第25話:魔王様のイチダイジ?!

「本当の目的について話そうか」


 アルトロス様は胸元から一枚の紙を取り出し、机の上に広げた。その紙はどうやら地図のようでようやく読めるようになってきた文字を解読するに私達が現在いるレグナ領の文字もあった。


「ここ最近、人間軍に動きがあったんだ」


 ディル様はごくりと息を飲んだ。


 アルトロス様の国は魔王側の中でも人間領に最も近く、人間の動向をよく監視していると言われている。とはいっても間には山と谷がたくさんあるんだけどね…。


「人間領に偵察に行っていたボクの軍の者が最近、『騎士団の動きが慌ただしくなってきた』と言っているんだ。詳しく聞くともうそろそろ新たな勇者が現れる可能性がある、とのことだ」


「新たな勇者、か…」


 勇者…私が敵対することになる人物。


 辺りの空気がピリリとするのを感じる。レイラさんは頬杖をついてまるで『私には関係ありません』という様子でどこか遠くを見つめている。


「また勇者が現れるとなると少なくとも5年以内には攻め込んでくるだろう。若い芽は摘んでおきたいところではあるが、前回に似たようなことをしたからきっと前よりも警戒は高まっているはずだ」


「あぁそうだな。にしても早いな。もう10年ぐらいは大丈夫だと思っていたのだが……。こちらも対策を練らなければならないな」


 ディル様はちらりとこちらを見てニヤリと微笑む。い、嫌な予感が……。


「ま、こちらには秘密兵器、ユミがいるからな。今まで以上に偵察が捗るんじゃないか。な?ユミ」


「え」


「目には目を歯には歯を。ならば人間には人間を、か」


 アルトロス様は私の全身をねっとりと見回すとニヤリと笑った。


「良いなぁそれは。人間ならわざわざ気を張って潜む必要もないし、あのクソ聖女にもスパイとは思われづらいはずだ」


「アッ!ワタシ、エサヤリのジカンがー…」


 このまま癒やしの魔獣小屋に篭もろうかと席を立とうとすると、ディル様に肩を掴まれ無理やり席に座らせられる。何この力!足がピクリとも動かない!


「優秀なスパイは軍の勝率をグッと上げてくれる。なぁに、戦えと言ってるわけではないんだ。衝突はあるかもだが…」


 ディル様は底冷えするような冷たい声でぼそっと恐ろしいことを言ってくる。私は闘うのなんて嫌だ!死にたくない!!!!!


「これからみっちりとスパイ技術について教えてやろう」


「ボクのところの手練れも送ってやろう。何度も優良な情報を無傷で持ち帰ってきた経験者だ。君はこれからの魔族の未来を左右する要になるんだ。光栄に思うがいい。期待してるぞ」


 私の喉がヒュッと鳴るのを感じる。レイラさんは私を見て哀れみの目を向けてるし、正直助けはない。


「あぅん!」(コマはユミの味方!)


 俯くと膝の上にいたコマが尻尾を振ってキラキラとした目で鳴いた。やはり私にとっての癒やしはコマだけ……


「わんっ!」(一緒に闘う!)


 やはり私は戦争という運命からは逃れられないようだ……。


「さぁ!善は急げだ。今向こうのものに連絡してあいつを呼んでやるよ。明日には来るだろう」


「あぁならば今日のうちに作戦を立てておこう。ユミ、これからアルトロスを含めた首脳会議だ。もちろんお前も出席だからな。しっかりと作戦を頭に入れておくんだな」


「ひゃ、ひゃい…」


「あー…私は待機でいい?」


「あぅん…」(また退屈な話ぃ…)

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