第17話 キミに出逢うために

 最強の魔族の体が揺らぐ。

 ゆっくりと斜めに傾いていくクオン。

 そして地に倒れるものだと、その場を見ていた誰もが思っていた。


 ……だが、そうはならなかった。


「もう拳一つ分、攻撃が内側にずれていたら……戦闘不能にされていたかもしれぬ」


 右胸のやや下を無残に凹まされて血を吐きながらもクオンは倒れなかった。

 心からの賞賛を言葉にしたいと思ったが魔族はそうしなかった。

 それを相手は喜ぶまい。

 とどめの一撃のほうがまだ慰めとなるだろう。


「…………………」


 険しい表情のリュー。

 無言で彼は奥歯を噛みしめている。

 すべての力を今の一撃に込めた赤い髪の男。

 もう、彼には立っているのがやっとの体力しか残されていないのだ。


 動かない二人。

 両者の間にはただリューの荒い呼吸の音だけがある。


「……ああああ」


 最早動けない彼の代わりにクリスティンが絶望の声を漏らしている。

 どうしましょう、という顔で斜め後ろのヒューゴを見る。

 しかし無精ひげエルフは口を半開きにして白目をむいて立ち尽くしているだけ……なんだかこの男が一番絶望感を出している。


「こっここここここ……こうなったらもうどうしようもねぇ。いいか、クリスティン……これからオジさんが得意のトークで何とかあいつの気を引くからよ。その隙にお前さんはリューを抱えて逃げるんだ」

「え、ちょっと何話すつもりなんですか」


 不安ばりばりの青い顔でヒューゴを見るクリス。


「ま、任せときなって……! 飲み屋じゃそこそこ評判よかったネタだからよ!」

「やめときましょうよ! ひっぱたかれますよ!!」


 クリスティンは青い顔で必死にヒューゴの襟首を引っ張った。


 ───────────────────────────


 地の底の魔族ヴァルゼランたちに乾坤一擲の大勝負を仕掛けた白鶯騎士団。

 その総指揮官であるフェルザー・ミューラーと参謀たるヴァイスハウプト・メイヤーの二人は司令部で刻一刻と移り変わる戦況の報告を受けている。

 そして彼らの足元には一匹の大きな黒い豹がのんびりと寝そべっていた。


 突入した二つの大穴にはどちらも魔物の群れと魔族が待ち構えていた。

 それは予測できていた事だ。

 椅子に腰を下ろした眼帯のフェルザーがこめかみに指先を当てて憂いのある表情をする。


「不安なのはリューたち3人だ。聞けば魔族どもの中で一番強いとされる奴がまだ前線に出てきていない」

「ああ、あのラーメン食ってた虫みたいなやつか」


 先日のクオンを思い出すメイヤー。

 何とも言えない表情で彼は葉巻の煙を吐く。


「リューの見立てでは、そいつはこの前現れた四本腕の巨大な魔族と同格かそれ以上の強さを誇るらしい。食事を共にするほどの関係を構築できているのなら懐柔は無理だったのか?」

「そりゃ無理だ。お前はまだあいつらの事がよくわかっとらんな」


 呆れたように言って肩をすくめるメイヤー。


「あいつらはなで仲良くしてるんだ。あの魔族はいずれリューが自分を殺しに来るとわかってて鍛えて強くしてやっとるのだよ。意味わからんだろ? でもな、世の中にはそういう連中がいるんだ、実際」

