第21話:第四魔王様ってどんな人?

 なんだかんだでもうすぐ魔王軍に来て1年になる。


 セイラさんからの授業もかなり進み、この国のことや勇者側の事情であったり情報もかなりわかってきた。


 モールさんからもたくさんの魔法を学んだ。気がつくとコマはモールさんと肩を並べるぐらいたくさんの魔法を習得しており、私なんか足元にも及ばない。というか私は未だに初級魔法から抜け出せていない。

 なぜだか知らないが私は初級魔法しか使えなくて威力もそこまで強いわけではない。やはりチートなどなかった……。で、でも!初級魔法はほとんど網羅したと言うか!(まぁ使えて普通の魔法なんですけど…)


 あと戦闘訓練!相変わらずミレイナさんには定期的に狙われている感じがするが、ある程度の体術は学べた。前の世界では剣なんて握ったことはなかったが、最近はようやく形になってきた。

 コマも魔法無しでオルクや他の魔獣とやりあえるようになっていて、正直私にはコマの動きを目で追うのが精一杯だ。


 セレストも同様でいつの間にかミレイナさんに対抗できるようになっていた。しかし、ミレイナさんも騎士団長。流石に力及ばないが、私が襲われそうになった時に毒を吐いて守ってくれる。頼もしい限りだ。


 他の方々との交流も深まったもので今では廊下ですれ違うと挨拶してくれる人が増えて、居心地がいい。



 そんなこんなで大分慣れてきた今、私はディル様に呼び出されていた。



 もしかしてもうそろそろ人間側に飛ばされるのだろうか…そんな不安を胸に抱えつつもディル様の執務室をノックして返事を待ってから入る。


「おう、来たか」


 ディル様は私が入ってくるとソファに移動して紅茶を淹れてくれる。差し出された紅茶を一口飲む。やはりディル様の淹れる紅茶は格別で美味しい。


「早速だが本題に入ろう。実はな来週に第四魔王が来るんだよ」


 どうやらまだスパイには行かないようで少し安心するが、『第四魔王』という言葉に体が反応する。


「うちに人間がいると知ったら大分興味を持ってな。それでお前に接待してもらいたいんだ」


「わ、私が?!」


 私が魔王様の接待?!そ、それって私、大分重要な役割じゃない?!


「あぁ…でも、安心しろ。向こう側にも人間がいるんだ」


「え?!」


「どこからかさらってきた人間らしいんだが、お前と同じ女だそうだぞ。よかったな」


 な、なにが良かったなんだ……


「第四魔王についてはルンが詳しいからな。ルンに色々教えてもらえ」


 ディル様がそう言うとどこからともなくルンさんが現れた。






 私はルンさんと部屋を移して椅子に座る。


「それじゃ第四魔王様についてね。実は私がディル様の元につく前は第四魔王様の元で働いてたのよね。だから詳しいの」


「え?!そうなんですか」


「えぇ、ディル様が私の実力を認めてくださって幼い私だったのだけど引き抜いてくださったの」


 ルンさんはうっとりとした様子でそう言った。こうしてみるとただの恋する乙女みたいで可愛らしい。


「第四魔王様はアルトロス・メルト・ダイラークという名前。種族は悪魔族の中の吸血鬼種ね。体は結構華奢なんだけど、流石は吸血鬼というべきか力はとんでもないわ」


 前にセイラさんから渡された魔王様の情報を思い出しながら聞く。


 確かアルトロス様はメルト神王国の王様で別名『眠らない国』だったけな。吸血鬼というだけあって、その国には悪魔族が中心に住んでいて他の国よりも夜が特に活発なんだっけ。


「性別は女性に近い中性。性器とかの器官は特に無いんだけどたまに魔法でアレコレして気まぐれに女性を孕ませることがあるらしいわ。まぁ、簡単に言えばサイコパスね」


 き、気まぐれに?!なんかちょっと怖くなってきた…。


「まぁ流石に人のものには手を出さないと思うけど、あまり機嫌を損なわせちゃダメよ。特にその犬!」


 コマは首を傾けて『はて?』という顔をする。


「ここに来たときみたいに無闇に攻撃したり、威嚇しないことね。わかったかしら?」


 コマは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。相変わらずこの二人は馬が合わないようで未だにこうして突っかかりあっている。


「〜〜〜〜〜っ!ま、まぁいいわ!何か質問はあるかしら?」


「え、えっと…向こう側にも人間がいると聞いたんですけど…どんな方なんですか?」


「あぁ…人間ね」


 ルンさんは顎に手を当てて考え込む。


「あの人間はここ数年で入ったらしいから私はよく知ってるわけではないんだけれど、どこかの国のお姫様らしいわよ」


「え?!お、お姫様?!」


「えぇ。どこかの国と戦争した時にドサクサに紛れてさらったらしいわよ。噂によればアルトロスはそのお姫様のことを眷属にしたらしいわよ」


「け、眷属…」


 たしか吸血鬼種は人間や多種族と血を混じらわせることで眷属として従属させることができるはず…。


「で、でもそんなことをすれば余計に戦争になるのでは…?」


「それがあの魔王様はお姫様を攫うことを条件に戦争をしばらく仕掛けないように約束したらしいのよ。だから人間側がどれだけ取り戻したくったって仕掛けるに仕掛けられないってわけね」


 ほへぇ〜…考えたなぁ…


「ま、接待頑張ってね。大変だろうけど」


 そういってルンさんは私に優しく言葉をかける。出会った頃には考えられない状況だが、随分と私に心を開いてくれたみたいで嬉しい。

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