【完結】ぼっち高校生の僕とはぐれオーガの君 〜異世界で僕が出会ったのは孤高の女オーガ戦士だった。彼女と僕の間に友情いやそれ以上の関係は成立するのかな?〜

みみにゃん出版社

第1話 出会いはこんな感じ

 突然、僕のすぐ目の前でその惨劇はくりひろげられた。


 そんな時だっていうのに、僕はといえばただただ左手に災害用非常食のパウチを、右手にはプラスチックのスプーンを持って、馬鹿みたいに口をあけているばかりだった。


 僕が食べようとしていたのはお湯なら15分、水なら60分のたきこみごはんってやつだ。最初の頃は自分で料理していたんだけど、だんだん面倒くさくなってきたし味はそこそこで楽なので、僕はよくこれをソロキャンプに持ってきていた。

 

 ソロキャンプ?


 おまえ、友だちいねーの?


 という声が聞こえてきそうだけど、余計なお世話だし僕は孤独を楽しみたくて好きにしているだけだからほうっておいてほしい。

 無意味に誰かとつるむよりも、ひとりだけの時間は僕にとっては貴重で、ゆっくりと考えにふけることができるかけがえのないものだからだ。


 …ちなみに、僕に友だちはいない。

 そうさ、いわゆるぼっちってやつだよ。

 わるい?



 話がそれた。なんだっけ?



 そうそう、僕の貴重な晩ごはんは台なしにされたって話だ。変な感触がして頬をさわると、僕の指にはなまあたたかくて鉄サビくさいトロリとした液体がついた。言うまでもなくそれは血液だった。もう非常食まで血まみれで、僕の血じゃないけどその時点で既に僕は失神寸前で、座っていた噴水の縁から水面へあおむけに倒れそうになった。

 僕が溺れずにすんだのは、長い腕がのびてきて僕の腕をつかんだからだった。


 頭は混乱したままだったけど、腕の主にお礼を言わなきゃなどと僕はぼんやりと考えた。そして相手を見あげてそのまま僕は声を失った。

 雲をつくようなって言うけど、本当にそれがおおげさじゃないくらいに相手は背が大きかった。頭部は黒いフードを深くかぶっているので表情はよくわからないし、全身をこれまた黒くて長いマントで隠しているからその正体はさっばり分からないけど、とにかく背が大きいことだけは間違いなかった。


 身長2メートル以上はあるんじゃないか、その割には肩幅は少しせまいよな、などと僕はのんきに相手を観察していたけど、大切なことをようやく思い出した。その巨人はたった今、僕の目の前でまちがいなく人をひとり殺したってことを。僕は慌てて腕をふりほどこうとしたけど、大げさじゃなくて工事現場の重機に挟まれたみたいに全くびくともしなかった。


 パニック状態に陥った僕は悲鳴をあげようとしたけど、口から出てきたのはため息みたいに情けないかすれ声だけだった。僕はここで死ぬんだ、この巨人に殺されて、こんなわけのわからない場所で、と僕の心の中は不平不満でいっぱいになった。僕は巨人のフードの奥を見つめて、僕を殺さないでほしい、と必死で目だけでうったえかけた。


 フードの奥は影になっていてぜんぜん見えやしなかった。ただ、黄色く光る二つの眼があるだけだった。



「騒ぐな。人間の娘よ。」



 それがフードの奥から発せられた声だと僕が気づくのに数秒かかった。予想していた野太い悪漢の声ではなくて、どちらかと言えば透き通るような聞きとりやすい声だった。よく見ると、相手の腕は毛でモジャモジャかと思いこんでいたけど、これもまた予想外で全く毛がはえてなくてなめらかで、夜目にも白かった。

 僕はなにを思ったのか無謀にも巨人に抗議をした。



「僕はむすめさんじゃないです。」


「騒ぐな。お前も殺すぞ。」



 ここで僕の精神は限界を迎えたみたいだった。遠のく意識の中、僕が最後に見た光景は、近づいてくるフードの奥にある赤い唇と鋭い牙だった。

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