第22話 暗闇の先にあるもの
どこまでも続く暗い坑道に僕たちはいた。
どこからか水滴が落ちる音が聞こえてくるくらいの静寂の中、僕の頼りは100均のハンドライトの灯りだけで、暗闇でも目が見える同行者たちがうらやましかった。
「やっぱりもう帰らない? なにもないよ。」
「ボクも同意見ニャ~。」
ミルテさんはガタガタと震えていて、僕の腰に後ろからしがみついているものだから、僕までいっしょに震えてしまった。ガンザさんは呆れ返ったようにため息をついた。
「なさけない。猫族なのに暗闇がこわいのか?」
「こわいもんはこわいニャ~。」
「それに、必要以上にカズミとくっつくな。」
「うっさいニャ!」
ミルテさんがガンザさんにあかんべえをするもんだから、ふたりは僕を挟んで小競り合いを始めた。僕もため息をついて、なんでこんなところに来ちゃったんだろうと改めて後悔した。
「危険って、なにが?」
「こんな楽でしかも高給な仕事はやめられないニャ~。」
僕とミルテさんはのんきに反論したけど、ガンザさんの表情は深刻そのものだった。
「なぜわからないのだ! この場所は危険で不吉だ!」
ガンザさんはみるからにイライラしていて、一刻も早くここから出て行きたそうにしていた。見つかったら大変だし、僕はとにかく彼女を落ち着かせようと考えた。
「ガンザさん、ひょっとして僕を心配してきてくれたの?」
「ま、まあな。」
ガンザさんは照れたように顔を背けてしまい、少し頬も赤くしていた。
「だ、か、ら、いったいなにが危険なんニャ?」
「そうだよ、ガンザさん。来てくれたのは嬉しいけど、説明してほしい。なにか知ってるの?」
僕とミルテさんといっしょに、ガンザさんがなにを言いだすのかを固唾をのんで待った。ガンザさんは重々しく口を開いた。
「勘だ。」
「えっ?」
「ハにゃ?」
僕はミルテさんと顔を見あわせてから、思わず呆れた口調になってしまった。そして僕はひらめいた。
「あっ! 今、思い出した! 商会の使者をいためつけて、村から追放されたオーガって、ガンザさんのことなの!?」
「なぜカズミがそのことを知っているのだ? そのとおりだ。」
「ガンザにゃん、暴力はよくないニャ! なんでそんなことをしたのかニャ?」
ガンザさんは少し困ったような顔つきになり、腕組みをした。
「だから、勘だと言っているだろうが。」
ガンザさんの説明はこうだった。ある日急に、彼女のオーガ族の村にジョンズワート商会からの使者が来た。鉱山での労働者を募集しているとのことで、オーガ族には楽な仕事だが破格の高給を提示された村長はふたつ返事で承知しようとした。
でも、ガンザさんだけは強硬に反対した。そして、使者を追い払おうとしてケガをさせてしまったという。そしてその話は流れてしまい、ようやく貧しさから脱け出せると期待したオーガ村民たちの不興を買ったガンザさんは村から追放されてしまったらしい。
「ガンザさん、勘で暴力をふるっちゃったの?」
「そんなうまい話があるわけないだろう。今までさんざん私たちを蔑んできた人間族など、信用できるものか! 必ずなにか企みがあるにちがいない。私たちを見る使者どもの目つきも気に食わなかったんだ!」
一気にまくしたてたガンザさんは僕を見て、しまったという表情になった。
「あ、ちがうぞ! カズミは別だ。カズミはそんな目で私を見なかったからな。」
「ガンザさん…。」
「まあたボクの目の前で見つめ合うんじゃないニャ!」
僕はミルテさんにつっこまれて、慌ててつい余計なことを口に出してしまった。
「と、とにかく、ここが危険だってなにか証拠でもあるの?」
「ない。」
自身たっぷりに言うガンザさんに僕は呆れたけど、今度はミルテさんがなにか思いついたようだった。
「そういえば…ボクが夜、眠れないのは、何かが聞こえてくるような気がするからかもしれないニャ。」
「なにかって? どこから?」
「わからないけど、鉱山のほうかニャ?」
ガンザさんは笑みを浮かべて、牙が光ったように見えた。
「それだ! さすが猫族だ、耳がいいな。よし、行こう。」
「行くって、どこへ?」
「決まってるだろう。今から鉱山を調べに行くぞ!」
誰もガンザさんにやめておこうと言える者はいなかった。
どこまでも続く暗闇がこわくて仕方がない僕はもう一度、もう帰ろうと言おうとした。
「んニャ?」
僕たちの足もとを何か小さなやわらかい塊が駆け抜けていった。僕は悲鳴をあげてガンザさんの腰に飛びついてしまい、ミルテさんは頭の毛を逆立てた。
「待つニャーッ!!」
謎の物体はちょうどミルテさんの狩猟本能を刺激する大きさだったみたいで、彼女はあっという間に暗い坑道の先に消えていった。
「待ってよ! ミルテさん、あぶないよ!」
追いかけようとした僕を制して、ガンザさんが前に出た。
「カズミ、私のあとについてこい。絶対にはぐれるな!」
ガンザさんはダッシュでミルテさんを追いかけはじめて、僕は必死で彼女のあとについていった。どんどん道は枝分かれして、僕が帰り道がわかるのかと段々と心配になってきたとき、少しひらけた場所にでた。
そこでは、ミルテさんとガンザさんがなにかに驚いて立ち尽くしていた。
「いったいなんなんだ、ここは?」
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