第26話 魔女クイーニーの正体
おばあさん魔女に迫られるなんて!?
僕は異世界でモテる時期にはいったのかな?
いやいや、そんなのんきなことを考えている場合じゃなかった。僕はかなり焦ったけど、逃げ場は全くなかった。ムダだとわかっているのに、僕はあとずさりして背中をぴったりとドアにはりつけた。
「ふふふ。そういやがらんでもええじゃろう。これでもまだまだ体は現役じゃて。」
魔女クイーニーさんは僕に体をおしつけてきて、僕はドアと彼女に挟まれることになった。
「た、助けて!」
「ふふ、呼んだって誰も来やしないよ。」
服の間からクイーニーさんの首筋が見えて、その落ちくぼんだ鎖骨は、水を貯めたら金魚が飼えそうだった。僕はあまりの恐怖に意識がとおのきかけた。でも、ここで気絶したらとりかえしのつかない事になりそうだった。僕はガンザさんのことを思い出して、なんとかふみとどまった。
「やめてください!」
叫んだ僕を無視して、相手は組みついてきたかと思うと僕を床に押し倒して体の上にまたがってきた。そして体を折り、僕の首筋に舌を這わせてきた。その時、前にどこかで嗅いだことがある、薬品みたいな香りがした。
「あ…や、やめて…。」
「ふふ、カズミさまはやはり、かわいい声を出しますね。わたくしはもうとまりませんよ。」
「!?」
それはしわがれたおばあさんのじゃなくて、前に聞いたことがある声だった。我に返った僕は勢いよく上半身を起こした。
「まさか、グロリアさん!?」
「はい。そうですよ。驚きましたか?」
グロリアさんは相変わらず信じられないくらいにかわいくて、クリクリの目でニコニコしながらこっちを見ていた。いっきに安心した僕は、思わず彼女に抱きついてしまった。
「グロリアさんだったんだ! ありがとう! クイーニーさんに化けて助けに来てくれだんだね! さあ、はやくここから出てガンザさんとミルテさんを…。」
興奮した僕は口早にまくしたてたけど、なぜか彼女はそんな僕をさめた目で見ていた。
「はあ。相変わらずカズミさまはガンザガンザと、まったくあんな筋肉女のどこがいいのですか? わたしなら、あなたさまにどんな事でもしてあげられますよ。」
「グロリアさん…?」
急に彼女の雰囲気が変わり、なんだか僕は寒気がした。ひょっとして、彼女は僕たちを助けに来たんじゃないのかな?
「カズミさま、あなたは全身全霊、わたくしのものにおなりなさい。そうすれば、筋肉女と猫女は生かしておいてあげましょう。」
「ち、ちょっと待って。グロリアさんはガンザさんの味方じゃないの? 同じ組織のメンバーなんでしょ?」
グロリアさんは口元を袖口でかくしながらクスクス笑いだした。そんなしぐさは普通の女の子みたいで、こんな物騒な話をしているようには見えなかった。
「まったく、カズミさまはかわいいですねえ。誰かに助けてもらうことばかり考えておられて。でも、そんなところがわたしはたまらなく好きですよ。」
グロリアさんはまた僕の首やほっぺ、耳に唇を押しつけてきて、僕はあまりの気持ちよさにとろけそうになった。
「カズミさまをぜんぶ自分のものにして、めちゃくちゃにしてさしあげてしまいたくなりますねえ。ふふふ。」
なんだか完全にグロリアさんのペースだったけど、僕も負けるわけにはいかなかった。僕はガンザさんのことを思い出して勇気を振り絞った。
「いやだ! 僕はグロリアさんのものになんかなりません! いったいどういうことか、説明して下さい!」
「説明もなにも、見たままですよ。わたくしは組織と商会をかけもちしてましてね。商会には魔女クイーニーとして協力しているのですよ。ふふふ。」
僕はこのかわいい魔女の、外見とうらはらの腹黒さにあきれかえってしまった。
「まさか、本当にお金めあてなの?」
「ええ。どっちも高給なんですよ。この世界でわたくしのような魔女が生きていくにはね、お金がかかるのですよ。」
「でも、組織は商会長を狙っているんじゃないの?」
「ボスはそうですねえ。まあ、ひとつ言えるのは、どちらが倒れたとしても、わたしだけは儲かるってことです。」
グロリアさんはみもふたもないことを言いはなち、まだニコニコしていた。どうやらこのとんでもなく強欲な魔女を説得するのは無理っぽいと僕は思った。それなら…。
「わかったよ。僕、グロリアさんのものになるから、その代わりに、ガンザさんとミルテさんは解放するって約束してほしい。」
「ほう。そうきましたか。」
グロリアさんは面白がるかのような表情になって、やわらかそうな唇を舌先でなめた。
「わかりました。では、脱いでください。」
「へ?」
「へ、じゃありません。服をぜんぶ脱いでください。もちろん下着もです。」
そう言いながら、グロリアさんはテキパキと服を脱ぎ始めた。魔女のローブって単純そうで、脱ぐときは大変そうなんだなあ、なんて僕はのんきに構えていた。
えっ!? 脱げって!?
「はやくしてください、カズミさま。魔女クイーニーは忙しいのです。まあ、10分もあれば大丈夫でしょう。」
「だ、大丈夫ってなにが?」
ローブを脱ぐ手をとめて、グロリアさんはちょっと怒った顔になった。それでもかわいいけど…。
「わたくしに言わせるのですか? 決まってるじゃないですか。今から交わるんです。わたくしとカズミさまは。」
「ま、まじわるって?」
「ですから、具体的に申し上げますとカズミさまの…をわたくしの…。」
「い、言わないでいいってば!」
僕はグロリアさんの口をてのひらで塞ごうとしたけど、彼女にひらりと身をかわされてしまった。その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「クイーニー様! ジョンズワート様がお呼びです。すぐに来てください。」
グロリアさんは残念そうな顔で舌打ちして、もうおばあさんの姿に戻っていて僕はびっくりした。
「やれやれ、うるさい奴だねまったく鬱陶しいね。この続きはまた今度だねえ。」
おばあさん魔女クイーニーの姿をしたグロリアさんはよっこいしょと立ちあがり、戸口でふりむいた。
「まあ、本当に気が変わったら助けてやるよ。あたしゃウソいつわりは嫌いでね。あと、ガンザはもうここにゃいないよ。あたしらの言う通りに、オーガの村に向かって仲間を連れてくるために発ったからね。」
そのまま魔女クイーニーは出て行ってしまった。僕は顔に出やすいのか、彼女には口先だけだって完全にばれていたみたいだった。ガンザさんとミルテさんを救うためには、やっぱり本心からグロリアさんのいう通りにしなきゃいけないのか、僕はどうすればいいのか、わからなくて悩むばかりだった。
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