第9話:異文化お食事交流!

 食堂についた私たちは早速カウンターへと向かう。


 魔王城の食堂は学校の食堂と似たようなもので、カウンターでどんなものが欲しいかとか言うと食堂のおじさんがついでくれるのだ。

 ちなみに食堂のおじさんは大きな熊の獣人さんでコルムさんという方。穏やかな雰囲気が癒やされるいい人だ。人間で新参な私にも優しいし、コマにも薄めの味付けでコマが食べられるものを用意してくれる。


「コルムさん、こんにちは」


「おや、いらっしゃい、ユミちゃん。今日はいい肉が入ってるんだ。それにするかい?」


「はい!お願いします」


「わうんっ!」(コマも!)


「はい、コマちゃんもね」


 コルムさんは大きな手でご飯と鍋の中身をすくってお皿についでくれた。どんな味7日は分からないが、見た目はカレーライスみたいな感じだ。コマにはコマの一口分くらいに切って焼いたサイコロステーキのようなお肉をお椀に入れてくれた。


 私たちはコルムさんにお礼を言って席についた。コマは席についても机の位置が高すぎて食べれないので特別に椅子を2つくっつけてそこで食べる許可を貰っている。ちなみにこのアイデアはコルムさん発案で本当に優しい方だと心を打たれた。


「いただきます」


「わふ!」(いただきましゅ!)


 コルムさんの料理は絶品。まだ来て二日目だが、この料理の旨さにはすっかり胃袋を掴まれてしまったものだ。

 コマの食いつきもよく、尻尾をブンブンと振ってはすっかりお肉に集中していた。


 ちなみにセレストは食事が必要ないとか言っていて、現在私の足の上でぼーっとしている。それでいいのかな?


 私も一口、二口と口に運んでいく。何のお肉なのかは分からないが油っぽさはそこまででもないし、柔らかくてとても美味しい。見た目はカレーだが、どちらかと言うとビーフシチューのような味わいで野菜も柔らかくて甘い。野菜も肉も私にとっては大きいが、このゴロッと感がまた良い。


「美味しいねぇ…」


「あう」(うまい!)


 コマはあっという間に食べ終わったようで空になったお皿をペロペロと舐めている。


「わうん…」(もうなくなっちゃった…)


 ピカピカになったお皿を寂しそうに見つめつつ、チラチラペロペロと私のお皿を見てくる。見てもあげないからね?


 こちらを見てくるコマを無視しながら食べ進めていると食堂の入り口のほうが騒がしくなってきた。


 そちらを見てみるとどうやら騎士団の人たちが訓練を終えてきたところだった。戦闘を歩いているのは昨日、玉座の間で青い女性と対になるように魔王様の横で立っていた女性だ。

 彼女はいわゆる鳥人間でほとんど人の見た目だが、黒の翼がカッコいい。カラスの鳥人で騎士団の代表を務める一人だ。一つにまとめた美しい艶のある黒髪…いや、これこそ烏の濡れ羽色というのだろうか。見た目が完全に堕天使、もしくわ烏天狗で女性として憧れるタイプの方だ。


 騎士団の人たちはわいわいとコルムさんから料理を受け取り各々の席につく。人数も人数なので念のためコマが使っていた2脚のうち1脚は元の形に戻しておいた。


 再び食事を再開しようとした時、目の前にあのカラスの団長さんが座った。


 彼女は私と目が合うと少し笑った気がしたが、すぐに真顔に戻って食事を開始した。なんかついてたかな?


 私たちの座っていた長机にも何名かの騎士団の方々が座り、食堂はあっという間に騒がしくなった。


「おい!オレの肉奪いやがったな!」


「あぁ?知らねぇよ。お前が食ったの忘れたんだろ!」


 ふと前方の席でうるさいぐらいの怒号が飛び交った。


 そちらを見ると大きな体のワニの人と大きな角の生えた人が喧嘩しているようだった。2人とも恐ろしい顔で怒鳴りあっていてとても怖い。


「おいおい、どうしたんだい?」


 あまりの騒がしさにコルムさんも厨房から出てきた。コルムさんは2人よりも大きく、それでいて優しげに声をかけた。


「こいつがオレの肉を食いやがったんだよ!」


「あぁ?!食ってねぇよ!言いがかりはよしやがれ!」


 2人はコルムさんに気にかけることもなく、再びつかみ合いの喧嘩をはじめた。


「ちょっとちょっと…ホコリが舞うから暴れないでおくれ」


「食事の恨みはつえんだぞ!」


「うるせぇ!ちっこいことを気にすんなよ!」


 コルムさんは頑張って声をかけているが、2人は気にする様子もない。


 流石にこれはこっちも苛立つ。コマもコルムさんによく懐いてるからこの様子にはイライラしているようで尻尾を下げて唸っている。


「……」


「やんのかおらぁ!」


「あぁ?!」


「うるせぇんだよてめぇら!」


 一瞬誰の声かわからなかった。しかし、その正体がコルムさんであることはコルムさんの表情から察せられた。


 コルムさんは普段の穏やかな顔とは打って変わって2人を強く睨んでいた。


「おめぇら、俺の食堂で騒ぎやがってよぉ」


 コルムさんはドスの利いた声で2人を制した。2人はいつもとぜんぜん違うコルムさんにビビっているのかすっかり縮み込んでしまっている。


「騒ぐならよそでやれ!あとおかわりは自由なんだから奪い合いとか言いがかりとすんな!バカどもが」


 コルムさんはそう言うと2人を無理やり席に座らせて、驚きで固まっている私たちに一言謝って再び厨房へ戻っていった。


「す、すご」


 思わずそうつぶやいてしまいつつ、私も食事を終えた。


 コマを椅子から下ろしてコマと自分の使っていた皿をまとめて返却口に戻しに行った。その際に後ろから目線を感じて振り向いてみるが、相変わらず黙々と料理を口に運ぶ団長さんとわいわいと食事を楽しむ騎士団の方々しかいなかった。気のせいかな?


「ごちそうさまでした」


「わう!」(でした!)


「おや、口にあったかな?」


 コルムさんはいつもどおりゆったりとした口調で、微笑みかけてくれる。


「はい!とても美味しかったです!」


「わう!」(おじさん料理も喧嘩もつよい!)


「ふふ、ありがとう」


 コマは興奮気味にぴょんぴょんと跳ねながらコルムさんを見つめていた。


「なんだか、孫ができた気分だねぇ」


 コルムさんはニコニコと笑いながら返却口に頑張って顔を出すコマの頭を撫でた。コルムさんって本当にいい人だなぁ…


 コルムさんに再び挨拶をして食堂を後にした。謎の視線を背中に感じながら。


 そういえばあのお肉って何のお肉だったんだろう……。

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