第25話 だ、大ピーンチ!?


 本当に、僕はバカだった。



 僕は自室のベッドで横になり、自分を責め続けていた。


 もう自分がバカすぎて心底イヤになり、ますます僕は自分が嫌いになった。僕が商会長さんに会ったせいで、ガンザさんやミルテさんをこんな危ない場所に引き入れてしまったんだ。それで実際に、ふたりは今、最悪に危険な状況にあった。

 ミルテさんはどこかへ連れて行かれたままだし、ガンザさんももう、ここにはいないはずだった。ぜんぶ僕が悪いんだ…。



 鉱山長のおばあさんは実は魔女で、商会長に協力しているって言っていた。おばあさんは名前をクイーニー・アマンと僕たちになのった。魔女クイーニーは、ここはジョンズワート商会が管理する鉱山の中に密かに作られた実験施設だと言った。


「実験? なんの?」


「うふふ。だから魔薬じゃよ、魔薬。」


「マヤク?」


 響きからして絶対にろくなもんじゃないって僕はすぐに悟ったけど、それがなんなのかを聞かずにはいられなかった。


「なんなの? 魔薬って?」


「魔法をこめた薬でな、人間以外の異種族に飲ませれば、飲んだ者を意のままに操ることができるのじゃよ。イッヒッヒッヒ。」


「しかも、脳に作用して自制心を奪い、潜在能力を最大限に発揮して凶暴化するのだよ。すごいだろう?」



 商会長さんと魔女クイニーが代わる代わる自慢げに説明してくれたけど、僕にはなんのことやらさっぱりわからなかった。



「そんなあぶない薬を、なにに使うの?」


「おやおや、カズミ君には商才がないんだな。金儲けに決まっているではないか!」


 商会長さんはお金の話になるとひとりで盛り上がり、血走った目で興奮していた。


「この世界ではな、たくさんある人間の国同士はあちらこちらで戦争を繰り返しておるのだ。小競り合いから大規模な戦闘までな。」


「はあ。それで?」


「だから、どの国もいつでも兵士不足だ。だから、人間以外の異種族どもに魔薬を投与して、兵士として売りさばくのだよ。これは儲かりまくるぞ、ワッハッハ!」



 僕は呆れかえってしまって、商会長さんを見ながらまばたきを繰り返した。ガンザさんはもう、見ただけで怒り狂ってるってわかった。



「貴様ら! ふざけるな! 魔女ともあろう者がそんな悪行に力を貸すのか!」


「そうじゃよ。わしら魔女は長らく人間族から差別されて迫害されてきた。少しくらい金を儲けてもバチはあたらんじゃろう。ヒヒヒ。」


 どうやら僕たちは、とんでもなく危ない所に自ら飛びこんでしまったみたいだった。いったい商会長さんは、ガンザさんになにをさせるつもりなんだろう?


「雌オーガ、お前には以前、邪魔をされているからな。お前の村に行き、オーガどもをここに連れてきてもらおうか。」


「誰がそんなことをするものか!」

 

「言う通りにすれば、カズミ君は生きて解放してやろう。だが、聞かないのなら…わかるな?」


 ガンザさんは鉄格子をつかんでブルブルと震えていたけど、やがておとなしくなり、首をたてにふった。


「だめだよ! ガンザさん!」


「カズミ君、余計なことを言うな。怪力のオーガ族どもを兵士にしたいという国は特に多いのだ。今までは不可能だったが、魔薬を使えば簡単に可能だ。」


「ガンザさん!」


「ハッハッハ! カズミ君を使えば雌オーガは言うことをなんでも聞くと思ったが、狙いどおりだな!」


 商会長さんはふんぞりかえって高笑いをしはじめて、ガンザさんは檻の中でうずくまってしまった。僕はもっとガンザさんに呼びかけようとしたけど、商会長さんの手下にめちゃくちゃに縛られて別の部屋に連れていかれてしまった。



 それから数日間は、僕は自室で軟禁状態だった。殴られたりとかひどい目には遭わされなかったけど、扉には厳重に鍵をかけられて、たまに水や食事がだされた。僕はどんどん気が滅入ってきて、ガンザさんやミルテさんに会いたくて会いたくてたまらなくなった。

 いつも自信と力強さに溢れたガンザさんは、僕の持っていないものを全て持っていて、憧れだった。もしも彼女がそばにいてくれたらどれだけ心強いだろう。僕は今まで平気だったはずの孤独に耐えきれなくなり、ベッドに突っ伏して泣きだしてしまった。

 

 しばらくして落ち着いた僕は考えた。僕よりももっとつらいのはガンザさんなのかもしれないと。仲間のオーガを騙して裏切るか、僕を見捨てるか、彼女は激しく悩んだに違いなかった。そして彼女は奴らの言うことを聞くという選択をした。僕と彼女はまだ出会ったばかりなのに…。


 それよりも、泣いているばかりじゃダメだ、僕のほうが彼女のためになにができるのかを考えるべきだ。僕はそう思い直して、涙をふくとベッドから降りた。


 まず、僕はなんとかしてこの部屋から抜け出さなければならなかった。窓はないので、僕は扉をよく調べようと近づいた。


「その扉はあかないよ。魔法で閉じてるからねえ。」


「うわわっ!?」


 僕のうしろから声がして、ビクッとしてふりむくと、そこには鉱山長、おばあさん魔女のクイーニーがいて、僕のベッドに腰かけていた。


「いったいどこから?」


「ふふ、しかしおまえさんは見れば見るほどかわいい顔をしておるねえ。」


 僕の質問を完全に無視して、老婆が僕の方に迫ってきた。



 ど、どうしよう…?

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