第11話 ガンザさんとの休日
寝すごした!
と思って僕は飛び起きたけど、ガンザさんは僕のすぐ隣でスヤスヤと眠っていた。もちろん、彼女は布を身につけているし、僕とガンザさんの間にはなんにもなかったから、誤解のないように言っておきたい。
よく考えたら、今日は居酒屋はおやすみだった。たから当然、僕たちも休みなわけで、僕はそっと起き上がると干しておいた下着と衣服を身につけた。
お休みの日ってガンザさんはどう過ごすんだろう?
僕はまだ寝ている彼女のそばに座った。あまり寝顔をジロジロ見るのは失礼かもしれないけど、僕は見ずにはいられなかった。
彼女の寝顔は…。
僕がガンザさんの顔をのぞきこんだ瞬間、彼女の目がパッチリと開いた。しばらくの間、僕たちはお互いに見つめ合っていたけど、ガンザさんがゆっくりと口を開いた。
「カズミ、なにをしている?」
「あ、いや、その、あの…。」
僕は焦れば焦るほど言葉が出てこなくて、そんな僕をガンザさんは険しい目でにらんできて、僕の肩を怪力でつかんだ。
「あいたたた。」
「カズミ!まさか、寝ている間に私になにかしようとしたのか?」
「ち、ちがうよっ! ちがいます、ちがうったら!」
僕が否定すればするほど、ガンザさんの顔はどんどん赤くなっていき、ついには完全に牙をむき出しにした。僕は、ああここで僕の短い人生が終わるんだ、と覚悟した。
「カズミ、よく聞け。」
「は、はい。」
「今回はゆるす。もしまたこんな事をしようとしたら…。」
僕は恐怖で全身がすくんで、目だけで続きをうながした。
「腕を斬り落として尻につっこむ。わかったか?」
「は、はい。よくわかりました。」
ガンザさんはまだ怒りがおさまらないのか、顔どころか肩まで真っ赤になっていて、急に立ち上がると扉に突進した。
「水浴びしてくる!」
「えっ? 今から?」
そのあと、僕は朝ごはんの用意をして待ったけど、ガンザさんはなかなか帰ってこなかった。
僕が持っていたミックスフルーツの缶詰で、ガンザさんはようやく機嫌を直してくれたみたいだった。
「なんとうまい! こんなにうまいものは初めてだ! カズミ、他にもあるのか?」
「うん、ぜんぶあげるよ。ところでガンザさん、聞きたいことがあるんだけど。」
「なんだ?」
せっかくの休日なので、僕は考えていた事を彼女に提案することに決めていた。それには、うまく話を誘導する必要があった。
「ガンザさんは、お休みの日はどうしてるの?」
「まあ、ここでゆっくり寝ているな。」
「そんなの、せっかくの休みがもったいなくない?」
缶詰のシロップをさいごまで飲み干したガンザさんは、意味がわからないと言いたげに眉根を寄せた。
「出かけるほうがもったいないだろう? 出かけなければお金を使わなくていいしな。」
「じゃ、僕がおごるから、買い物か食事に行こうよ。」
僕はせっかく来た異世界の街を見てみたかった。こわいもの見たさみたいな感覚かもしれなかったけど。それに、ガンザさんへの感謝の気持ちもあったんだ。
でも、ガンザさんは喜びかけて、すぐに表情をくもらせた。
「カズミの気持ちは嬉しいがな、それは無理だ。」
「えっ? どうして無理なの?」
「遠いところから来たカズミにはわからないかもしれんな。」
ガンザさんはどこからか大きな巻き紙を取り出してきて、地面に広げて置いた。
「これは、この世界の地図?」
「そうだ。前に、ここはどこだとカズミは私に聞いたな。」
僕は地図をくいいるように眺めたけど、僕の知っている世界地図とその地図はぜんぜん違っていて似ても似つかなかった。ガンザさんは地図の真ん中あたりを指さした。
「この平野あたりが人間族の主な支配地域だ。これが王都、つまり私とカズミが今いる街だ。」
平野には大きな川や湖も描かれていた。離れるにつれて大森林や荒野があらわれ、山岳地帯へと続いているようだった。
「大森林はエルフ族、荒地や山は様々なモンスター族の土地だ。」
「でも、この街にはいろんな種族がいたけど?」
「ああ、だいたいの住み分けというだけで、人間族と他の種族間に交流がないわけではないのだ。ただ…。」
僕は、ガンザさんがなにを言いたいのかうすうすわかりかけてきたような気がした。
「ひょっとして、差別があるとか?」
「そのとおりだ。カズミはかしこいな。」
ガンザさんは顔を輝かせたけど、すぐに暗い表情になった。
「ここは人間族の街だからな。何事も人間が優先だし、人間族以外は入れない店なんかもある。姿形が人間族に近くて友好的な種族ほど優遇されていたりするがな。」
「そんな…。」
「私たちオーガ族はな、あまり人間族には歓迎されていないのだ。」
困ったように笑うガンザさんを見て、僕はその話に怒りを覚えた。だからガンザさんは服も買えないし休日も出かけられなかったのだ。ガンザさんみたいな優しいオーガを差別するなんて、この世界の人間はなんてひどいんだと僕は思った。
「カズミの住んでいた国は人間族しかいないのだったな。だったら、こんな差別はないのだろうな。」
ガンザさんが僕に微笑みかけてきて、なんだか僕は彼女のためになにかしたいという想いで胸がいっぱいになった。
「ガンザさん! 僕と出かけましょう!」
これが思わぬトラブルの火種になるなんて、僕はこのとき全く思わなかったんだ。
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