第13話:家庭科部の本気
私は翌日、セイラさんの授業を終えて、早速厨房に来ていた。目的はもちろんお菓子作り。
私は家庭科部の次期部長と呼ばれるほどに部活熱心だった。お菓子作りに関しても後輩から教えを請われるほどの腕前だった。レシピも頭の中に入っているし、あとは材料があるかどうかだけ。
「こんにちは〜」
「おや、ユミちゃん。軽食をご所望かな?」
厨房に声をかけるとコルムさんがひょっこりと出てきた。
「あの、今度モールさんにお菓子を作ってあげようと思ってるんですけど、厨房を借りてもいいですかね?」
「おや、お菓子作りかい」
コルムさんは興味ありげに首を傾げた。
「ユミちゃんの世界の料理かい?」
「はい、そうです」
「ふ〜む…異世界のお菓子は興味のそそる話だね。どれ、厨房を貸してあげるから僕にも作ってくれないかい?材料もうちにあるものなら使っていいから」
コルムさんはなんとも嬉しい条件を提案してくれた。材料まで使っていいだなんてありがたい限りだ。
「ありがとうございます!もちろん、作らせていただきますよ!」
コルムさんに連れて行かれるがままについていくと、厨房の奥の材料保管庫に入った。中にはたくさんの野菜や瓶に詰められた何かがあって大変興味深いものばかりだった。
「何が必要なんだい?」
「えーと、そうですね……卵と牛乳とグラニュー糖ってありますかね?」
「グラニュー糖っていうのは砂糖のことかな?それならあるよ」
今回作るのはシンプルなプリン。熊って甘いもの好きのイメージあるし、パルナちゃんとかも好きそうだからいいかなと思い、これにした。
「早速作ってもらってもいいかい?」
「早速ですか?まぁ、いいですよ」
今日は確認だけのつもりだったけど、どうせならお試しで作ってみよう。作るのは簡単だしね。
どれくらい作ろうかな、と考えていると視線を感じた。そちらの方向を見ると他の料理人の方たちがこちらを覗いていた。
彼らは私と目が合うと、少しウジウジとしながら私たちの前に出てきた。
「あ、あの…ウチらも興味あるっす!作って欲しいっす!」
そう言ってくるのはおそらくリスの獣人さん。小さな栗色の耳をピコピコとさせて頭を下げていた。
そんな様子が可愛らしくて思わず頬が緩んでしまう。
「はい!作らせていただきます」
私は彼女のお願いを断るわけでもなく二つ返事で了承した。
まず作るのはカラメル。甘いプリンの中でもビターなアクセントを加える大切な部分だ。
今回作るのは私の分とコルムさん、そして6人の料理人さんの分と一応セレストの分で9つ。本当はモールさんたちの分も作ろうと思ったのだが、まだまだこっちでの料理に慣れていないので、また別の日に作ろうと思う。
鍋にグラニュー糖と水を入れて中火で熱する。ここのコンロは案外、元の世界のものと使い方が変わっておらず、なんなら元の世界のものよりも使いやすかったので安心した。
鍋の中身が茶色くなるまで煮詰めてから火を止めて、お湯を加えて混ぜる。
「おいおい、焦げてるぞ」
そばで興味深そうに覗いていた料理人さんの一人が心配そうに声をあげた。
「ふふっ、大丈夫なんですよ」
最初は焦がすなんて…って思うよねぇ
カラメルが出来たところでコルムさんに用意してもらった耐熱カップに入れる。元は小人族用のグラタン皿だったらしい。想像してみると可愛らしいね。
ボウルに卵とグラニュー糖を入れて混ぜ、沸騰しないぐらいに熱した牛乳を何度かに分けつつ少しずつ加えて混ぜる。これで生地の元は完成だ。
カラメルを入れた容器に生地の元を入れ、薄い布巾を敷いた鍋に並べる。水を容器の半分くらいまで注いで蓋をして中火。湯気が出てきたところでごく弱火に変えて蒸していく。
「で、出来たんすか?」
「まだですよ。これから2,30分蒸していきます」
うずうずとしている料理人さんたちに癒されながらも待つように促す。みんなで席に座って話しながらこの時間を過ごしていく。
「そういえばこれ、何作ってるんすか?」
「これはプリンという甘いおやつですよ」
「プリン…」
今にもヨダレが垂れそうなくらいにうっとりとした顔のリスの獣人さんに微笑みながらも補足をする。
「プリンっていうのは海外のおやつなんですけど甘くてぷるぷる食感の美味しいおやつですよ。案外簡単に作れますし、あとで分量とレシピを書いて教えましょうか?」
「お、お願いするっす!」
プリンは老若男女大好きなおやつ。甘くもあり、ビターでもあってだからといって甘すぎない最高のおやつだ。
コマは自分も貰えると思っているのか鍋をちらちらと見ながらワクワクして待っている。そっか、犬だからといつもの癖で作ってなかったけどプリンは犬も食べられるんだっけ。なら私の分とはんぶんこにしようかな。
「ユミちゃんは他にも美味しいおやつとかって知ってるの?」
「はい!私、一応家庭科部っていう料理とかお裁縫をするチームみたいなのに入ってたんで、よく作りますよ。なのでそういうお菓子とか料理とかは詳しい方です」
「そうなのかい。なら今度、他のお料理も教えてもらおうかな?」
「お任せください!」
コルムさんに教えを請われるなんて少し嬉しいな。こっちの世界の人の口にも合うといいんだけど……。
みんなで話しているとあっという間に20分も過ぎ、プリンの様子を見てみると全体が固まってきていてちょうどいい感じになっていた。粗熱をとってから冷蔵庫に入れて再び待つ。
「出来ましたよ〜」
冷えたプリンのカラメル部分を少し温め、容器から取り外し、皿に乗っける。カラメルが下の方に垂れて、ぷるんとしたとても美味しそうなプリンの出来上がりだ。
皆がごくりとつばを飲んでコルムさんが先陣を切って一口スプーンですくって口に運んだ。しばらく口の中で味わうように目を閉じて黙り込んだ。
「……」
皆がコルムさんに注目し、その場にドキドキとする静寂が広がる。
「……美味しい」
コルムさんのその一言に私の胸はフッと軽くなった。
「うん、甘すぎないしそれでいてクリーミーで美味しい。上の部分も苦いかと思ったけど全体の味に合っていて最高だ」
コルムさんの食レポにヨダレが垂れそうな料理人さんたちも我に返って自身のプリンに手を付ける。
「お、美味しい…」
「〜〜!!!!私これ好きっす!」
みんなコクコクと頷きながらプリンを少しずつ食べ進め、舌鼓を打っていた。
とりあえずみんな気に入ってくれたみたいで嬉しい限りだ。
コマ用に自身のプリンを半分にして、もう一つのお皿に取り分ける。コマはもらえないと思っていたのか尻尾をブンブンと振って大喜びしている。
「はい、お食べ」
「〜!〜!」(やったー!美味しー!)
コマの幸せそうな雰囲気に癒やされながらも自分の分を口に含む。うん、ちゃんと甘いし、ぷるぷるしてるし、これは大成功だ。
(あるじ、おいしい、ありがと)
セレストもすっかり食べ終わって空になった皿の上でお礼を伝えてきた。
みんなが喜んでくれて嬉しい限りだ。これはきっとモールさんたちも喜んでくれることだろう。あ、でもアレルギーとかないか聞いておかないとなぁ。パルナちゃんならキラキラした目でなんでも美味しく食べてくれそう。
そんなことを考えながら私は紙にプリンの材料と作り方をメモしていくのだった。
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