第15話:ドキドキ?!初めての魔法訓練!

 今日はついにモールさんによる魔法訓練がはじまる。


 確か私には土魔法と水魔法の才があったはず…。それにオルクと出会ったときにはしっかり水を出せたし、本を読んだだけで使えたんなら私って結構才能あるんじゃない?これが異世界転移チートっていうやつか……。


 まぁ、私よりもコマのほうが才能発揮してたんだけどね…。なんなら全属性才能があったんだけどね……。


 気を取り直して魔王城の後ろらへん、騎士団の訓練場の近くに設営されている第二魔法実技所へやってきた。道中でもたくさんの種族の人達がいて、物珍しげ……というか、恨みがましそうな目をしていた。ふっ…ここに来たばかりの頃の私ならチビってたね!!!!!!


 実技所に入るとモールさんと青い肌の女性、ルンさんが立っていた。


 なぜルンさんが?!と思いつつ、睨まれながらもモールさんのもとへたどり着く。


「こ、こんにちは〜…」


 完全にビビり散らかしながらも挨拶は大切!にっこりと笑ってお二人に挨拶をした。モールさんは冷たい目で『えぇ』と一言。ルンさんはモールさん以上に冷え切った目でこちらを睨み続けている。こ、こわいぃ……。


「はぁ……ルンもそんなにピリピリしないでよ。私がやりづらいじゃない」


「……ふんっ!人間なぞに気をつかう必要があるのかしら」


 ルンさんはいかにも嫌っているという様子でなにかしらの禍々しいオーラを感じる。なんというか……空気が重いですね………。


「あー…とりあえずこいつは魔王軍の中でも私に張り合うぐらいには魔法が上手いから連れてきたの。あなたとその犬の実力を図るにはこいつの目が一番だしね」


 モールさんはルンさんの態度にだるそうにしながらもルンさんがいる経緯を話してくれる。確かルンさんは魔王側近だったはず。実力はその時点で保証されているし、なんならこの世界に来たばかりの頃にぶっ放されたから強い、ということはわかる。


「ユミは本とかで結構勉強してきたんでしょ?ならまずは…そうね、水魔法の初級からお願いできるかしら」


「は、はい」


 水魔法ならオルクの時につかったことがあるし、なんとなく特徴は掴めている。前回使った魔法は『水流フロウ』。今回は新たな領域に進出してみようと思う。


「ふぅー……『ラレフ』」


 指先に魔力を集中させて魔法名を唱える。目の前に魔法陣が現れ、勢いよく水が現れる。その水は一度上に上り、その後に勢いよく地面に叩きつけられた。


「…ま、初めて使ったにしては上出来じゃない?」


「魔王軍に所属するにしては弱いな」


 モールさんの褒め言葉とルンさんの厳しい言葉に感情を左右されつつ、これは褒め言葉だと無理やり受け取っておく。


「さ、次はあなたよ」


 モールさんがコマに声をかけると、ルンさんの目が一際鋭くなった。


「うぅ…」(なんかあのオバサン睨んでくるんだけどぉ)


「誰がオバサンよ!」


 コマよ…必要以上にルンさんを煽るんじゃない……私の胃が引きちぎれてしまうよ……。現時点でも胃がキリキリと鳴ってるよ……。


 コマは『仕方がないなぁ』といった様子で前に出た。


「わぅん!」


 コマがひと鳴きすると目の前に私のものよりも大きい魔法陣が出現した。その魔法陣からは強烈な勢いの水が流れ、一気に上に上がるととてつもない勢いで落ちてきた。


 水が地面へと接触した瞬間、ズドォーーンと地鳴りがし、訓練場の地面に薄く水が張った。


 水はすぐに土に吸い込まれてしまったが、訓練場はかなり広いので薄っすらでも水が張った瞬間があったというのがコマの凄まじさを実感させられる。


 本には『普通、『ラレフ』は人を転ばせるくらいの威力である』と書いてあったので私が弱すぎるわけではないのだろうが、コマが規格外すぎて私がとてもしょぼく感じてしまう。


「い、いや…ヤバすぎでしょ!あんたの犬!ホントにただの犬だったの?!」


「いやぁ…私もすごすぎてコマが本当に犬だったのか疑ってますね」


「くぅん?」(コマ褒められてる?)


 とりあえずは頑張ってくれたコマに目一杯ナデナデもふもふしながらも、モールさんの反応からこのレベルが異常であることを再認識する。


 一方ルンさんは……


「ふんっ…犬風情が…」


 ハイ。とても睨みつけております。そらそうだよねぇ…自分の仕える主の前でこんな可愛いわんこに自慢の魔法を跳ね返されたんだから、プライドも面子も潰されちゃったし…。本当に申し訳ないことしちゃったなぁ…正当防衛だけど。


「ほら、ルンもそんなイライラしてないで」


「し、しかし!」


「だってもさってもないでしょ。今は仕事中なのよ?」


「う、うぐぅ…」


 あんなにも高圧的なルンさんがモールさんに言いくるめられている!こ、これは…あの2人には何かがあるな……(名推理)


 モールさんによって言いくるめられたルンさんはすっかり大人しくなったものの相変わらずこっちを警戒しているようだった。流石にこのまま過ごすのもメンタルに来るので、せめてもここを出るときまでには和解しておきたいものだ。


 そのためにもコマとルンさんが仲良くならなければ行けないので難しい話だが……。                                                                                     


「ん、ついでだしそのスライムもする?」


 モールさんは顎でセレストのことを指した。


「んーっと…セレストもしてみる?」


(…やって、みる)


 そういってセレストはモゾモゾと動き出し、その場にいながら魔法陣を出現させた。


 突拍子もなく出現したそれは一際輝いた後、大量の水が湧き出し、滝となって地に叩きつけられた。威力自体はコマほどではないものの、少なくとも私よりは強い。転ばせる程度の強さ、という本の表記はミスだったのだろうか?


「うん、こいつも強いわね。あなた、よくテイムできたわね」


「本当にそうですよね…」


 本当にうちの子はみんな強くてお母さん、感激です…(泣)


「わふ!わぅん!」(コマはさいきょーだもん!そしてユミはサイコー!)


「こ、こまぁ…」


 コマの激かわ悶絶キュンキュンセリフに胸を打たれながら、コマを思う存分モフる。ホントうちの子ってなんでこんなにいい子なのかしら?(親バカ)


「はぁ…ま、いいわ。とりあえずは、わかったわ」


「人間は雑魚だが、そいつらはまぁまぁ強いな」


「お、おぅ…ド直球ストレート…」


 ルンさんのストレート球に別の意味で胸を打たれながらも認めざる負えない事実に目を背けたくなる。


「ユミは学習力があるとかセイラが言ってたわね。本をいくらか渡しておくから見といて」


「はい…」


「それとこれからは3日に3時間以上の魔法訓練を予定してあるから、弱音は吐かないでよね」


「はい…」


 結局コマたちに守られる未来に鳴ってしまいそうだな…なんて思いながらも気の遠くなるようなこれからの予定について耳を傾ける。


「以上なんだけどなんか質問ある?」


「あ、セレストも一緒に受けていいですか?」


「そのスライム?邪魔にならないならいいわよ」


 これから私、コマ、セレストは共に魔法を学ぶ学友だ。コマもセレストも優等生すぎて少し悲しくなるが、これからたくさん学んでコマたちを守れるような存在になろう!


 私は心のなかで決意を固めて授業に戻った。


 しかし、私は知らなかった……モールさんもルンさんも体育会系であることを……

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