「……………………」


 メイヤーの言葉に怪訝そうな顔のフェルザー。

 確かにこの髭の男の言う通り、その関係は理と知に生きるフェルザーの理解を超えている。


「なら倒すしかないということか。……我らにとっては最大の障害になりそうだな」

「問題ないさ」


 重苦しく呟いたフェルザーに答えたのは足元の獣であった。

 先ほどまで眠っているように大人しかったメギドが顔を上げている。


「その魔族とリューが戦ったらどちらが強いのかは私は知らないが……」


 そう前提してメギドは言葉を続ける。


「仮にリューが負けたとしても問題はない」

「いや問題大有りだろうが。リューはうちで一番強いんだぞ。あいつやられたらもう打つ手がないわい」


 イヤそうな顔でメイヤーが言うと黒豹はそちらを見た。


「リューがその魔族に敗れるようであればその時は……」


 獣は静かに目を閉じる。


「その時は、クリスティンがその魔族を倒すだろう」


 ───────────────────────────


「ちょ、ちょと待ってください……!」


 前に出ようとするヒューゴの襟を後ろから掴んで引いたクリスティン。


「おぼぼぼぼぼッッ……!!」


 思いのほかその力が強かった為にヒューゴは後転を繰り返しながら背後に消えていった。


「ストップ! ストップですよ……!! そこまでにしませんか!!」


 そして代わりにクリスが歩いていく。

 向かい合うクオンとリュー……その二人に向かって。


「……逃げろ、クリスティン……!」


 掠れた声で言うリュー。

 既に消耗が限界を超えている彼……その表情は苦しげだ。


 そして、クオンも近付いてくるクリスを見た。

 この魔族にとっては初めて見る顔である。


(強いな。……だが、リューほどではない)


 一見しただけでクオンはクリスティンの凡その強さを看破していた。

 オーラの量や呼吸、所作等から大体の相手の戦闘力を測ることができるのだ。


(2年前の……初めて会った時のリューと同程度の実力か)


 だが……。


 それが事実なら黙殺しても問題ない相手であるはずなのに。


(……解せぬ)


 なのにこの歴戦の魔族の本能が警告を発している。

 気を抜くな。目を逸らすな。

 魂の底からそう声が聞こえるのだ。


「見逃してどうしろというのだ? お前が代わりを務めるのか」

「……ッ!!」


 クオンの言葉にリューが強く反応した。

 血が出るほどに奥歯を噛みしめリューがぐらつく上体を気迫で固定する。


「動くな!」


 最後の力を振り絞って抵抗を試みようとするリューを止めたクオン。

 その制止の言葉は本人が思っている以上に強く発せられた。

 自らの発言の調子に少なからず魔族は内心で驚く。


 鼓動が早い。

 リューを止めたのは彼の命を惜しんだからではない。


(どういう事だ……)


 わずかながらに動揺している自分を自覚する最強の魔族。

 もう認めざるを得ない。

 自分は今、目の前の娘に気圧されている……!!


「何者だ……娘」

「あ、えっと……クリスティン・イクサ・マギウスです。特技は……じゃがいもだけで一週間分のメニューのレパートリーがあります」


 名乗り以外の部分はクオンの耳には入っていない。

 ……気圧されるのはいい。

 それが自分より数段格下の相手だというのが不可解で不気味なのだ。


 だが、自分のこの直感が正しいのだとすれば……。


(クリスティン・イクサ・マギウス……お前がなのか?)


 それはこの上もなく喜ばしいことのはずである。


(ずっと探し続けている、我を殺せる程の実力者なのか)


「来い、クリスティン」

「あ、はい……では、その……」


 背負った大剣のカバーを落として構えをとるクリス。

 そして銀の髪のシスターは少しだけ申し訳なさそうな表情になる。


「じゃあそういうわけですので、そこ、もう私の間合いなんですけど……始めちゃいますね」


「…………!!」


 ガシャン!!! 


