第11話:モールさんと待ち合わせ!

 お風呂を終えた私たちには向かうべき場所があった。それは中庭だ。


 魔王城には中庭もあり、そこには美しい庭園が広がっている。様々な植物が生えており、鮮やかな花が輝かしい。


 ここにはモールさんがいるらしい。らしい…というのはセイラさんから『夕方に来るように』という伝達を貰ったからだ。内容は伝えられていないが、おそらく魔法訓練についてではないかと思っている。


「わふっ」(こっち!)


 コマに連れられるがままに歩いていくと藤の花のような紫色の花と草が絡みついたパーゴラがあった。そこには水色の髪をした一人の女の子がうたた寝をしていた。


 寝起きで興奮気味のコマをなだめつつ、その子に近づいてみる。


 パーゴラの中に設置してあるベンチで心地よさそうに眠っており、見ただけでわかる美少女だ。直前まで本を読んでいたのか、彼女の膝の上には開かれた本が置いてあった。


 暖かな気候とはいえど、このままでは風邪をひきかねないのでは?


 そう思った私は湯冷め防止で着ていた上着を脱いでその子の被せておくことにした。女の子は少し身じろぎしたが、再び静かに寝はじめた。


 私は少しだけ良いことをした気分になりつつも、教えてくれたコマの頭をなでて、その場を離れることにした。


 モールさんがどこにいるのかが分からないのでコマが気の向く方向に気ままに歩いている。時折、コマが風で揺れる花と戯れているのがまた可愛いらしい。


「ちょっと」


 突然声をかけられて振り向くとそこには探していたモールさんが立っていた。


「遅かったじゃない」


「すみません…どこに行けばいいのか分からなくて…」


「…あーもう!私の落ち度なんだからそんなに目に見えてしょげるな!」


 のんびりと探索していたことに反省しているとモールさんは励まして(?)くれた。やっぱりモールさんは根がいい人なのだろう。


「こっちにいらっしゃい」


 モールさんに連れられるがままに歩いていくと、さっき女の子がいたパーゴラと似たような場所にたどり着いた。さっきと違うところはおそらく、花の色が紫ではなく桃色という点だ。


「ほら、さっさと座りなさい」


「は、はい」


 モールさんに促されるままにモールさんの隣のベンチに座った。


「なんとなく察してると思うけど魔法訓練についての話ね」


「あ、はい」


「今日は特に魔法を使うとかじゃなくて明後日に向けたカウンセリングみたいなものだから肩の力は抜いてリラックスしてちょうだい」


 モールさんはどこからともなくメモ帳のようなノートを取り出して少し気だるそうに言った。


「私の質問に正直に、的確に答えて」


「はい!」


「あなた、元の世界だとどんな人だったの?」


「普通の学生でした。こっちに来たときはコマを散歩させてる途中でしたね」


「ふ〜ん…学生ってことは何か目指してたの?」


「いえ…元の世界のわたしの国では学校に通うことが割りと普通だったので…」


「へ〜珍しいのね」


 こちらの世界では『学校に通う=何か具体的になりたい職業がある』ということのようだ。やはり、高校などの学校に通うことが普通だとする考えはなかなかに珍しいというか、恵まれている環境だった…ということだったのだろう。


「あ、でも私、将来動物に関する職業につきたいと思ってたんで一応それに関するコースのある学校に通ってましたよ!」


「へぇ…あんた、動物好きそうだもんね」


 モールさんは少し呆れた様子でそういった。私の動物愛は筒抜けだったか…。


「確か、魔法が無い世界だったのよね?どういうふうに暮らしてたの?」


「魔法がない代わりに科学が発展してたんですよ。ない場所からなにかを出したりはできないので魔法のほうが便利だなぁ…とは思うんですが、才能とか特別な努力は必要ないので使いがってはいいですよ。こちらでいうと魔道具のような道具がより発展していたって感じですね」


「ふ〜ん…科学ね…」


 モールさんは感心したように頷いた。そりゃ魔法ばかりの世界で魔法と似たような技術があるとなれば気になるところだろう。


「じゃあ…あなたの世界にはどんな種族がいたの?」


「私の世界には人間か動物かの2種族でしたね」


「へぇ…なら戦争とかはどんな感じだったの?」


「戦争は宗教とか肌の色とか…国と国のぶつかりあいみたいな感じでしたね。まぁ私が生まれ育つ時代には戦争は一部の地域で起こることでした。少なくとも私の国では戦争は起こっていませんでしたね」


「肌の色、ねぇ…」


 確かにこの国は多種族が暮らしているし、肌の色なんて些細な問題なのだろう。私自身も肌の色くらいで差別だなんて…とは思うが、その些細な問題で大きな戦争が起こっているのが元の世界なのだから、悲しいところだ。


「ん〜…じゃあ、あなたのことについて教えて」


「えっと…私は両親と年の離れた幼い妹、そしてコマと暮らしていた普通の女の子でした。私は先程言ったとおり、学校に通っていたのですがそこで家庭科部というものに所属していて、裁縫やお料理などをしていましたね。なので裁縫やお料理は得意というか…趣味でしたね」


「ふ〜ん…異世界の料理は興味があるわね…」


「今度、作ってみましょうか」


「いいの?じゃ、じゃあお願いしましょうかしら」


 モールさんは目を輝かせて興味ありげに食いついてきた。その後、頑張って取り繕おうとしている様子もなんだか、子供っぽくて可愛らしいなと思った。


「そ、それより!次はその犬のことよ!」


「あ、はい。コマは現在、2歳の女の子で性格は基本的に警戒心は高いのですが、懐くと甘えん坊な可愛い子ですよ。まぁ、あんまり誰かに懐くことはないんですけどね…」


「わふっ!」(好きなものはジャーキーと散歩とユミです!)


 可愛いことを言ってくれるコマにきゅんきゅんとしながら、頭をガン撫でする。わちゃわちゃとしている私たちに冷ややかな目を向けるモールさんに気づいて慌てて座り直す。


「な、仲良いのね…」


「わぅん!」(なかよちっ!)


「えへへ…」

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