第2話 異世界の街をさまよう僕
大切なことを忘れていた。
まだ僕が誰なのかも説明していなかったし、名前さえも言ってなかった。みんな興味ないかもしれないけど、僕の名は渦森カズミ。私立男子高校一年生。
はい、おわり。
僕のことは今はどうでもいいし、必要に応じてあとで言おうと思う。もっと重要なのは僕がなぜこんな所、日本じゃないどこか、いや、(たぶん)地球でさえない場所にいるかってことだ。
えっ?
それも興味ないって?
じゃ、本当に簡単に言うと…。
ソロキャンプに行って、ヤンキーみたいな3人組のキャンパーに襲われそうになって逃げようとして崖から落ちた僕は、目が覚めたら知らない街の裏路地に倒れていたんだ。
ただそれだけだし、当事者の僕だってこれ以外に説明のしようがない。そのキャンプ場所は地元の人に穴場だって聞いていたけど、最近はマナーの悪いのが増えたから気をつけるようにと言われたのをもっと真剣に聞いておくべきだったのかもしれない。
ここではっきりと言っておくけど、僕は男子だ。あのガラの悪い3人組も男だった。思い出したくもないけど、あいつらは最初、僕を女の子だと勘違いして最初は親切めかして水汲みを手伝おうかとか言ってきやがったんだ。
丁重にお断りしたら、次はジュースやら食べ物やらを持って僕のテントにやってきた。あとはもう、お決まりのパターンだ。
断り続けて、僕は男の子だってはっきり言ってやると下品そうな3人組は逆ギレして、嘘をつけ確かめてやるって襲いかかってきたんだ。あと、言っておくけど僕はなんとか体は守りきったからそこだけは間違えないようにしてほしい。
こういう輩がいるから僕は真剣に、女子専用で男性立入禁止のキャンプ場というものを作ってほしいと思う。あ、それだと僕も入れないのか?
それにしても、僕は小さな頃からそうだった。やせていて背も低いし、色が白いから女子と間違えられることはしょっちゅうだった。せめて体を鍛えようと筋トレしたら熱が出て寝こむしまつだった。本当に自分がイヤになるよ。
また話が逸れた。
なんだったっけ?
そうそう、僕が知らない街に倒れていたところからだ。僕は体にケガがないことを確認してから立ちあがった。この時はまだ、すぐに帰れるだろうとたかをくくっていたけど甘かった。石畳の通りを歩くと、通りがかりの人はみんな外国の人っぽかった。
なるべく優しそうな人を選んで道を尋ねたけど、言葉は通じるのにさっぱり僕の望む返事はもらえなかった。
ニホン? なんだそれ?
きいたことないなあ。
あんた、おかしいんじゃないか?
っていう感じだった。
みんな、僕の姿(上下某世界的有名スポーツブランドのジャージ)を見ておかしな奴だと笑い、相手にしてくれなかった。こっちから見たら、街の人たちのほうが歴史ものの外国映画に出てくるような昔のデザインの服で、よっぽど変なかっこうなのに?
おまけに、甲冑姿の兵士っぽい人が歩いていたり、あきらかに人間じゃない生き物も平気な顔で歩いていた。最初は凝ったコスプレか映画の撮影かと思ったけど、違うみたいだってことはすぐにわかった。
そう、ここは異世界の街だった。
なぜだか知らないけど、僕は異世界に来てしまったんだ。
僕は途方に暮れてしまった。お金は少し持っていたけど、通用しないどころか偽金と思われて捕まりかけた。なんにも買えないし、行くあてもなかった。
現代人がもし中近世にタイムスリップしたら1週間も生き延びれないらしいって言うけど、僕はそれを身をもって実感した。いや、1週間どころか1日だって無理そうだ。
やがて無慈悲に陽は暮れて、夜、僕はヨレヨレになって街の広場のまんなかにある噴水の縁に座った。こんな時でもお腹は減り、僕は非常食のパウチをリュックから取りだした。
そして、僕はあの人に出会ったんだ。
いや、正確に言うと、人じゃないんだけど…。
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