第12話:ロリから懐かれました!

「モルねぇ」


 背後から急に声がかけられる。その幼い声に振り向くと先程、眠っていた水色の髪の少女が立っていた。肩には私がかけておいた上着がかかっており、眠たげに目を擦っている。


「あら、パルナ。どうしたの?その服」


「そのおねえちゃんがくれた」


 パルナと呼ばれたその少女は私が上着をかけたことを知っているようだ。


「あなた、この子に会ったの?」


「あ、はい。さっきここに来る前に寝てたんで」


「パルナ…また外で寝てたのね!風邪ひいちゃうから外で寝ちゃダメっていつも言ってるでしょ」


「は〜い」


 す、すごい…モールさんがお姉ちゃんみたいだ…!


 パルナちゃんはモールさんの隣に座って引っ付き、眠そうにしながらもこちらを見上げた。


「おねえちゃん、だぁれ?」


「私?私はユミだよ。相田由美。最近、魔王軍に入ったんだ」


「ユミねぇ…」


 あぁ…なんだか妹のことを思い出すな…。妹もまだ6歳で来年小学校に入るからって一緒にランドセルを買いに行ったのを思い出す。向こうの世界では私たちはどんな扱いになっているのだろう。妹はきっと泣いちゃってるかな…?私のこと慕ってくれてたしなぁ。


 感傷に浸っているとパルナちゃんはモールさんの膝の上に乗って私に手を差し出してきた。


「パルナはね、パルナ・テイルズ。モルねぇの妹だよ。よろしくね」


「うん!よろしく」


 パルナちゃんの小さな手を握り返して挨拶した。やはり、パルナちゃんはモールさんの妹だったようだ。あまり似てないが、接し方が完全に姉妹だ。


「あー…パルナは義妹なのよね。だからこの子は竜人じゃなくてウサギの獣人なのよ」


「そうなんですね」


 モールさんは頭を掻きながら訂正した。言われてみてよく見てみるとパルナちゃんの長い髪の中に他よりも大きな毛束があり、その毛束はウサギの耳だったようだ。ロップイヤーかな?かわちい


「ま、妹が世話になったわね。この上着も返すわ」


 モールさんは少し恥ずかしそうにお礼をいいながらもパルナの肩にかかっている上着を私に返そうとしてきた。


「あ!パルナが貰ったのにぃ…」


「パルナのじゃないでしょ」


「むぅ…じゃあ、パルナから返すもん!」


 姉としてちゃんと叱る様子を見ていると妹を思い出すなぁ…。妹も背が届かないのにクリスマスツリーの星を自分がつけるって駄々こねてたな。結局、私が肩車してつけたんだっけ。


 思い出に浸っているとパルナちゃんが上着を肩からおろして私に差し出して来た。


「はい、ありがとぉ」


「うん、どういたしまして」


「えへへ、ユミねぇ大好き!」


 パルナちゃんは笑って私の胸に飛び込んできた。


 私の胸に頬ずりしながら再びウトウトとしはじめた。


「はぁ…まったく。うちの妹がごめんなさいね」


「いえ、妹もこれぐらいだったので…なんだか懐かしいですね」


「…そう」


 パルナちゃんの頭を撫でながらこちらを気にかけるモールさんに返事をする。


 こうして頭を撫でているとパルナちゃんの耳がどこにあるのかわかりやすい。水色の長い髪と耳を撫でながら半分以上眠りに入っているパルナちゃんを見つめる。


 モールさんもパルナちゃんを見て、目を細めて少し頬を緩めた。いいお姉ちゃんなんだろうなぁ、というのがよく伝わってくる。


「…一応言っておくけどパルナはあなたよりもずっと年上だからね」


「え?」


「それでいて魔王軍の準四天王ぐらいの強さではあるから」


「…?」


 パルナちゃんが?私の膝の上でウトウトしてるこのかわいいパルナちゃんが?準四天王?


「むにゃむにゃ…」


 異世界って難しんだね……。


 ふと太ももに何かが当たる感覚がしてそちらを見るとコマが私の足に顎を乗っけていた。セレストもコマの背中から私の太ももの横に移動しており、2人揃って私にピッタリとひっついていた。


「コマ?セレスト?」


「ふすぅー…」


 コマはため息をつくが如く息を吐いて、こちらを見向きもしない。セレストも私の呼びかけに何も答えることはなく、ただそばにいるだけだった。


 こ、これは嫉妬してる?!


 これは俗に言う嫉妬というやつでは?!コマは割と嫉妬することはあったんだけど、セレストも嫉妬してるのかな?だとしたら2人して可愛すぎるんだけど!


 どきまぎしながらもモールさんの方を見ると明らかに呆れた顔をしていた。


「……なによ」


「こ、これって…嫉妬、してるんですかね…?」


「じゃない?知らないけどね」


「はぅんっ♡」


 今すぐに2人を抱き寄せてもふもふわちゃわちゃしたい欲をなんとか抑えつつ、パルナちゃんが落ちないように気をつけながらコマとセレストを順番に撫でる。


 コマの機嫌も少し直ってきたのか、尻尾をゆっくりと振っている。セレストの機嫌はよくわからないが先程よりも暖かさが伝わってくるので喜んでくれているのだろうか。


「すー…すー…」


 穏やかな寝息に目を向けるとパルナちゃんもすっかり眠ってしまっていた。


「はぁ…ま、とりあえず今日のカウンセリングは終わりね。また明後日からみっちり訓練詰めとくから覚悟してなさいよ」


「うっ……お手柔らかにお願いします…」


 モールさんは一息ついてから立ち上がり、パルナちゃんの頭を撫でた。


 そして、私の足の上で眠るパルナちゃんを抱き上げると『じゃ』と言って去っていった。どこまでもクールで妹想いなんだなぁ、と思いつつも2人に作るお菓子はどんなものがいいだろうと頭を悩ませる。


「くぅん…」(終わった?)


「あぁ、ごめんごめん。コマにも今度おやつ作ってあげるからね。もちろんセレストにも」


「わふっ!」(やったー!)


(…おやつ…?)


「うん!美味しいよ」


(…おいし……)


 セレストも興味があるのか食いついてきた。セレストはきっとおやつを食べたことがないのだろう。というか食事は必要ないって言ってたし、味を感じられるのかな?


「さ、お部屋に帰ろっか」


「わう!」(帰る!)


(……)


 モールさんたちも喜んでくれるといいなぁ…。

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