第一章:魔王軍

第1話:魔王軍の仲間入り?!



「我らが魔王軍に所属しないか?」



 そう甲冑マンに言われて、理解するのに30秒はかかったかもしれない。


 マオウグン?ナニソレオイシイノ?なんて言ってる場合じゃなぁい!!!!!


「ま、魔王軍って…あの、人間と戦ってる系ですか?」


「おう、知ってるじゃないか。もとより魔王軍に新たな強き仲間を加えるためにこの召喚を行っていたのだからな」


 はにゃぁ……人間と戦ってるぅ……そんでもって召喚されてたぁ………


「こ、これって断ったりした場合…」


「ん?断るのか?」


「断りません!入らせていただきます!今日からよろしくお願いします!!!!!」


 あの圧には勝てるわけもなく晴れて(?)私は魔王軍の仲間入りとなった。






「今日からここがあなたの部屋よ。今日はとりあえず休んで明日改めて魔王様と挨拶ね」


「は、はい」


 私とコマはルンという青い肌の女性にある程度魔王城内を紹介された後、自室となる場所に案内された。


 ちなみにルンさんは私たちのことをずっと睨んでました。


 中はふかふかそうな天蓋付きベッドと広めの作業机にタンス。大きな出窓があるのがいい感じの大きな部屋だった。どれくらい広いかというと、例えるなら教室。教室よりも少し広いくらいだ。


 私はひとまずコマに水を飲ませつつ、これからどうしようかと頭を必死に働かせていた。


 考えてみるとこれが気まぐれな転移などではなく召喚であったことが唯一の救いだ。もし転移だったなら有無を言わさず殺されていた可能性がある。


 というか魔王軍ということは戦闘がよぎなくされるのでは?ていうかさっきのコマは強すぎないか?コマは元の世界ではブリーダーから買い取った普通の柴犬だった。もしかしてこの世界に来てチートが付与された?それならば私にもチートが付与されているのでは?


 定番だと『ステータスオープン』!とか?それとも『ステータス』?


「ごほん…あ、あーっ、あーっ………『ステータスオープン』!」


 …………何も起こりませんでした。


 『何やってん?』みたいに見てくるコマの目線がめちゃくちゃ刺さる。やめてよ!私に厨ニ心があったっていいじゃない!


「はぁ…コマはどうやってあんな炎を出したんだ?コマってもしかして最強?」


「わふっ」


 コマは褒められてることに気を良くしたのか、胸をはってドヤ顔をしている。そんな可愛い顔をもふもふに撫で尽くしながら『あぁ…今日もうちの犬は可愛い』と現実逃避する。


コンコンコンコン


 コマを愛でているとノックが聞こえた。


 慌てて返事をすると胸の大きな女性が入ってきた。腰のあたりからコウモリのような翼が生えており、空色のセミロングヘアと白のワンピースが清楚っぽい。


「こんにちは、ユミさん。私はセイラ・ドレイルですわ」


「ど、どうも」


「私はこれから主にユミさんをサポートする、いわば教育係ですわ」


「そ、そうなんですね。よろしくお願いします」


 セイラさんは初対面だが、かなりいい人そうだ。私の緊張をほぐそうとしているのか私の手を握ってにっこりと笑った。


「私のことはお姉様…いや、お姉ちゃんと呼んでください」


「……へ?」


 もしかして私大分幼く見られてる?た、たしかに身長は150センチ無いし、童顔とよく言われるけど…お姉ちゃん?


「あ、あの…なぜでしょうか?私こう見えて17なんですけど…」


「あら、そうでしたの。でもお気になさらず。私のほうが何倍も生きてますわ。お姉ちゃん、そうお呼びください」


 なんだろう…これは逆らっちゃいけない気がする…。


 セイラさんは純粋な目をしているし、邪な考えは無いのかもしれない。単純に姉妹とかそういうものにあこがれているだけなんだろう!そういうことにしておこう!


「お、お姉ちゃん…」


「はい、よろしい♡」


 本当に邪な考えとかは無いん、だよね?






 セイラさんはどこからともなく分厚い本を取り出し私に渡した。不思議と文字は読めるので読む上で問題は無いだろう。


「ユミさんは本を読むのは得意ですか?その本は特別な魔術が施してあるので問題はないと思いますが、基礎的な知識はほとんどそこに書かれています。なので暇があれば読んでみてください」


 そう言われて数ページ見てみるとびっしりの文字と数個の図や絵が書かれていた。『〜魔術』がどうとか『〜系生物』がどうとか書いてあるようだ。

 これを読み切るのはだいぶ時間がかかるように感じる。最低でも4時間…とか?幸い私は本を読むのは好きだし、速読はまぁまぁ得意な方だ。きっと問題はない…問題はないはず……。


「私はそこの本には書いていない魔王軍において必要なコトを教えていきますので以後お見知りおきを」


「は、はぁ…」


 セイラさんは一呼吸置くとまたどこからともなくホワイトボードのようなものを取り出し、サラサラと文字と樹形図のような図を書き始めた。


「まず、なのですが、ユミさんは『魔王』と聞いてどのようなことを思い浮かべますか?」


「そ、そうですね…やはり、人間と敵対する悪魔的な存在、ですかね?」


「大まかに言えばそうですわ。実際に我軍には悪魔の種族の者も多く所属しております」


 セイラさんはボードに書いてある樹形図を指し、その図が大まかな種族の縮図であると言った。


「こちらの図が魔王側、こちらが勇者側です。人間、エルフ、ドワーフは主に勇者側。勇者というのは人族の中でも神から悪の討伐を使命として力を授けられたものをいいます。ちなみに魔王様はその逆。つまりは邪神から力を授けられたものですね」


 なるほど…。つまりは神側と邪神側ということか。なんだか神と邪神の喧嘩に巻き込まれているような気分になる。ていうか私も人間なのだから魔王側になるっていうのも変な話だ。


「勇者側に対して魔王側はかなり多種族ですわ。大きく分けて悪魔族、魔人族、獣族、翼族、竜族、蟲族の6つ。それぞれの中でも多くの分布があり、細かく分けるとその数は3桁にのぼりますわ。重要な会議などがある際は各族長と四天王、軍の代表、そして魔王様で集まりますの」


 明らかに強そうなメンツの会議……。


 にしてもそんなに種族があるんだ…。セイラさんはなんの種族なんだろう…。私の想像できる範囲だと悪魔か魔人?コウモリの獣人という可能性もあるが妖美な雰囲気からして、サキュバスだったりして……。


「…中立な種族とかもあったりするんですか?」


 セイラさんの種族についてはなんだか触れづらい…。私は思わず聞いてしまうところをなんとか抑えて、別の質問をした。


「いい質問ですわ!中立的な種族は魚族と妖精族ですわ。この種族は住む環境が違いすぎるのでどちらにも所属しない…と言うよりかは所属できないんですの。ただ、魚族に関してはどちらかというと魔王側ですわね。水龍がこちら側なので」


「なるほど……ちなみに普通の犬とかの動物は?」


「動物はあまり理性がありませんからね。完全に中立と言っていいでしょうね。ちなみに魔物もです。ただ中立、というよりかは理性のない化け物でどちらにも敵対しています」


 やっぱり、この世界には魔物がいるんだ……。なんだかワクワクする反面、怖さが勝っているような感じがする。


「あと知っておくべきといえば……魔王様についてですわね」


 そういうとセイラさんはリスト化された紙を数枚差し出してきた。


「魔王様、というのは我らが魔王様だけではないんですの」


「えっ!複数人いるんですか?!」


「えぇ、魔王様は現時点で5人おられますわ。出現した順に第一魔王、第二魔王、…と名付けられていきますの。ちなみに我らが魔王様は第二魔王様ですわ」


 セイラさんが渡してきた紙には第一〜第五魔王様までの基本的な情報が書かれており、どんな人かがわかる。


 にしても、魔王が複数人…。魔王の定例会議なんてものがあれば相当怖い雰囲気なんだろうなぁ…。


「ん?でも、それだと勇者側が大分不利になりません?そんなに勇者は強いんですか?」


「ふふ、良い疑問点ですわね。勇者も同様で一人では無いんですの」


 勇者も複数人…。実際に戦闘の時なんかは勇者も魔王もたくさんいるってことか……。あぁ戦闘なんかしたくない…。


「勇者一人の力自体は実はそこまで強くないんですの。元々人間よりも私たち魔王側のほうが基礎的な力が強いですからね。勇者なんて魔王様の力には及びません!」


 なるほど…なら勇者側はまぁまぁ不利な状態なんだね…。


「…まぁ、勇者側には技術であったり、こちら側が苦手とする光魔術があったりもするので。それにあちら側は勇者自体の数が多かったりもしますの」


「はぁ…ならほとんど五分五分なパワーバランスなんですかね」


「そうなりますわね」


 勇者側が複数人…。皆が同じような得意分野ではないだろうから守備範囲は広いだろうし、単純に少数だけどとんでもなく強い軍みたいなもんだと思うし、考えるだけで怖い…。


「今日はとりあえずここまでですわ。毎日3時間は勉強の時間を設けておりますので、ビシバシいきますわよ!」


「お、お手柔らかにお願いします…」


 セイラさんの目を見るとなんだか逆らっちゃいけなさがある。やはりセイラさんは悪魔族というやつなのだろうか。


「これからお二人には能力の確認をさせていただきますわ。ついてきてくださいまし」


「は、はい」


 能力…つまりはステータスというやつか!


 はやる気持ちを落ち着かせつつ、暇で寝かけているコマを抱きかかえてセイラさんの後について部屋を出た。

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