作りたいんです」

「人間と一緒にか? 軋轢が生じると思うが」


 表情を変えずに前方を見ているクオン。

 彼女の視線の先にはロンダンの市街が広がっている。

 多くの人間の暮らす街の景色が。


「そこは考えてあります。当面は魔族の皆さんは獣人の皆さんと一緒に開拓を行ってもらうつもりです。クオンさんご存じないと思いますけど人と獣人も何というか……微妙に上手くいってないんですよ」


 ふぅ、と物憂げなため息をつくクリスティン。


 近年、人間は大幅に数を増やし世界に勢力図を広げつつある。

 他種族の多くはその煽りを受けており特にその影響が大きいのが獣人種族であると言われている。

 人類圏で生活する獣人の内人と上手く馴染んでやっている者は一部であり距離を置いている者が多数……そして犯罪に走る者も多く社会問題となっている。


「獣人さんたちなら見た目もかなりバリエーション豊かなので魔族の人たち混じっても目立たないですしね。基本的に強い人の言うこと聞くみたいな考え方の人が多いから強い魔族の人はまとめ役としてピッタリですし」

「隔離地区を作るということか」


 そのクオンの台詞にクリスティンはやや表情を曇らせた。


「いずれ人の暮らす街との交流を始めたいと思ってはいるんですけどね……。いきなりだとそれは難しいと思うんですよ。怖がってる人多いと思いますし」


 その辺りは魔族と獣人に共通している。

 獣人を恐れている人間も多い。

 なにしろ何かあれば彼らは常人よりも優れた身体能力を有する者がほとんどなのだ。


「焦らず慌てず少しずつ……まずは平穏に暮らしていますという所を見せて過剰な警戒心を払拭していけるようにしたいです」

「それをフォルドーマたちが呑んだのか」


 少しだけ意外そうに言うクオン。


「はい。まあしょうがないか、みたいな感じで」

「そうか。あれも大分変ったな」


 感慨深げに棒だけになったアイスを最後に一舐めしたクオン。


「それにしてもこのアイスというものは美味い。ラーメンよりも美味いぞ」

「何ィ!!?」


 足元に転がっているリューが剣呑な眼光を放つ。


「ま、まあまあリュー……」


 慌ててリューを宥めるクリスティン。

 その辺は個々の味の好みの話だからどうしようもない。

 とはいえ自らのラーメンが安価な駄菓子に劣ると言われれば彼が気色ばむのもわからないではないクリスである。


(というか、クオンさんって味の好みが大分お子様なんですよね……)


 基本的には食事よりおやつを好む傾向にあるようだ。

 アイスだけでなくチョコやケーキなどもとてもお気に入りである。

 その辺は少女のような外見によく合っている。

 実際中身は数千年を生きる魔族なのだが。


「こんにちは、美少女です」


 そんなクリス達に近付いてきたのはアメジストだ。

 相変わらずこちらの異界の少女も飄々としている。


「……お客様ですよ」


 そんな彼女が連れてきた者とは……。


「ジュピター様!!!?」


 驚いて飛び上がったクリスティン。

 アメジストの背後に立っているのは学者か魔術師かというローブ姿の長身の男であった。


 容姿は涼やかな美形である。実年齢はともかく外見は若い。

 黒髪のストレートの長髪に整った色白の顔立ち。

 愛嬌のある丸いレンズのメガネがトレードマーク。

 そして、彼がエルフ族であることを表す尖って長い耳。


「ご無沙汰しています、クリスティン。お元気そうで何よりですね」


 低くよく通る声でジュピターと呼ばれたエルフが挨拶する。


 妖精王ジュピター……人は彼をそう呼ぶ。

 大森林と呼ばれる広大な森林地帯にあるエルフたちの王国の国主にしてこの世界すべてのエルフ社会の頂点に立つ偉大なるハイエルフ。

 悠久の時を生き多くの知識をもつ賢王だ。


「私を呼ぶ時はじゅぴたんと呼んで下さい」


 ……でもまあ、実際ヘンな男でもあった。


 この妖精王とクリスティンたちには不思議な縁がある。

 かつて関わった大きな事件を解決した際に両者は知り合った。

 クリスたちにしてみればジュピターは自分たちの理解者の一人といったところだ。


「ジュピター様はどうしてこちらに?」

「じゅぴたんと呼んで下さいってば……。まあ、それはともかくとして今回私が呼ばれてきたのは皆さんが開発した境界門破壊爆弾に絡んでですね」


 小首をかしげるクリスティン。

 そんな彼女にアメジストが説明を引き継ぐ。


「この世界にはここの地下にあったものの他に三つの境界門が存在しているのです。いずれも前回の魔族ヴァルゼランの侵攻の際に持ち込まれたものですね。ここのもの以外は現在も封印されたままで魔族は触れることができないのです。ですので、その間に今回作った爆弾で門を破壊してもらおうと思いまして団長さんと相談して色々進めているところなのですよ」

