第6話 ごんぶとビームでお気軽焦土

 自らの教授プロフェッサーと称するドワーフ女性マキナのアシスタントを引き受けたクリスティン一行。

 彼女のラボを訪れたクリスたちは早速暴走したカラクリ兵の起こした騒動に巻き込まれてこれを鎮圧しなくてはいけなくなった。


「アアアアアアッッッッ!!!! 滅ベ人ヨ!! 滅ベ世界ヨッッ!!! 全テヲ無ニ還シテヤルッッッ!!!!」


 絶叫しながらカラクリ兵が手足を振り回している。

 どうやら単純な肉弾戦のみが彼(?)の戦闘方法のようだ。


「荒れすぎでしょう。何がどうなったらあんなになっちゃうんですか」


 一撃の破壊力は凄まじく巨体に見合わぬ速度で動くカラクリ兵ではあるが、その攻撃はリューを捉えられるほどのものではない。

 戦う両者を眺めながらクリスティンが嘆息している。


「そうか? 中学校ジュニアハイスクールの頃なんて皆あんなものだろう」

「それだとあっちこっちの中学校が壊滅してますよ。どういう学生生活を送ってらっしゃったんですか……」


 暴れるカラクリ兵とクリストファー・緑……両者の戦いはやがて勝敗が決する。

 その間にリューが放った攻撃はわずか4発。

 両手足の関節、肘と膝を破壊されてカラクリ兵は仰向けに地面に転がりもがいている。


「……終わったぞ」

「殺セェッッ!! 破壊シテクレッッ!!! 跡形モ残サズ我ヲ粉砕シテクレッッッ!!!」


 振り返ったリューの前でカラクリ兵が悲壮な叫び声を響かせていた。


「ふむ、やはり関節の防護が課題だな。それだってそうそうの攻撃で壊れるようには作っていないんだが……」

「私にはその前にもっと大きな課題があるように思えるんですが」


 乾いた声で言うクリスティンであった。


 ─────────────────────────


 カラクリ兵を表に転がしたままマキナは一行を研究所に案内した。

 そこでリューとクリスティンの2人はようやくマキナに名乗ることができた。

 ちなみに気力が尽きたのかカラクリ兵は今は静かになっている。

 そして吹っ飛んだまま昏倒しているヒューゴはドワーフたちに病院に運ばれていった。


 研究所は壁と屋根の一部が吹き飛んだので現在外から丸見えの状態である。


「とまあ随分見通しがよくなってしまった私のラボだが寛いでくれ。お茶は出ないが何だかよくわからない薬剤ならある。飲むか?」

「……結構です」


 引きつり笑いを浮かべつつ断るクリス。


 落ち着いて改めて見るとマキナは本当に人の女子と見分けが付かない。

 ただ時折見せる何事か深く物事を考えていそうな瞳の輝きは年長者のそれである。

 あちこちに外跳ねのあるオレンジ色の長髪に勝気そうな顔立ちは整っておりぱっと見は活発な美少女といった容姿であった。


「そうか、残念だな。この前飲ませた助手君は凄い元気になっていたぞ? ……もっとも叫んで飛び出していったっきり戻らないからその後のことは定かではないのだが」


 肩をすくめた白衣のドワーフ。

 今自分たちが叫んで飛び出してしまってもいいのかとクリスは疑問に思う。


「やはり薬剤のテストに我々ドワーフほど適した種族はいないな。何せ酒に混ぜれば大体のものは飲むからな。だが今は私はそちらの研究はしていない」


 そう言ってマキナは先ほどの騒動でか戸にはまったガラスにヒビの入った棚から何かを取り出した。


「見たまえ」


 布の包みを解きテーブルに置く。

 それは淡く虹色に輝く水晶片であった。

 大きさは幼い子供の握り拳くらいだろうか。


「綺麗な石ですね」

響霊シンフォニック輝晶クリスタルと呼ばれている鉱石だ。非常に希少なものだ。見たことはあるまい」


 親指と人差し指で水晶片を持ち上げて照明の光にかざすマキナ。


「この水晶にはある特殊な性質がある。特定の条件下で下位の精霊や雑霊を複数内部に取り込み混合させるのだ。それらは単体では感情や知性を持ちえない原始的なエネルギー存在だが、この水晶内部で混ざり合う事で人格と知性を持つことがある」

