第23話:これがうちの愛犬です!

「あぅん!」(コマのこと忘れてたでしょー!)


 コマは怒った様子でこちらを睨んでいる。


「なに?あの犬…」


 レイラさんも目をパチクリとさせてコマを不思議そうに見せている。


「あぁ…あれはコマっていう名前のうちの愛犬で……こまぁ、ご、ごめんねぇ」


 私はそっと立ち上がってコマのもとに駆け寄り、拗ねるコマを目一杯撫でて抱っこした。


「へぇ〜…珍しい犬ね。あんまり見ない体してるわ」


 レイラさんはコマを見て珍しげにそう言った。


「へへ…コマは私の出身国特有の犬なんです」


「ふ〜ん…私、犬はあんまり好きじゃないけどこの犬は犬っぽくなくて好きよ!」


 そ、それは果たして褒めているのだろうか……。


「きゅう〜ん?」(この人だぁれ?)


「あぁこの人はね、こないだお話してた第四魔王様のところの方だよ。レイラさんだよ、レイラさん」


 コマにレイラさんを紹介しながらも再びレイラさんの横に座りなおす。


 コマは興味ありげにソファについているレイラさんの手をクンクンと嗅ぐ。レイラさんは先程とは違って興味なさげにその様子を眺めている。


「この犬、弱そうね」


「わんっ!」(コマは強いよ!)


「わっ!な、何よ」


 コマは弱いと言われたことに対して怒り心頭のようだ。


「こ、コマは強いんだ!って言ってますね。実際にコマは強いですよ。言うなればあのルンさんと渡り合えるぐらいですね」


「はぁ?!あの女と?」


 レイラさんは信じられないという様子で口をあんぐりと開けてコマのことを見つめる。対してコマは自信ありげにドヤ顔している。かわいい


「へぇ〜こんな可愛らしい顔してるのに…」


 コマは可愛いと言われたことで更に機嫌が良くなり、レイラさんの手にお尻を乗せて座った。


「あ、これは機嫌が良くなって触ってもいいよって言ってますね。コマはあんまり私以外の人に体を触らせることはないんでレアですよ!」


 レイラさんは私に急かされるようにコマの背中に手を載せて毛並みに沿わせるように撫でる。


「わぁ…もふもふね」


 レイラさんもすっかりコマのもふもふの虜になってしまったようでコマを撫でる手がさっきから止まっていない。わかるよ…このもふもふは止められない止まらないだよね…。


「うぉらぁ!魔王様が来たぞ〜!」


「げ、いらないやつが来た…」


 勢いよく開いた扉からアルトロス様とディル様が入ってくる。


 レイラさんは心底面倒くさそうな顔でアルトロス様を睨んでいる。不敬罪とかないのかな……。


「ほらほらそんな顔すんなよ〜!ん?なんだその犬」


 アルトロス様はコマを発見するとコマに対して手を伸ばしてきた。


 コマはもちろんの如く警戒し、威嚇して牙を見せる。


 私は咄嗟にコマの口元を手で隠して、コマをなだめる。


「あ!こ、こちらはうちの愛犬で…コマです」


「ほう…」


 アルトロス様は目を細めて意味ありげに笑う。こ、怖いんですけどぉ……。


「おい、その犬はうちの戦力でもあるからな。無闇に手を出すなよ」


「へいへい、わかってますよ〜」


 でぃ、ディル様…!


 私はコマが余計なことを言わないようにコマをしかと抱きしめながら二人の魔王様に向き直る。


「ま、その犬のことはさっきこいつから聞いたからな。そう緊張するでない、人間よ」


 アルトロス様はニッと笑って対面のソファに座る。


 こうしてみるとアルトロス様も中性的な顔立ちながらロリータが似合いそうな美少女だ。しかし、ルンさんが言っていた気分で孕ませるという前情報によってどうも素直に接することが出来ない。


「アルトロス!ユミに手を出そうなんて考えちゃダメよ」


「ナハハ!流石に人のものには手を出さないって。それに人間はそんなに好みじゃないからな。うるさいだけだし」




 というわけで改めて二人の魔王が向き合って座る。今度は私もレイラさんも後ろに立つのではなくそれぞれ遣えている魔王様の隣に座っている。

 正面に座っているのがレイラさんなのが少しの救いだ。アルトロス様は少しあつが強いからね……。


「では本題に入ろうか。アルトロス、此度はどんなご要件で?」


「はぁ…こんな堅苦しい雰囲気は苦手だと言っただろう。楽にしろ」


 アルトロス様はため息をつきながらどこからともなく四角く黒い物体を取り出した。おの物体は長方形でそこまで大きなサイズではなく、むしろ小さいケースのようだ


「この物体。知らぬ間にボクの部屋に落ちていたのだ。ボクはもちろんこのような物体は知らないし、メイドにも聞いたが知らないという。鑑定士にも見せたのだが、これもまた知らないらしい。だが、うちの魔法士がなにか特別な力を感じると言っておるのだ。貴様らのところにはもっと優秀な鑑定士がいると聞いていたからな。鑑定を頼もうと思って来てやったのだ」


「ふむ、その物体のために魔王がわざわざ足を?」


 ディル様は睨むようにアルトロス様を見つめる。チビりそうなぐらい怖い目線と圧ではあるが、アルトロス様はなにも屈する様子がない。


「…ハッ!実際は業務に飽きて遊びたかっただけなんだがな!ナハハ!」


 アルトロス様はそれまでの真剣な表情を崩して笑った。ディル様も圧をかけるのをやめたようでため息をついた。


「なんだ。またうちに爆弾を仕掛けるんじゃないかと警戒したじゃないか」


「おう、それもいいな!」


「よくない。今度したらそちらの妹を貰うと言ったじゃないか」


「あぁ覚えてるさ。うちの妹は絶対にやらんからな」


 再び魔王様たちは睨み合うが、それは先程のような恐ろしさはなく、ふざけ合っているのだというのがわかる。


 それよりも私が気になっているのはコマの様子だ。


 コマは先程から私の脇の方にマズルを突っ込んで何かを怖がるように微かに震えている。この様子はまるで爪切りを見せたときのような状態だ。コマは爪切り大嫌いだからね。


「む、その犬は何をしているんだ?脇フェチか?」


「え、えっと…多分その箱が怖いのかと…」


 私はアルトロス様に指摘されておずおずと机に置かれている箱を指さした。


「この箱がか?…やはり呪いが?いや、しかし悪魔族でさえ悟られない呪い?」


「あ、あの…よろしければ触らせて頂いても?」


「うむ、よいぞ」


 私はアルトロス様からその箱を受け取り、よく見る。明らかにコマはこの箱のことを怖がっているから、もしかしたらこれが私の元いた世界のものかもしれないと思ったからだ。


 私はその手のひらサイズの黒い箱を開けてみることにした。

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