 突如として左手から聞こえた金属音にクオンが視線を落とす。


 左手首に淡く水色に輝く幅のある頑丈な金属の腕輪が嵌められている。

 それだけではない。

 腕輪からは鎖が伸びており、それはクリスの左手首に同じように表れた腕輪と繋がっていた。

 鎖の長さは5m程か……両者は左手同士で繋がれたことになる。


 素早く自らの異変を分析するクオン。

 腕輪と鎖は実体だが魔術によって出現したものだ。

 ルールによって両者を繋ぐそれはどれだけ力を入れても破壊することはできない。

 そしておそらくこの左手を切断しても逃れられないだろう。

 繋がれた部位を失えば別の部位に拘束を受けることになるはずである。


 ……そして両者を繋いだのはこの魔術の効果の副次的なもので。


 この魔術の本来の効果は……。


 ───────────────────────────


「魔族は強い。とにかく強い。1匹1匹がハラ立つ強さをしている。千年前に私のオリジナルと仲間たちは散々苦労させられた」


 オリジナルから継承している記憶の中の光景に獣はため息をつく。


「オリジナルのメギドと三人の仲間たちはあの時代の人類では最強格だ。四人揃ったことが奇跡だった。一人でも欠けていれば我々は勝てなかっただろうな」


 後の世に英雄王、妖精王、武神王、魔道王の四王と呼ばれる四人の救世主……彼らが魔族たちを倒し、魔王を討って魔物の時代を終わらせた。


「あれほどの強さの四人が集結するのは今の時代では難しいだろう。人類はもうそこまで団結できない。この期に及んでまだ人の国同士で戦争しているのがいい証拠だよ。ここに集った連中も猛者だが四王程ではない。ルクシオンといったか……あの娘が唯一の例外か。彼女なら四王と同格かそれ以上かもな」

「ルクが四人いなきゃいかんのか。そりゃどうにもならんわい」


 椅子に座り足を組んでいるメイヤーが重苦しい息を吐く。


「だが、連中にも付け入る隙はある」


 メギドの言葉に俯き気味だったメイヤーとフェルザーが顔を上げた。


「桁外れの身体能力と魔力、無限に近い寿命……生命体として単体で完成されすぎている。それだけに綻びが生じる、……まず、数が少ない。千年前も攻めてきた魔族は魔王を入れて九人だった。そして個人で強すぎるから共闘や連携といった発想が一切ない。どの位それが極端かって言えば同時に二体以上が戦場に出てくると平気で仲間も巻き込んで攻撃するせいでむしろこちらが有利になるってくらいだ」

「なるほど、確かにいつも一匹で出てくるなあいつらは。この前は2匹だったがかなり離れていたしな」


 うなずくメイヤー。

 この前とはフォルドーマとメルドリュートが出撃してきた時のことだ。


「そういう事だ。千年前の戦いでも別の魔族の攻撃に巻き込んで倒した奴が二人いたよ。それで奴らは一度に二人以上で出てくることがなくなった。……つまり、魔族は一体一体確実に倒していけばいいって事さ」

「それでも十分すぎる脅威だろう」


 抑揚のない声で言うフェルザー。

 まだ感触に慣れないのか眼帯に軽く指先で触れている。


「だから私のオリジナルである初代メギドは魔族を倒すための魔術を徹底的に研究した。一体生け捕りにできた奴がいたからな。そいつを使ってとにかく実験を重ねたんだよ。そして……」

「ええい勿体ぶるんじゃないわ! できたのかそれ!! 魔族をやれる魔術!!」


 しびれを切らして身を乗り出したメイヤー。


「ああ、完成した。魔族を確実に倒せる魔術」

「お前なぁ、だったらそれを皆に仕込めばよかっただろうが。今までの我々の苦労はなんなんだ」


 顔をしかめるメイヤーにメギドが静かに首を横に振る。


「教えても無駄だから言わなかったんだよメイヤー。完成はしたんだがそれはとても他者に伝えて継承していけるようなものじゃなかった。先天的に適性が必要な上に習得までに気の遠くなるような時間がかかる。しかも修練の相手として魔族が必要だ。今回クリスティンはその全てが奇跡的に揃ったので継承したがね」


 獣は過去を見るように遠い目をする。


「そう……本当に長い旅だった。時間はいくらでもあったし、試し撃ちの相手にも事欠かなかったからな」


 ───────────────────────────


 取るに足らない相手のはずだった。

 だが、鎖でその相手と繋がれた瞬間全ては変わった。


 もう拳を交えるまでもない。

 勝てない……戦えば自分は殺される。

 左手の鎖で自分と繋がれている銀の髪の女を見る。


「いいですか、ちょっとご説明しますけど……!」


 左手を胸の高さまで持ち上げるクリス。

 鎖がじゃらんと重たい音を出す。


「あなたの力を……あ、この力っていうのは筋力とかスピードとかそういうの全部ひっくるめた総合的なやつです……そのあなたの力を10として私を3としてですね。まあ3っていうのもちょっと調子乗ってる感じですか? だったら1とかでもいいんですけど……」

