第22話:攫われたお姫様
というわけで今日は第四魔王様とその御一行か来られる日です!
私は緊張で胃が痛いです!!!!!!!!!!!
「ほら、ぼさっとしてないで出迎えに行くわよ」
私はルンさんに連れられて魔王城の入口にやってくる。そこからは魔王城の門が見え、禍々しくてとんでもなくデカい門はそれだけで恐怖心を掻き立てられる。
ちなみに今日はコマと一緒じゃありません。なぜならコマが失礼な態度を取る可能性が大きいから!
まぁずっと離れ離れというわけじゃなくてお出迎えのときぐらいは別々って感じ。あとで合流してまた再度ご挨拶って感じだね。ファーストコンタクトは重要だもんね。
しばらく待っていると門の向こうから真っ黒な馬車がいくつか走ってくる。門のあたりで待機していたたくさんの騎士の方々は一斉に頭を下げ、敬意を示す。
馬車が止まるとルンさんがそちらに歩いていくので私も連れられるように歩く。
一つの馬車から一人の少女?が降りてくる。
彼女は真っ黒なドレスを身にまとっており、その肌と髪は色素が抜け落ちたかのように真っ白だ。それでいて瞳は真紅のように赤く、彼女こそが第四魔王、アルトロス様なのだろうと感じさせる。
「ようこそ、アルトロス・メルト・ダイラーク様。お待ちしておりました」
私もルンさんに習って頭を下げる。すると頭上からクツクツと笑い声が聞こえてくる。
「久しいな、ルンよ。元気そうじゃないか」
「…お陰様で」
「して、そちらがかの人間だな」
アルトロス様はルンさんに一言挨拶すると私に目を向ける。
「お、お初にお目にかかります。一年ほど前よりこちらでお世話になっております。ユミと申します」
私はセイラさんから習ったように挨拶をする。これで合っているのだろうかという不安が胸を駆け巡る。
「ふ〜ん…人間っていうからもっと首輪とかされてるのかと思った」
ふとアルトロス様の後ろからそんな声が聞こえてきた。
目をやるとアルトロス様の後ろにきれいな金髪と桃色に近い赤の瞳をもった少女が偉そうに立っていた。きっと彼女が元お姫様の人間なのだろう。
私はどう反応していいのかも分からないので軽く微笑んでおく。
「…立ち話もなんですし、どうぞ中へ。ディルシスト様もお待ちですよ」
「おう、アルトロス、待ってたぞ」
「あぁ、変わらないなディルシストよ」
二人の魔王様の会合。見た目は可愛らしい二人だが、中身が中身なだけにとんでもなく恐ろしいものに見えてくる。
何やら二人は積もる話もあるようでかなり楽しげ(?)に話し合っているようだ。
「ねぇ、あなた」
「は、はい」
ふと隣に立っていた元お姫様が話しかけてくる。
「ユミと言ったわね。私はレイラよ」
「れ、レイラさん。よろしくお願いします」
レイラさんはツンとした態度で私を見てくる。ちょっとモールさんみあるね。
「あなた、どういう経緯で魔王軍なんかに入ったのよ。まさか人間に恨みが?」
「い、いえそういうわけでは…ただ気づいたら召喚されてて、入らざる負えなかったと言うか…」
私の事情について説明するとレイラさんは同情の目線を向けてくる。
「そう……あなたも大変ね」
レイラさんは最初こそ冷たい印象だったが優しい心の持ち主のようで少し安心した。
「私はね、攫われてきたのよ」
レイラさんは目を伏せて自身の事情について話し始める。
「私、元は一国のお姫様だったの。双子の妹がいて、妹よりも能力が劣る部分もあったのだけれど、姫としての役割は果たしていたつもりよ。ま、戦争の時にお城にいた私が攫われて挙句の果てに眷属にされてしまったのだけれど」
レイラさんは自虐的にそう笑う。
私はそんなレイラさんがなんだかほっておけない気持ちなる。
「レイラさん、まだ会って間もないですけど私はレイラさんのこといい人だと思ってますよ。そ、その…厚かましいかもしれませんが、友達になりませんか?」
私はレイラさんの手を握り、そう笑いかけた。
レイラさんは少しポカンとしたあとお姫様らしからぬ顔でニヤッと笑った。
「もちろんよ!」
「おうおう、仲がよろしいことで!」
「流石ユミだな!お姫様を懐柔したぞ!」
飛んできた野次馬の声に顔を向けると二人の魔王がこちらを見て大笑いしていた。
「な、何よ!こっち見てんじゃないわよ!」
レイラさんは怖いもの知らずのようでそんな二人に怒号を浴びせる。
「ま、二人も積もる話があるなら別の部屋に行ってもいいんだぞ?」
ディル様はそう言って扉を指差す。
「い、行きましょ!」
レイラさんは私の手を掴んで廊下へ出る。そのまま隣にある別の部屋に手早く入る。幸いにもその部屋は応対室だったのでソファがある。
レイラさんはソファに向かってドカッと座り、私を隣に座らせた。
「どーにも魔王って好きになれないのよね。当たり前だけど」
「はは…レイラさんって結構豪快ですね」
「はんっ!あの魔王に気なんて遣えないわ。それにあいつは私のこと、殺さないし〜」
レイラさんは私の肩に頭を乗せて盛大に溜息をついた。
レイラさんは元お姫様と聞いていたのでもっとお上品なイメージがあったけれど、当の本人は全然お姫様じゃなくて豪快。そんなところに惹かれる自分もいます。
「ねぇユミ…あんたって魔王の言葉のままに生きるって嫌じゃないの?」
レイラさんはふとそんなことを聞いてくる。その目は先程のものとは違ってとても真剣で私のことを見据えていた。
「うーん…正直言って人間と闘いたいとか恨んでるとか…そういう感情は私にはないですし、魔王様のもとに来たから逆らえるわけでもないです。だから同じ人間と争う形になってしまうのは嫌ではあります」
私はできるだけ自分の気持ちがそのまま話せるように息を整えてそう話しだした。
「いまだに不安はありますし、戦争に加担してしまうのは嫌ではありますが、ここの皆さんには恩がありますしね……」
私は戦争という言葉に胸を痛めながらそう言った。
日本という戦争とはかけ離れた国で平和に…いや、平和ボケして生きてきたからこそこうして戦争の一環に立つとあると恐怖や不安という感情が一気に押し寄せてくる。
できるならば戦争なんてしたくはないし、スパイにもなりたくない。だが、この世界で私が生きていくにはこの道しか残されていない。
「ふ〜ん……ま、あんたも大変ね。魔王って大体サイコパスだからね。あんたが『戦地に赴いて人間を殺しまわれー!』とか言われなかっただけマシよね」
レイラさんは無感情にそう言った。彼女も彼女で魔王側として生きることに諦めがついているようだ。
「ま、私もあのサイコに夜伽を求められてないだけ幸運よね〜」
レイラさんは自身の爪をいじりながらそう言い放った。綺麗に整えられた爪だな〜。
キィ…
レイラさんと他愛のない話しをしていると扉がそっと開けられた。
もしかして魔王様たちの話しが終わったのかな?と思い、姿勢を整えようとしたが、そこにいたのは小さな犬…コマだった。
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