第10話:みんなで入るお風呂はあったかい?
食事が終わった私たちはセイラさんによる授業を受けていた。
今回はディル様が所轄するこの国について。
この国はレグナ・クローブ王国という名前で魔王様が治める国の中では3番目にでかいらしい。種族も多様で人口も1億人にのぼるとか…。
この国の名産品は主に野生動物や魔物からとれる肉。なんでもこの国には多くのダンジョンがあるらしく、そこにいる魔物やダンジョンを囲う森に住む動物たちの狩猟が盛んらしい。どおりで昨日からお肉が美味しいと思ったよ。魔物と動物、どっちのお肉なのかは知らないけど。
そしてここの国政はかなりいい方らしい。
社会福祉もわりかししっかりしているし、子育てもしやすく、娯楽もたくさんあるという最高の国だった。それもこれもディル様が開拓していったらしく、ディル様はみなに尊敬される良い国王らしい。なんだか、魔王という存在を見直した。
ただ、話を聞いたり、質問してみた感じ、日本よりも医療や福祉の度合いはそこまででもなさそうだ。まぁ、精密機械がないからしかたないところだろう。
その他にも国土の話や世界地図も見た。
国土は日本よりはでかいっぽい。海とは面していないが、国土内に大きな湖があるらしく、湖や山から流れる川から魚を獲っているらしい。魚の味も絶品らしいので気になるところだ。
また、他の魔王の領土は少し離れたところに第四魔王様の所轄地があるらしい。勇者側の国はわりかしまとまっており、ここの国からは結構遠い。一番勇者側の陣営と近いところでも山を五つぐらい隔てているので急に襲われることは中々ないだろう。
「ん?ここの国だけ島国なんですね。それも小さめ」
「あぁ、そこは第三魔王様の所轄地ですわね。第三魔王様は珍しいことに人魚なんですの」
人魚は本来であれば魚族。中立な立場だが、魚族の中でも人魚族は魔王よりらしい。もとより人魚族は人間側と敵、魔王側とはそうではないらしい。『敵の敵は味方』というやつらしい。本で読んだところによるとはるか昔に人魚の肉や鱗で作った飾りが人間側で流行ったことがあったらしい…。恐ろしい…。
「本当は海の中に住んでいるらしいんですが、島を所轄地として魚が主食な者や海が好きなものを対象に統治しているらしいですわ。第三魔王様自体、かなり穏やかな人で多くの人がその優しさに魅了されているんですの。なので、島国ながらに人口は見た目以上ですよ」
「ほう…私も島国出身なので気になりますね」
「あら、そうでしたの?いつか行ってみることをおすすめしますわ。私自身行ってみたことがありましたが、第二魔王様の魔王軍に所属してなかったら住んでいたかもしれません」
セイラさんはふふふと笑った。その発言は大丈夫なものだろうか…。
「今日はとりあえずここまでですわ。さぁ!ユミさん!一緒にお風呂に入りにいきましょう!」
セイラさんはガバっと私の肩を掴むとそういった。何を急に…と思ったが、実は昨日セイラさんにお風呂を一緒に…と誘われていたのだが、つい忘れていて自分だけで入ってしまっていたのだ。
これは流石に断れないので一緒に入ろう……。
私たちは二度目になる大浴場に来た。ちなみにコマはお風呂が好きではないので更衣室で寝て待っていると言っていた。セレストも同様で…というか溶けてしまわないか心配なので残ってもらえて少し安心する。
「ユミさん、洗ってあげるので座ってください」
「え、私別に一人でも…」
「座ってください!」
「はい…」
セイラさんはやけに元気で少し目が血走っているような感じがする…。
セイラさんに言われるがままに椅子に座って洗われる。セイラさんの手つきは優しくて落ち着く。
ガラッ
ふと開かれた大浴場のドアのほうを見ると食堂でも見かけた騎士団の人たちが入ってきたその中にはあの団長さんもいた。
「あら、訓練終了時刻と被ってしまいましたわね」
どうやら訓練が終了してみんなで汗を流しに来たのだろう。
セイラさんによる洗髪を大人しく受けていると私の隣の席から視線を感じた。
そちらを見てみると団長さんが身体を洗っていた。こちらは特には見ていないが、なんだか不思議な人だ。
「あら、ミレイナさん。人の隣に座るなんて珍しいじゃないですか」
「…どうでもいいだろ」
セイラさんは驚くべきことに団長だんに絡みだした。それもなんだか穏やかな雰囲気ではない。シャンプーが目に入りそうなので目は開けられないのだが、正直背筋に冷たいものを感じるくらいに恐怖を感じる。
というか、団長さんってミレイナさんっていうんだ。綺麗な見た目と相まって名前が似合ってる〜!ってそんなコト言ってる場合じゃないよ!温厚なセイラさんと団長さんが睨み合いって!絶対にヤバイでしょ!
