第27話 再会は苦難のはじまり
結局、あれから僕は悩むばかりでなにもできず、あいかわらず軟禁状態が続いていた。映画やドラマなんかだと、登場人物はなんとかうまく抜け出したりするものだけど、僕にはこの異世界では役にたつ能力はなんにもないことが身に染みてよくわかった。こんなことなら、ミルテさんに鍵開けとかを習っておけばよかったなあ。
そんなある日、いきなり僕の部屋の扉が開いた。僕はまたグロリアさんかと思って身をこわばらせたけど、入ってきたのはジョンズワートさんの手下だった。
「出ろ。魔女クイーニー様がお呼びだ。」
僕はぜんぜん脅威とも思われていないのが、普通に部屋から出て廊下を歩かされた。階段をさんざん登って、ようやくたどり着いたのは展望台みたいなところだった。そこには魔女クイーニー、つまりグロリアさんがいて、手下を手でシッシッと追い払った。
僕とふたりきりきなると、グロリアさんはかわいい姿に戻った。そしてニコニコしながら僕を手招きすると、外を指さした。グロリアさんの指す方向を見ると、遥か下に鉱山へ向かってくる一本道の橋が見えて、たくさんの人がゾロゾロと歩いていた。
「いや、人じゃない!? あれは…オーガ族?」
「そうですよ。カズミさまは目がいいですね。」
「ガンザさん…。僕のせいで本当に仲間を連れてきちゃったんだ…。」
僕はその場に立っていられないくらいにショックを受けて、めまいがして倒れそうになった。そんな僕を、グロリアさんが後ろから抱きとめてくれた。
「ふふふ、ガンザさんはよほどカズミさまのことがお好きみたいですねえ。仲間を裏切ってまでカズミさまを助けようとするとは。まあ元々、ガンザさんはオーガ族の村では嫌われていたみたいですがね。」
グロリアさんは饒舌だった。彼女は潤んだ目で僕の顔をのぞきこんできて、耳もとでささやいてきた。
「カズミさま、もうそろそろあのお返事をいただけますか?」
「返事って?」
「だからあ、カズミさまがわたくしのものになるかっていうお返事ですよう。」
グロリアさんはうるんだ唇をとがらせて、僕を指でつっついてきた。め、めちゃくちゃかわいいけど…。でも、僕の心は決まっていた。
「そんなの、なるわけないじゃないですか。」
「ふう~ん。そうですか。わかりました。わかりましたよ。」
グロリアさんはいつも通りニコニコしていたけど、よく見たら手先がブルブルと震えていた。ひょっとしてかなり怒っているのかな? 少し不安になったけど、どうせウソをついてもバレるだけだし、それにそれがウソ偽りのない僕の本心だった。
僕の耳にグロリアさんのささやき声が聞こえてきた。
「カズミさま。では、これから起こることには責任をもって対処してくださいね。」
彼女がなにかを早口でとなえながら手をふると、僕は強烈な眠気を感じて意識がなくなった。
「…ミ! …ズミ! …きろ!」
誰かが僕を激しくゆさぶっていた。あんまり力が強いもんだから、僕は気分が悪くなって目を覚ました。最初に僕の目に飛び込んできたのは、ずっと会いたかった相手の顔だった。
「ガンザさん?」
「カズミ! 気がついたか!」
ガンザさんは僕におおいかぶさり背中に手をまわしてきて、抱きつくというよりもそのまま締めあげてきた。僕は背骨ごと体がへし折られてしまうと、本気で思った。
「痛い…、痛いよう、ガンザさん…。」
「大丈夫か!? カズミ、泣いているのか!? ジョンズワートめ! よくもカズミをこんなひどい目に…!」
僕はもう一度気を失いかけたけど、ガンザさんはようやく力をゆるめてくれた。
「ガンザさん、僕は大丈夫だよ。会いたかったよ!」
逆に今度は僕のほうからガンザさんにしがみついたけど、僕の腕の長さじゃぜんぜん彼女のひろい背中には足りなかった。それでも、僕は涙を必死でこらえながら彼女の巨大な胸に顔をうずめた。
ガンザさんはそんな僕をやさしく包みこんでくれた。
「カズミ、わたしも会いたかった…。」
「ガンザさん…。」
僕は、ここは今がそのタイミングだと思って、目を閉じて待ってみた。でも、待っても待ってもなにも起こらなかった。僕は片目を開けてみた。
「ガンザさん、なにをしているの?」
「カズミこそ、なにをしているのだ?」
ガンザさんも片目だけを開けて僕を見ていた。どうやら、僕たちはお互いが同じことを考えていたらしかった。僕はなんだかおかしくなって、ガンザさんに再会できた安心感もあって思わず吹き出してしまった。ガンザさんも笑い出して、僕たちはしばらくの間笑いが止まらなくなった。
「それにしても、ここはどこなの?」
「それが、わからないのだ。」
ガンザさんの話はこうだった。
仲間のオーガ族百名を連れてきたガンザさんは、ジョンズワート商会長に盛大なパーティで出迎えられたらしい。食堂で豪華な食事や飲み物をふるまわれ、オーガ族たちはすっかり油断していたそうだ。ガンザさんは飲み物を飲んでしばらくすると気分が悪くなり、倒れてしまったという。最後に見た光景では、他のオーガ族たちも次々と倒れていく姿だったって…。
「毒を盛られたんだね。」
「奴らのやりそうなことだ。だがな、カズミと会えたからもう恐れることはない。さあ、早く行こう!」
ガンザさんは立ち上がり、僕の手をひっぱって助け起こしてくれた。僕は嬉しさから舞い上がっていたけど、冷静になって考えてみた。
「おかしいよ、ガンザさん。こんなに簡単に再会できたなんて…。」
「確かにそうだな。だが、手もとには武器もある。とにかくここから出よう。」
僕たちがいたのは狭い部屋だった。ガンザさんは扉を紙きれみたいにぶち破り、僕たちは通路に出た。
「カズミ、お前はわたしが絶対に守る。離れずについてこい。」
僕はうなずくと、彼女のお尻を…訂正…彼女のたくましい背中を見ながらついていった。
ここからが、本当の地獄のはじまりだったんだ…。
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