第20話:騎士団長さんは人間オタク

 私はミレイナさんと一緒に大浴場に行き、服を脱ぎだすミレイナさんに習って服を脱ぎはじめた。


 コマとセレストには待ってもらうように指示しておき、脱いだ服を『即洗浄魔道具』という日本で言う乾燥機付き洗濯機に入れた。この魔道具はすごいことに20分くらいで洗濯と乾燥が終わってしまう。すごい。


 先に浴場に入っていったミレイナさんに続くように浴場に入り、ミレイナさんの2つ隣の席に座った。ちょっと気まずいからね。


 慣れたように魔法石に触れて、シャワーを流していく。


 これもこの世界のすごいところで魔法石に触れると自分の望むくらいの水温で水が流れてくる。お風呂大好き日本人としてはありがたいところだ。


 やたらと隣からの視線を感じながらも気づいていないフリをしながら体を洗い流していく。


「…洗ってやろうか」


 ふと隣からそんなことが聞こえてきた。


 『洗ってやる』?正直言ってその言葉の信用度は低い。なぜかというと息が荒いから。明らかに焦点も合ってないし、なんか目血走ってるし普通に怖いです。


「…だ、大丈夫です」


 私がそう答えるとミレイナさんは意外にもすんなりと受け止め、しゅんとして自身の身体を洗いはじめた。


 ササッと体を洗って汗を流すと湯船に浸かりに行く。今日は私達以外人もいないので広々としている。


「ふぅ〜……」


 広いお風呂場の壁の方に寄りかかりながら手足を伸ばす。体の芯から温まっていく心地よい感覚に溶けてしまいそうだ。


「…………」


 ざぷんっと少しの音を立てて隣にミレイナさんが座る。こんなにも広いのに隣同士で座るのは少し恥ずかしいというか気まずい……。てか肩触れてます…。


「…人間というのは耳が丸いんだよな」


 急にミレイナさんはそんなことを言ってきた。確かに魔王軍の他の方々は耳が少し尖っている。ミレイナさんも同様でよく想像するようなエルフ耳ほど長くはないがそれでも人間の耳よりも少し先が尖っている。


「それに、こんなにも繊細だ」


 ミレイナさんはそう言って私の腕をなぞってくる。少しゾクゾクとして、体がビクッと反応してしまう。


「私は人間に興味があるんだ」


 ミレイナさんは私が逃げられないように私の顔を挟み込むように壁に手をついた。


「なぁ…人間のこと…貴様のことを詳しく教えてくれないか?」


 ミレイナさんは相変わらず無表情でこちらを見つめてくる。しかし、その目はどこか血走っていて興奮している様子だ。


「え、えっと…く、詳しくって」


 私は聞いてはいけないことを聞いてしまったようだ。


 ミレイナさんは私のお腹をなぞるように撫でてくる。心なしかミレイナさんの息も荒く、段々と体の距離も近く……


ガラッ


 その時、浴場の扉が勢いよく開いた。


「ん?なんだお前ら。性行為は自室でやれ」


 現れたのは天使…ではなく魔王たるディル様だった。


 ディル様は前を隠すこともなく、腰に手を当てて堂々と立っていた。


 ジト目でこちらを怪訝そうに見ており、本気で私たちがそういう行為をしていたのだと勘違いしていそうだ。


「せ、せいこぅ…じゃなくて!でぃ、ディル様!お背中を流しましょうか?!」


 私はミレイナさんの隙をついてミレイナさんのもとから抜け出した。


「む?じゃあお願いしようか」


 た、助かった〜


 ミレイナさんの突き刺さるような視線を感じながらもディル様の背中を洗っていく。もし、ディル様が来なければセイラさんの言う『コレクション』の一部になってしまっていたかもしれない……。


 ちなみにその後に来たルンさんに事情を説明してみるとルンさんは怒った様子でミレイナさんを引っ張って更衣室で全裸説教していた。


 やっぱり信頼できるのはルンさんだよね…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る