第24話 おそるべき鉱山長
鉱山長のおばあさんの体はまっぷたつになったかと思ったけど、フッと消えた。と、思ったらまた僕たちの背後から声がした。
「おやおや。乱暴なオーガさんだねえ。」
ガンザさんの大斧はむなしく空を斬り、激しい音と共に床に刺さっていた。鉱山長はいとも簡単にミルテさんの背後をとり、彼女の肩に手を置いた。
「うふふ。ここにいい標本がいたじゃないかね。」
「はニャ? ボクのこと?」
「ミルテさん!」
僕はなにか不穏なものを感じてミルテさんの手をひっぱろうとしたけど、鉱山長はミルテさんの口を手でふさぎ、なにかわけのわからない言葉をとなえた。
「あニャああああッ! ゲホッゲホッ!」
鉱山長の手から煙のようなものが噴き出して、ミルテさんはおもいきり煙を吸い込んでしまったらしく、その場にくずおれてしまった。
「やめろ!」
ガンザさんは再び大斧をふりかぶり、鉱山長に向かっていった。僕はもうなにがなんだかわけがわからなくて、倒れているミルテさんに駆けよろうとしたけど、信じられない事が起こった。
跳ね起きたミルテさんが、ガンザさんが鉱山長に振りおろそうとした大斧の柄を片手で受けとめたのだ。
「な、なに!?」
「ミルテさん!?」
鉱山長は相変わらずニコニコしていて、僕たち様子を見て楽しんでいるみたいだった。ミルテさんの目は瞳孔が開ききっていて、ほぼ黒目になっていた。
「ミルテさん? どうしたの?」
「ダメだ、カズミ!」
心配になった僕は不用意にミルテさんに近寄ろうとしてしまった。そんな僕が最後に見たのは、彼女がくりだしてきた強烈な猫パンチだった。
「ううん…。」
激しい頭痛がして、僕は暗い部屋の中で目を覚ました。鼻も痛くて、つんと薬品みたいなにおいがして手で触れると何かが貼られていて、おそらく誰かが治療をしてくれたみたいだった。それにしても、腫れているみたいでそれ以上はさわれないほどに痛かった。
「カズミ! 気がついたか!」
格子の向こうにガンザさんの姿が見えた。どうもここは檻の中みたいで、狭い通路を挟んだ反対側の檻にガンザさんはいた。
「ガンザさん! 無事だったんだね! ここはどこ? あれからどうなったの?」
「カズミ、落ち着け。」
ガンザさんは落ち着いているようでもあったし、なんだか元気がないようにも僕には思えた。
「ガンザさん、どうしたの? なにがあったの? そうだ、ミルテさんは? 大丈夫なの?」
「わからない。」
「わからないって、どういうこと!?」
僕はガンザさんにくってかかってしまい、すぐに後悔した。僕は誰かに捕まって檻に入れられるなんてもちろん初めてで、かなり動転しているみたいだった。
「すまない、カズミ。私も気を失っていたんだ。」
「えっ?」
「あの後、私はミルテに投げ飛ばされたのだ。そして壁に叩きつけられて、気絶してしまったんだ。」
僕はガンザさんの言ったことに驚きすぎてなにも言えなくなってしまった。あのガンザさんの巨体を小さなミルテさんが投げ飛ばしたって?
「嘘ではない。この私としたことが、不覚だ。」
ガンザさんは相当ショックだったみたいで、それで落ち込んでいるようだった。僕は少しでも彼女に元気になってほしくて、首をふった。
「ううん。ごめんね。ガンザさんが無事とわかって、僕は嬉しいよ。」
「カズミ…。」
「さあ、早くここを出てミルテさんを探そうよ。」
僕ははすこし涙ぐんでしまい、照れ隠しに立ち上がり、服についた埃をはらった。でも、そんな和やかな雰囲気はすぐに、近づいてきた足音の主にぶちこわされた。
「なるほど珍しいな。こんなに仲が良い人と雌オーガがいるとはな。」
「うふふ。あたしの言うたとおりじゃろう。」
商会長と鉱山長がおそろいで現れて、もうそのニヤニヤしている表情を見ただけで、この人たちがなにか悪そうなことを企んでいるのは僕でさえすぐにわかった。
「ジョンズワートさん! あなたはいい人だと思っていたのに!」
「いい人だとも、カズミくん。人間に対してはな。だが、異種族どもは私にとっては単なる商品でしかないのでね。」
商会長さんからはいつものさわやかさは消え去っていて、今はただ悪そうなおっさんになっていた。
「商品だと? ふざけるな! 強欲な人間め!」
ガンザさんは怒りまくって格子をつかんだけど、びくともしない様子だった。僕はなんとか交渉できないかと必死で考えた。
「ジョンズワートさん、僕はどんなことでもしますから、ガンザさんとミルテさんを解放して頂けませんか?」
「うむうむ、カズミ君は献身的だな。働き者だし、私のもとでもっと働いてほしいくらいだが、今回働いてもらいたいのはそっちの雌オーガだ。」
商会長さんがガンザさんを指さしてニヤリとすると、彼女の怒りの火に油を注いだようだった。
「誰が貴様のためになど働くか!」
「いいのかね? カズミ君がどうなっても知らないが。」
商会長さんの言葉に、ガンザさんははっきりとわかるくらいに動揺し始めた。ガンザさんが僕なんかのために、いったいなにをさせられるのだろう。僕がこんな所にこなければ…。僕は激しく自分を責めた。
「何をすればいい。」
ガンザさんが唇を噛みながら聞くと、今まで黙っていた鉱山長が嬉々とした様子でしゃしゃりでてきた。
「その前に、この施設がなんなのかをおまえさんたちに教えてあげようかいね。ヒッヒッヒ。」
鉱山長の笑い声が響き、それは不気味で無情で、僕は鳥肌がたった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます