第2話:うちの子まじ天使!

 セイラさんによって連れ出された場所は教会のような場所だった。


 悪魔召喚のような場所ではなく、普通の白い清潔感のある誰もが思い浮かべるタイプの教会。私も一回だけ行ったことがあるがこんな感じだった気がする。


 教祖様が立つような正面の場所には一人の小柄な女性が立っていた。


「それではモールさん、よろしくお願いしますわ」


「よ、よろしくおねがいします…」


 モール、と呼ばれた少女は白のスカートの裾から黒い鱗のようなもののついたトカゲみたいな細めの尻尾をのぞかせている。ツンとした表情から不機嫌といった様子がうかがえる。


「ふんっ!なんで私が人間のために…」


「わう!」


「きゃっ!な、なによ!」


 私に対して悪態をついたことが伝わっていたのかコマはモールさんを敵として認識してしまったようだ。


 コマをなだめつつ、私はモールさんに謝った。


「ご、ごめんなさい。警戒心が高い子なもんで…」


「ふん!まぁいいわ。さっさと済ませましょう。この本に手をかざして」


 言われるがままにモールさんによって差し出された本に手をかざす。その分厚い本の表紙には何かよくわからない魔法陣が描かれており、これから儀式的な何かを行うのだと私の少年心を刺激する。


 手をかざすと軽く輝き、本が勝手にペラペラと開かれた。


「あ〜、あなたの能力はこれね。ま、悪くないんじゃない?なんか偏ってるけど」


 ワクワクしつつ差し出された本を覗き込むと私に関する情報であろう文章が書かれていた。思っていたよりも密度はないが、簡潔な感じで見やすい。


 私の名前や種族、年齢などの基本的な情報の下には1〜10の数値が記載されていた。


「その数字は評価みたいなものね。1が最低評価で10が最高評価ね」


 ほほう……今の私のステータスは


『体 力:8  生命力:4  魔力量:10

 魔 法:1  物 理:6  精 神:3

  運 :2  素早さ:9  知 恵:8』


 なんとなく体力と素早さはコマによって鍛えられたんだなぁって言うのがわかる。ていうか魔力量の割に魔法の値とか1って!意味あるのそれ?!運も精神も低いし、全体的に強くないよね?!チートは?!?!?!


「ん、あなた魔力値がすごいのね」


 具体的な数値等はないが、モールさんにはわかるらしい。


 モールさんは素直に感心しているようで、なんだかんだ私にも誇れる箇所があるのだと少し安心した。


「魔法とかは下手だけどこの魔力量なら量でカバーできるんじゃない?」


「なるほど…」


 魔力量でカバー…。つまりは量で押し切れということですかね…。


「んで次のページがあなたの能力ね」


 あっ!次が能力ね!スキルとかってことかな?流石にチートの1つや2つください!邪神様ぁ!


『言語理解:ON 意思疎通:OFF


 アニマルテイマー8 テイム7 協調5

 土魔法2 回復魔法1 水魔法1   』


 ……なんか微妙じゃない?コマのお陰でゲットしてそうな能力もあるし、土魔法はもしかして育ててた植物たちのおかげ?あと言葉が理解できるのは『言語理解』とかいうありふれた能力があるからなのね!んで意思疎通ってなに?!


「こ、これは…良いほうなんですかね?」


「ん〜…まぁ、鍛えてないにしてはって感じじゃない?あなた戦闘経験はある?」


「な、ないです」


「魔法は?」


「ないですね」


「なら結構良いほうじゃない?あとは鍛えてどうなるかね」


 モールさんは特に気を使ってる様子もないし、平均くらいって感じなんだろうなぁ。まぁ役立たずとかじゃないならいいかな…。


「…何よその顔。…ま、言っとくけど人間にしては上出来な値でしょ」


「も、モールさん…!」


「あっずるいですよ〜!ユミさん、私も教育係としてかなり良いと評価してますよ!」


「セイラさん…!」


「お姉ちゃん、です!」


「お、お姉ちゃん…」


 モールさんもセイラさんも励ましてくれて私、嬉しい!コマも賛同するように私の足にピッタリと寄り添ってくれるし、私幸せだー!!!


 あっ、そういえばコマで思い出したけど『意思疎通』ってなんだろう?脳内会話できる的なやつかな?


「意思疎通ってやつ、なんですかね?オフになってますけど」


「あ〜…まぁ、要は言葉がなくても会話できるってやつね。あんたならその犬と意思疎通できんじゃない?念じれば起動するわよ」


 念じればって…でもコマと話せるってこと?それならすっごい嬉しいかも。


 頑張って『オンになれ!』と念じてみる。そしてコマの方を見る。


(なぁに?おやつでもくれるの?)


「いや、おやつはあげないけど」


(なぁんだ)


「…ってコマと話せてる?!」


 イメージよりも可愛い声だ!コマは2歳ちょっとで人間でいうと20歳くらいだよね?なんか想像よりも幼くてイメージ変わったかも。


「コマ?」


(なぁに?)


「私のこと好き?」


(うん!コマ、ユミのこと大好き!)


「ぅぐっ!」


 可愛すぎ!うちの子可愛すぎ!マジ天使!好き!あぁ!(限界化)


「あの…もういい?」


「あっごめんなさい。うちの子が天使すぎて…」


「はぁ…そこの犬もやるんでしょ?早くしてよ」


 そう言われてはじめて思い出したけど、そういえばコマの力を認められて魔王軍に入ったんだった。そりゃコマが本命だよね〜。


「コマ、おてて貸してね」


(うん!)


 うんやだもうこの子可愛すぎマジ天使愛してる


「ありゃこの子やばいわね…」


 モールさんは冷や汗をかいて驚いた表情で本を覗き込んでいた。そして差し出されたステータスにはとんでもない数値が書かれていた。


『体 力:10 生命力:10 魔力量:10

 魔 法:10 物 理:10 精 神:1

  運 :10 素早さ:10 知 恵:3』


『嗅覚10 野生の勘10 火魔法10

 風魔法10 土魔法8 水魔法7

 光魔法7 回復魔法6 闇魔法3  』




 ………うちの子、ちゅよしゅぎぃ……



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