「おお~……」


 感嘆の声を漏らすクリスティン。

 マキナの言っていることを全て理解できているわけではないのだが、それが大層な事であるという事はなんとなくわかる。


「心が生まれるっていう事なんでしょうか?」

「心を『思考』と定義するのであればそうであるとも言えるだろう」


 うなずくドワーフの教授。


「私はこれを用いて我々現存種族の新たなパートナーを創り出したいのだ。友好的で協力的な共に未来を夢見られるようなそんな存在をだ」


 水晶越しに見るマキナの視線はどこか優し気である。


「殺セェェェ……破壊シテクレェェェ……」


 ……だが外からか細く怨念の呟きが聞こえてくる。


「……未来を夢見てくれますかね」


 微妙な顔のクリス。

 表の残骸は友好的で協力的とは真逆に位置する存在なような気がする。


「あれは失敗だった。後ほどクリスタルを破壊する」

「え? 殺しちゃう……っていうことですか?」


 眉を顰めたクリスティン。

 いいや、とマキナは首を横に振る。


「解放するのだ。水晶を破壊すれば彼らは元の複数の下位精霊や雑霊に戻って解放される。混ざり合っていたものが元に戻るのだ」


 しかし、とそこで表情を曇らせる教授。


「だが砕いた水晶はもう使い物にならない。一定の大きさを下回ってしまった響霊輝晶は精霊たちを取り込む力を失ってしまう。繰り返すがこの水晶は非常に希少なもので大変な痛手だ」


 ギシッと椅子を鳴らしてマキナが深く座り直す。


「さっきの奴も生まれついて悲観的で反抗的でな。強靭な身体ボディを与えれば考えを改めるかと思ったのだが悪化しただけだった。……思うに、この『場』がダメなのだ」


 虚空を指さし教授はその指を何かをかき混ぜるかのようにくるくると回す。


「ドワーフなんて力ばっかり強くて多少手先が器用ではあるが基本酒ばっか飲んでる下品なアホばっかりだからな。そんな奴らの拠点に漂ってる霊体が上質なはずがなかった」

「そこまで言わなくても」


 自分の種族なのにボロクソである。


「今まで3度試してきたが3度ともダメだ。ロクな人格が発生しない。これは現時点で私が入手している最後の1つだ。もう失敗はできない。上質な霊体を吸収させて今度こそまともな人格を生み出したいのだ」


 ぐっと拳を握って決意を示したマキナ教授。


「何か当てがあるのか?」


 リューが問うとマキナは橙色の髪を揺らして力強くうなずく。


「うむ。霊体を回収する場はもう当たりを付けてある。ただ容易に辿り着ける場所ではない。君らには私の護衛として同行してもらいたい」


 顔を見合わせたクリスとリューがうなずきあう。

 要はここまでとやる事は一緒ということである。


「わかりました。お引き受けしましょう」

「そうか、助かるぞ」


 上機嫌にマキナは自分の脇に置いてあったビーカーを手に取ると薄緑色をした液体をぐいっと飲み干した。


「……あ。いかん自分で飲んでしまった」


 そして我に返った教授が何やらぶるぶると震え始める。


「ちょっと……教授……?」


 不安げにクリスティンが立ち上がりマキナに歩み寄ろうとしたその時……。


「アチョーッッッ!!!!!!」


 絶叫したマキナが物凄い勢いで壁の穴から外に飛び出していってしまった。

 小柄でコンパスも短いのに異様な初速である。

 あっという間に2人の視界から消えてしまったマキナ。


「教授!!!?? 待ってください!!! 教授!!!!」


 慌ててそれを追ってクリスティンも飛び出していく。


「………………」


 最後に無言のまま嘆息して赤い髪の男が2人を追うのだった。


 ─────────────────────────


 結局、叫んで走り回るマキナを捕まえて大人しくさせるのに数時間かかり、更にそのせいで疲労困憊で彼女が動けなくなってしまったので回復までに丸1日クリスたちは待たなくてはいけなくなってしまった。