「それで……ジュピター様が?」


 背後のジュピターに視線を移したアメジストがうなずく。


「そうなのです。各地で封印を守り続けている方々も千年近くもそうしてきたものをいきなり送り付けられた爆弾で吹っ飛ばしてくれとか言われても中々『ハイわかりました』とはならないでしょうから。その為間に入ってくれる信用と影響力のある方が必要だったのです」

「そこで私が呼ばれたというわけです。メギドから連絡を貰いましてね。……驚きましたよ。彼が私に連絡を寄越す事なんて魔王との戦いの後一度もありませんでしたから」


 肩をすくめた妖精王がやれやれと息を吐いた。


「最も本人ではなく複製の人でしたが。というか人でもなく動物でしたが」

「一度も連絡取ってらっしゃらなかったんですか」


 クリスは意外な気がした。

 救世主の四王と言われれば固い絆で結ばれた運命の仲間たち!のように後世では言われているのだが。


「ええ、そうです。何しろ私たちはその……まあ、あんまり仲良くなかったですからね」

「えぇ……」


 明かされる衝撃の事実であった。


「望んで集まったというよりかは必要に迫られて、とにかくもう戦える奴は誰だ! みたいなね。必死にかき集められたツワモノ四人で『お前らでダメならもうどうしようもないからとにかく何とかしてこい!!』って感じだったのですよ、当時は。みんな若くてそれぞれ尖ってた頃ですしね。何かと言うと衝突衝突また衝突で。今考えればパーティーが破綻せずに最後まで戦い抜けたのは割と奇跡でしたね。はっはっは」


 お気楽に笑うジュピター。

 そんな彼がふと遠い目をした。


「でも最後には少しは連帯感のようなものはあったのかもしれません。でもそんな気持ちを確かめる時間も育む時間もありませんでした。戦いが終わってからの方がずっと忙しかったですからね。世界は滅茶苦茶でしたから。私たちはそれぞれ故郷へ帰り、恐らくは他の三人も復旧に必死だったのではないでしょうか? 気が付けば百年以上あっという間に過ぎ去っていて、私を除く三名はとっくに寿命を迎えていました」

「そうだったんですか……。あ、すいませんちょっと。クオンさん食べすぎです」


 クーラーボックスから四本目のアイスを取り出したクオンを止めたクリスティン。

 取り出しかけたアイスを渋々クオンはボックスに戻した。


「さて話を戻しますと。そんなわけなので私が各地の封印の守り人たちとの橋渡し役を務めさせてもらいますよ。一か所は同行して残り二か所には信頼できる人物を派遣します。それで大分話がスムーズに進むと思います」

「助かります、ジュピター様」


 頭を下げるクリスに微笑むジュピター。

 そして彼は傍らの白い夏服の少女に視線を移した。


「こちらが今回のですか」

魔族ヴァルゼランクオンだ」


 ふむ、とジュピターが自分を顎を指先で摩りながらクオンをまじまじと見つめる。

 そして彼がふーっと長い息を吐いた。


「いやはや、凄まじいですね。私たちの戦ったハザンも強大な敵でしたが貴女から感じる威圧感はそれ以上ですよ」

「その我もこの娘に敗れたのだがな」


 淡々と告げるクオン。

 クリスティンは多少居心地が悪そうに苦笑する。


「それで、貴女も彼女に生かされたわけですね」

「あ、ジュピター様……それは……」


 口を開いたクリスをやんわりとジュピターが制した。


「いえいえ、いいのです。貴女がそれでいいと思ったのならそうするべきなのですよ。以前もお話ししたかと思いますが私は貴女のその優しさは強さだと思っていますから」

「今のところは不愉快な要求をされているわけでもない。勝者であるお前には従おう」


 クオンがそう言うのと同時にようやく立ち上がれる程度には復調したらしいリューがふらふらと起き上がってきた。


「差し当たって残る最後の問題は大将軍の魔力を奪って逃げたパロドミナスか」

「問題でもあるまい。あ奴がフォルドーマの魔力をどう取り込もうがクリスティンが倒せばいい」


 リューの言葉にクオンが答える。

 クリスティンの使う魔族殺しの鎖の魔術は相手が強ければ強いほど自分がそれ以上に強くなる魔術。

 相手が魔族である以上はどれだけ強かろうが問題はない。


「そうなんですけど、あの方我が主の為とかなんとか言ってましたからまだ他にどなたかいらっしゃるのでは……?」


 不安げに言うクリスティン。

 クオンが動きを止めた。


「我が主? あ奴がそう言っていたのか?」


 そして銀色の髪の少女の姿をした魔族は冷たく鋭く瞳を細めるのだった。


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