「まどろっこしいなオイ」


 ツッコミは背後のヒューゴからきた。


「ひえっ、すいません。それでですね……鎖で繋がってる間は私にあなたの力がそっくり乗ってまして! つまり今の私の力はあなたの10がプラスされてて13なわけですよ。わかりますか? そういうわけなのでできましたら平和的に話し合いとかでどうにかしたいなって……」


 若干引き攣り気味の愛想笑いを浮かべるクリスティン。


(我の力を……上乗せ……)


 だが闘神はそれを意に介さない。

 地を蹴り、音にも迫る速度で猛然とクリスティンに襲い掛かる。


「あわわわ……!! モンドーはムヨーな感じでしょうか!!??」


 空気を引き裂くかのようなクオンの手刀を上体をわずかに反らせて回避するクリスティン。

 闘神の攻撃が加速する。

 そしてその全てを紙一重でクリスティンが凌ぎ切る。


 右手で大剣を構えているクリス。

 横薙ぎの一撃がクオンの左の肩口を捉え深く切り裂いた。

 噴き出る血が両者の視界を真っ赤に染め上げる。


「ぎゃああああごめんなさいいい!! てっ、手加減が……!! あなたちょっと強すぎませんか!!? 私の強さがすごい事になっちゃってますけど!!!」


 攻撃したほうが何故か悲鳴を上げて謝罪している。

 続いたクリスティンの一撃は魔族の頭部を軽く掠めていく。

 それだけでスズメバチに似た頭部の装甲がはぎ取られて吹き飛んだ。

 きめ細かい白に近い銀色の長い髪が広がる。


「……女ぁ!!??」


 裏返った声を出すヒューゴ。


 そう、昆虫に似たクオンの頭部、外骨格のようなその装甲の下には人の頭があった。

 他の魔族のように青い肌でも黒目でもなく……色白で鋭く細い目の美女だ。

 その美しい顔も今は赤黒い血を浴びて汚れている。


「……今、わかった」

「は、はいっ!!?」


 激しい攻撃を途切れず繰り返し続けながら囁くようにクオンは言う。

 その顔はどこか夢見るように恍惚としている。


「我はお前に出逢うためにこれまで戦い続けてきたのだ」

「そっ、そんな血だらけでロマンチックな事を言われましても……!!」


 攻撃をずっと続けているのはクオン。

 だが傷は彼女の方に増え続けていく。

 闘神はどれほど傷付いても、どれほど血で汚れても止まらない。

 永遠に続くかと思われた攻防。

 だが……いつしかクオンの攻撃は少しずつ速度と鋭さを欠いていき……。


 そして、遂には不敗の最強の魔族は倒れて動かなくなった。


「…………………………」


 誰も何も言わない。

 クリスティンも……戦いを見守っていたリューとヒューゴも。

 ただ、クリスの乱れた呼吸音だけが続いている。


 足元には動かなくなったクオン。

 左腕は二の腕からちぎれかけて皮一枚でようやく繋がっているような状態で、左足は間接でない部分で折れ曲がってしまっている。

 その左手の腕輪と鎖が消えた。

 これは、その相手が完全に戦闘不能になった事を表している。


「……とっ……とんでもないですよ、この人」


 ぜいぜいと荒れた呼吸でようやく言葉を発するクリスティン。


「私この魔術でたくさん魔族の人を倒してきましたけど……やられるかもと思ったの初めてです……」


 青い顔のクリス。

 今になって奥歯がガチガチ鳴っている。


 この戦いの最中ですらクオンは加速度的に強くなり続けた。

 だがそれはそのまま繋がっているクリスが強くなっていくという事でもある。

 数多の魔族を倒してきたこのシスターもそんな経験はこれまでした事がなかった。


「こいつは本当に戦うことが好きなんだろう」


 クリスの隣に立ってリューが言う。


「そして自らを脅かす強敵の存在を渇望していた。……俺はその境地には至れないが気持ちは少しだけわかる」

「………………………」


 無言で屈みこんだクリスティンがクオンを背負った。