 不幸中の幸いというか、誰も負傷だけはせずに騒ぎを収束する事ができた。


 その間に治療を終えたヒューゴが戻ってくる。

 相変わらず壁がぶっ飛んだままなので風通しのいいラボに帰ってきた彼は包帯ぐるぐる巻きであり、まるでミイラ男のような姿になっていた。


「……んで、あのちび娘ボコボコにして寝込ませたって?」

「何でですか。暴れ出したから捕まえただけです」


 不満を訴えるクリスティン。

 昨日あったことをヒューゴに説明する。


「なるほどな。向かう先は遺跡か? そんならやっぱりこの頼りになるオジさんが必要だな」

「行けるのか?」


 痛々しい姿のエルフを見たリューが言う。

 見たところ探索どころかベッドから起き上がっていいのかも疑わしい様相なのだが。


「当たり前だろうがよ。こんなもんなんでもねえ。生活費がなくなったって言った時の母ちゃんの怒りように比べりゃな。そりゃもうオジさん元の形がわかんなくなるくらいボロボロにされて……」

「ああもういいですそういう悲しくて虚しい話は」


 食い詰めエルフの自業自得ではあるが悲惨な独白を慌てて阻止するクリス。

 そこにマキナ教授が奥の部屋から出てきた。


「いやはや、手間をかけさせた。申し訳ない」


 所々が跳ねた橙色の髪のドワーフは恐縮しているようだ。


「体調はもうよろしいんですか?」

「ああ、全身からエネルギーが溢れかえっているようだ。とはいってもあれをもう1度口にしようとは思えんがな」


 うんざり、といった様子で顔をしかめたマキナ。


「ともあれ、諸君が良ければさっそく出発するとしよう。時間が惜しい。世界が私の手による技術革新を待ち望んでいる」


 えらい大きく出た教授。

 彼女は革のバンドで背中に背負うタイプの箱状の機材を背負った。

 彼女が背にした機材……それは側面にホースが伸びてその先端にはノズルが装着されているようだ。

 見た感じ結構な重量がありそうである。


「持ちましょうか?」

「いいや大丈夫だ。これは私が持っていないと意味がない。こう見えてもドワーフだ。この程度の重量であれば苦にはならん」


 クリスが申し出るとマキナはやんわりとそれを断った。


「……で、どこ行くんだ?」


 ヒューゴが尋ねるとマキナはニヤリと笑ってつま先で床をとんとんと鳴らした。


「我々の目的地はさらなる地下……第5層だ」


 ─────────────────────────


 目的の人物、ハインツ・ミューラーとの邂逅は叶ったものの彼を救出するために更なる遺跡深部へ赴くことになったクリスティン一行。

 パーティーにドワーフの研究者マキナ教授を加えた4人はグロックガナー王国の一角にある下層への大きな階段を下り始める。


「心配せずともそう奥まで行くつもりはない」

「いや、オジさんは奥まで行ってくれても全然構わねえんだけどよ」


 本来ならば3層でハインツに会えた時点で彼を地上へ送り届けるために引き返すはずであったクリスティンたち。

 それが思いがけず更に深部に行くチャンスを得てヒューゴは若干……否、大いに内心前のめりなのであった。


 そしてパーティーは5層に到着した。


「……これって……」


 しばし立ち尽くすクリス。

 そこには上層までとはまったく趣の異なる光景が広がっている。

 まずフロアを構成している建材からして違う。

 5層からは青白い滑らかな石材が使用されており、上層ではほとんど見られることのなかった彫刻等の美術的な装飾も各所に施されている。


 曲がりくねった通路ばかりで構成されていたここまでの道程とは違って広々として奥行きのある空間に規則正しく並んでいる装飾のある大きな円柱。

 これは迷宮というよりかは……。


「神殿……?」

「ご名答。こっからは神域だ」


 クリスティンの呟きをヒューゴが肯定する。


「オジさんの睨んでた通りだぜ。1,2層は外敵からの防衛エリアで3層4層が居住エリア。恐らく4層が王や貴族の住まいだったはずだ。そしてその更に地下には神聖な領域が広がってると読んでたが……」


