第16話:ルンさんと和解しよう大作戦!

 モールさんとルンさんによる熱烈指導に耐え、部屋に戻ってくる頃にはへとへとになってしまった。


 魔法って案外身体張るんだなぁ…なんて学びを得つつ、至って元気なコマをナデナデして癒やされる。


 結局、ルンさんは終始私のことを忌み嫌ってそうだったし、これからの授業でもたまに顔を出すとか言ってたからなんだか少し気まずい気がする…。


「こまぁ〜…ルンさんとどうやったら仲良くなれるかなぁ…」


「くぅん?」(あのおばさんと仲良くなりたいの?)


「オバサンじゃなくてルンさんね」


 コマはルンさんのことをあまり好きではないのか、かなり冷たい態度を取っている。仲良くしてほしいなぁ…。

 ちなみにルンさんは全然オバサンではない。いうならばお姉さんだ。セクシーお姉さん。


 ルンさんは幼い頃に人間に親を殺されたとかなんとかで人間のことを特に忌み嫌っている、とセイラさんから聞いたことがある。

 恐ろしい話だなぁ…とは思うけれどこれが戦争ということ。私からしたら魔族とか人族とか関係なく、仲良くしたいが戦争真っ只中のこの世界では中々に難しいお話だ。


「コマは最初の頃警戒心高かったよね?どうして私に心を開いてくれたの?」


「あぅん!」(最初は怖かったけどユミは優しいもん!)


 コマを撫でる手のひらにグイッと自身の頭を押し付けながらコマは言った。


「…わぅ」(おやつが美味しかったのもあるけど…)


 絶対おやつが理由だな。


 私はお菓子作りとか好きだったし、犬用のおやつの作り方とかをよく調べては作っていた。もちろんコマがよく成長してから与えていたけれど、確かに思い返せばおやつを与えだしてからよく懐くようになった気がする。


「…コマは食いしんぼさんだなぁ〜!」


 食いしん坊なコマのもちもちほっぺをグニグニとしながら、ルンさんと仲良くなる方法について考えを深める。


 ……ふむ、『餌付け作戦』か…。ありだな。


「コマ、ルンさんってどんなおやつが好きそうだと思う?」


「…くぅん?」(えー?…甘い匂いがするから甘いおやつじゃない?)


「甘いおやつか…」


 なんというか意外ではあるがそういうギャップがあってもおかしくはないよね。甘いおやつといえばなんだろう?チョコ系かな?


 どんなおやつを作ろうか考えているとコマが私の袖の裾を軽く引っ張てきた。


「きゅぅん…」(おやつはぁ…?)


「はぅんっ!」


 コマはどうやらご褒美待ちだったようだ。可愛いかわいいコマにデレデレしながら最後の一本のささみジャーキーをあげる。これが最後の一本だ…大切に食べるんだぞ…。


 コマをたっぷりと愛でた後、早速私は何を作ろうかメモに書き出していく。


 モールさんたちにあげるようのプリンをあげるというのはどうだろうか。プリンは甘めだし、いいのでは?どうせなら甘めの生クリームとか乗せたいよね。コルムさんに頼んでルンさんが来たらあげるように頼んでおこうか。


 明日はモールさんとパルナちゃんと中庭でお茶会の予定だし、ついでに作っておこうかな。


 どうせならアルマにもあげようかな。アルマって甘いのいけるよね?


「…わぅう!」(コマといるんだからコマをかまってよ!)


「アァッ!」


 きゃんわいいぃ!!!!!!!!!!!


 自分の手を犠牲にしつつ、コマをわちゃわちゃしながら今はコマのことだけを考えるようにする。






 というわけで、厨房に来ております!


 コルムさんは不在のようだけど、プリンを作りに来たと言ったら普通に通されましたね。みんなプリン大好きだもんね。


「あ、あの!私もプリンを作ってみたんですけど!」


 そうして声をかけてきたのはピコピコと動く耳が可愛らしい獣人さん。手には少し形の崩れたプリンを乗せた皿を持っている。


「な、なんだかあまり上手く取り出せなくて崩れてしまったのですが…」


 彼女の持っている皿を受け取って一口食べてみる。


 流石魔王城の料理人といったところか、味はとても美味しかった。


「うん!味は問題ないですね。とても美味しいです」


「ほ、本当ですか?!よ、よかったぁ…」


 私の言葉に安心したのか表情が緩む。


「入れ物から出しづらいときは少し温めてみると取れやすいですよ」


「なるほど…やってみます!」


 こうしてみると家庭科部なのに超不器用なお騒がせ後輩を思い出すなぁ。料理自体は問題ないのに、いつもなにかをやらかしちゃうんだよね。


 キラキラとした目をしている獣人さんに癒やされていると後ろからまた別の料理人さんが出てきた。


「あら、今日はどうされたんですか」


「あぁ、実はお近づきになりたい人がいて…それでプリンでも差し上げようかと」


 私は特に隠す必要もないので包み隠さず話した。


「そうなんですね。その方はどなたなんですか?どなたか言ってくださればその人の好みを教えてあげられるかもしれません」


 確かに!と思って私はルンさんの名前を出した。


 料理人さんたちはそれを聞いて『なるほど…』という顔をした。ルンさんの人間嫌いは有名な話なようだ。

 まぁ、敵である人間を急に味方として接しろとか無理だよねぇとは思っているが、とりあえず仲良くしておきたいのは本心だ。いつ味方に刺されるかも怪しいしね…。


「そうですねぇ…確かルン様は朝食や軽食に甘めのものを摂る傾向にあります。プリンはきっとお好きなのではないでしょうか」


 やはりうちのコマの鼻は正しかったようだ。


 料理人さんにお礼を言って今日もプリンを用意する。


 ルンさんの分とモールさん、パルナちゃんの分、自分の分とコマとセレストの分。あとついでにこちらを期待した目で見ている料理人さんたちの分も。どうせなら多めに作っておこうかな。

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