「ここであんまりのんびりとしていられませんし、先に進みましょう」

「あん? お前さんそいつ連れてくのか」


 ヒューゴを振り返ってクリスがうなずく。


「ちょっとここに転がしたままというのも……。この方、リューの先生なんですよね?」

「修行相手になってもらっていた」


 リューの返事にヒューゴは一瞬複雑な表情になる。


「まあ、お前さんらがそれでいいならいいか……どのみちオジさんの手に余る問題だわ」


 そう言ってため息をついた無精ひげエルフであった。


 ───────────────────────────


 リューとクオンの手当てを終えて、いまだ意識の戻らないクオンをクリスティンが背負い一行は迷宮の奥へ進む。


 目的地はかつての6層……魔族がこの世界に持ち込んだ巨大なレンズ状の魔器次元境界門である。

 メギドが言うには門は設置して一度でもその場所で起動させるともう他の場所に移すことはできなくなるらしい。

 だとすれば二年前と同じ場所に今もあるはずだ。

 そして、古代人の技術により次元門とその周囲は魔族は触れることができない。

 パロドミナスが人に化けて長い時間をかけて封印を解いたのはその為である。


 今も門のある6層は半生物化もされておらず当時の構造のまま、行き方も変わってはいないはず。


 元はグロックガナー王国であったはずの3,4層の大空洞を抜け更に下る。


 5層に入ったクリスティン一行……すると、何やら前方が騒がしい。


「謀反!! 謀反じゃああ!!! 誰ぞ、誰ぞおらぬか……ッ!!!」


 あるフロアから飛び出してきたのは浮遊する椅子に座った小柄なローブ姿の魔族。

 頭部の先が長い1本の触手になっており、それがカタツムリの殻のように渦を巻き鼻の下にも2本の長い髭のような触手を生やしている魔族。

 その魔族……老師グロンボルドとクリスティンたちが鉢合わせになった。


「ぬがぁッッ!!? 侵入者じゃと!!!? どうやってここまで……」


 その瞬間、雷光のようにリューが動いた。

 一瞬で老魔族の懐に入り込むとその胴に拳を突き刺す。


「ご……フッッッ!!」


 意識を失って崩れ落ちるグロンボルド。

 同時に浮いていた椅子が地面に落ちて派手な音を立てた。


「……コイツは随分呆気ねえな」


 床の上で伸びているグロンボルドをつま先で突いているヒューゴ。


「近接戦闘が得意なタイプではないんだろう」


 言いながらリューは周囲を窺っている。

 今の老人の叫びに応じて姿を見せるものはないようだが……。


「謀反とか言ってたな。こいつらの誰かが裏切ったのか?」

「さてな。今はどうでもいい。まずはこちらの目的を果たす」


 今回の潜入の目的は門の破壊である。

 それができればこれ以上魔族の援軍がこの世界に来ることはなくなる。

 今までは門はこの世界の知識と技術では破壊することができなかった。

 だから厳重に封印されていたのである。

 しかし、今は違う。

 アメジストによる異界の技術を加えることによりマキナ教授が門を破壊することのできる爆弾を完成させているのだ。


 リューを先頭に先ほどグロンボルドが飛び出してきたフロアへ突入した一行。


 そして……そこで彼らは衝撃的な光景を目にすることとなる。


「……おやおや、これは。意外なところでお会いしますな」


 振り返ったローブ姿で尖った鼻の魔族、パロドミナス。


「ですが今は我が主がお食事中でございましてな。小生も給仕で手が離せません。悪しからず……」


 不気味に笑うパロドミナス。

 その手には禍々しく鼓動のように赤く明滅する水晶玉のようなものがある。


 そしてその先……壁面に張り付いている巨大な半透明の臓器のような袋の中には……。


 無残にミイラ化した大将軍フォルドーマの姿があった。

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