 顎に手を当てたヒューゴは鋭い視線を周囲に向けている。


「もう少し奥へ進むとしよう」


 言うや否やつかつかと奥へ向かって歩き出したマキナ。

 彼女の後に続いてクリスたちも先へと進む。


「待て」


 リューの制止の声にクリスたちが足を止めた。


「リュー……?」

「あれを見ろ」


 前方の左右に向かい合って円筒形の台座の上に騎士の石像があった。

 等身大のものらしく大型の石像で互いに剣を立てて礼の姿勢を取っている。


守護者ガーディアンだな。ありゃあ動くぞ。許可のないものが奥へ行こうとすると排除しにかかる」


 ヒューゴが石像を見て言う。

 この辺りは流石というべきか、経験豊富な探索者の知見である。

 赤い髪の男が一行を振り返った。


「……破壊するのか迂回するのか決めろ」

「じゃあを試すとするか」


 リューが問うとマキナは背負った機材から延びるホースを手に取った。

 先端のノズルには握りとトリガーが付いている。


「何する気だ?」


 ヒューゴがどこか胡散臭そうな視線をその機材に送る。


「これは私が開発した破壊光線照射装置だ。お子様でもお年寄りでも気軽に扱えるのが売りでな。ごんぶとビームが周囲を焦土に変えてくれるのだ」

「いや怖えよ。気軽に周囲を焦土にするお子様やお年寄りがいてたまるか」


 半眼でつっこむヒューゴ。

 マキナは額に上げていたゴーグルを下して掛ける。


「当然威力はセーブして撃つ。問題はない」


 ……ズガガガガガガガッッッッッッッッ!!!!!!