もしかしてこの2人って大分相性悪かったりする?
「ユミさん、この方には気をつけてくださいね。変態なので」
「は、はぁ…?」
初対面の人に『お姉ちゃん』と呼ばせるのもそこそこに変態なのでは?
そんな言葉はなんとか抑えて、言葉を濁した。
「ふんっ……人間、そいつは色魔だ。いつか食われるぞ」
「あぁら、色魔だなんて。自己紹介のお間違いでは?」
ば、バッチバチだぁーーーー!!!!!!
ていうかセイラさんってやっぱり色魔なの?いや、これは罵り言葉的な感じの言葉なのか?正直私には何にもわかりません!助けてコマ!!!!!
「くしゅんっ」
言い合いによりセイラさんの手が止まってしまっていたのでついくしゃみをしてしまった。
私はくしゃみによって無事にあの2人の間を抜け出すことができた。…一時的には。
自身の身体を洗い終えた2人は再び私を挟むようにお湯に浸かった。目線は2人とも合ってないはずなのに2人が睨み合っている感じがする。それに両側からとてつもない圧を感じる。これが殺気というやつか……。
「人間…確かユミといったか」
「ちょっと、私の妹に軽々しく声をかけないでくださる?」
「お前は確か素早いんだったな」
ミレイナさんはセイラさんの圧に対して何の反応もなしに私に話しかけてきた。
「私は魔王様より直々にお前たちの訓練を任されている。明日からはビシバシ指導するからな」
「え、あっそうなんですね。で、ではよろしくお願いします!」
何を言うかと思うと挨拶みたいなものか…。結構律儀な人なんだなぁ。ていうかこの方、全く表情変わらないんだけど。ていうか目が合わない…。と言うよりかは私の胸ガン見してない?もしかしてそっちの気ある感じ?
流石にずっと胸を見られているのは落ち着かないので手でさっと隠した。ミレイナさんは少しシュンとした顔になった…気がする。
「ユミさんの胸を私の許可なしに見るなんて、いい度胸じゃないですか」
「お前の許可なんて必要ないだろ。この腐れ色魔が」
「よく言うじゃないですか。人間オタクの変態サイコパスさん♡」
2人は睨み合ったまま立ち上がった。
ザパァーと波がたち、セイラさんの大きな胸とミレイナさんの黒い尾羽根が揺れた。ほほぅ…これが本当の烏の濡れ羽色…。
私はそっと湯船から出て、睨み合う2人から逃げるようにコソコソと大浴場から出た。
タオルで身体を拭いて、用意されていた服に着替えて髪を乾かすために鏡の前の椅子に座った。魔法というのは素晴らしいもので机についている魔石という石に魔力を注ぎ込むだけで勝手に髪を乾かしてくれる。この鏡台は魔道具というやつらしい。ワンチャン科学よりも進んでいるのでは?
髪を乾かし終わったところで私は隅で丸まって寝ているコマのもとへ近づいた。
コマは寂しさを紛らわせるためなのか私の着ていた服を引っ張り出して、そこに花を突っ込むようにして寝ていた。セレストもコマのそばで待機しており、知らない間に2人の距離が縮まったんだなぁと嬉しくなる。
「こまぁ〜、出たよ〜」
「…ぁうん」(う〜ん…ユミはコマの…)
コマの頭を撫でながら、コマから服を取り戻して洗濯へ回す用のBOXに入れて、横のボタンを押す。これを押すことで他の人の分とまとめて洗濯しておいてくれるらしい。便利だなぁ…。
未だ浴場から聞こえる2人の声を背に、コマとコマの背中に乗ったセレストともに更衣室を後にした。ちなみにこれも私がいないうちに発見した移動方法らしい。セレストも気に入っているのかな?
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