 一瞬の閃光。

 そして続いた轟音。

 言葉の1つも差しはさむ余裕もなくクリスティンはその場から吹き飛ばされて床に転がった。


「……あう……ど、どうなったんですか……」


 うつ伏せのクリスがゆっくり顔を上げる。


 目の前には凄惨な光景が広がっていた。

 動く石像どころか壁も床も天井も抉れて削られそれが奥まで続いている。


「……少しセーブが甘かったようだ。謝罪しよう」


 そしてクリスの隣にはやはり吹っ飛ばされてきたのかマキナが仰向けに転がっている。


「リューとヒューゴさんは……?」

「ここだ」


 声のした方を見るとリューが立っている。

 咄嗟に柱の1つの影に隠れた彼は特に負傷した様子もない。


 そしてそのリューの足元には何やら丸めたチラシのようにクシャクシャになってしまったヒューゴが転がっていた。


「やれやれ、負傷者も増えてきた。やはり君らに護衛を頼んで正解だったな」

「……私たちまだ何の脅威に遭遇したわけでもないんですけど」


 虚ろな目をするクリスティン。

 護衛を頼んで正解というかなんというか……。

 ヒューゴをクシャクシャにしたのはマキナのごんぶとビームだし、動く石像(仮)は動き出す前に木っ端微塵になったのでそもそも本当に動いたのかどうかも不明である。


 やった事を冷静に振り返ってみると危ないかもしれないものを見つけて大騒ぎした挙句に一人がズタボロになったというだけの話なのであった。


 ─────────────────────────


 気絶してしまっているヒューゴはクリスが背負い一行は本殿のようなエリアにやってきた。

 正面奥には祭壇があり大きな女神像が安置されている。

 背に6枚の翼を持つ美しい女性の像である。


「エリス様の像ですね」


 シスターらしく女神像に祈りを捧げるクリスティン。


「……母ちゃん、許してくれ……お姉ちゃんと酒を飲む店に行ったのは本当にすまんかった……」


 その背で雰囲気をぶち壊すセリフをぶつぶつうわ言で呟いているヒューゴ。

 思わずこの人落っことしてもいいだろうかと一瞬クリスは考えてしまった。


「よし、ここまでくればいいだろう」


 マキナが荷物から何か容器のようなものを取り出す。

 透明な円筒形の容器であり、内部には響霊輝晶が入っている。

 上部と下部は金属製であり、そこに何がしかの機構が組み込んであるようだが……。


「これは周囲の霊体を集めて閉じ込めておく装置だ。そうして霊を近くに留めておくとクリスタルはゆっくり時間をかけて内部に吸収していく。後は我々は待つだけだ」


 マキナが床にシートを敷いてその上に腰を下ろす。


「食事にしようじゃないか」


 かばんから取り出したのはパンにベリージャムを挟んだものだ。


「甘いものはいいぞ。脳みそを元気にしてくれる。君らの分もある。さあ遠慮せず食べろ」


 クリスたちもそれぞれパンを受け取りそれを口にする。


「いただきます。……うん、甘い~。美味しいですね」

「そうだろう? このベリーのジャムも私が手ずから作ったものだ。叫んで走りだしたりごんぶとビームをぶっ放して周囲を消し飛ばしたりするばかりの女じゃないんだぞ私も」


 ……事実ではあるがそう言うとなんとも身も蓋もない。


「甘いものもいいが、しょっぱいものもいいものだ。……ラーメンとかな」


 さりげなく主張するリュー。

 マキナは不思議そうな表情だ。


「らーめん? なんだねそれは」


 疑問符のマキナにリューがラーメンの形状や食べ方を説明する。


「ほうほう、実に興味深い。地上にはそんな食べ物があるのか」

「ああ、至高のメニューだ。食べたことがないというのはとても不幸な事だ。機会があれば作って食べさせてやろう」


 またリューが過剰にラーメンを持ち上げている。

 小さく苦笑するクリスティン。


「ラーメン以外にも地上には珍しいものが沢山ありますよ。自動車ってご存じです?」


 自身も先日実物を見たばかりの蒸気式自動車の説明をするクリスティン。

 技術者でもあるマキナの食いつきはラーメンよりもいい。


「蒸気で動かす原動機で動く車両だと!!? そんなものが……!! 素晴らしい!! 見たい!! よし決めた、私も地上へ行くぞ!!」


 決断が早い。

 はしゃぐマキナとクリスティンの2人をリューが穏やかな視線で見つめていた。


 ─────────────────────────


 ……………………。


 ゆるやかに意識が現実に戻ってくる。

 重い目蓋を押し上げるクリスティン。

 どうやら眠ってしまっていたようだ。

 見れば自分に寄りかかるようにしてマキナも眠っている。


「……ん、眠ってしまっていたか」


 目を覚ましたマキナ。

 寝ぼけ眼を擦りながら欠伸をしている。


「起きたか」


 声を掛けられてクリスティンが見上げると彼女の座っているシートのすぐ傍にリューが立っている。

 直立のまま腕を組み周囲に視線を巡らせている赤い髪の男。

 恐らく彼は2人が眠っている間もずっとそうしていたのだろう。


「……見ろ」


 促されそちらを見るクリスとマキナ。

 床に置かれた円筒形の容器の中の水晶が眩い輝きを放っている。

 虹色の強い輝きは周囲を幻想的に照らし出していた。


「……!!」

「少し前から輝きが強くなったようだが」


 立ち上がったマキナが急いで靴を履く。


「終わったのだ! 混合が!!」


 駆け寄って容器を持ち上げる教授。

 上部を外して中から響霊輝晶を取り出す。


「おはよう、気分はどうだ? 私がわかるか……?」


 恐る恐る声を掛けるマキナ。

 ひょっとしたらまた暴言を吐きつつ悲嘆にくれるのではないかとクリスは少し身構えてしまう。

 だがその心配は杞憂であった。


「おはようございます。マスター。気分は良好です」


 輝く水晶からは落ち着いた声音でそう聞こえてきたのだった。


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