第20話
お父様は、決意に満ちた顔をしていました。
「決めた」
「なにをですか」
「引っ越そう」
「お引越しですか。どちらへ?」
「隣国だ。実は、お前に見合い話があってな。隣国の侯爵の息子なんだが、お前と年齢は2歳ほどしか変わらないらしい」
「そうですか」
隣国…。
緑豊かと聞いています。生まれ育ったこの国を離れるのは、寂しいですが、心機一転にいいのかもしれません。
「学校は、どうしましょうか」
「友達と離れるのが、さびしいか?卒業まで待とうか」
「いえ。別に。私にお友達はいませんから」
「そ、そうか…。隣で、できるといいのだが」
「案外、あちらのほうが、うまくいくかもしれませんね」
この国では、私の家の財力の強さは、知れ渡っています。
ある意味、王族並みに有名人です。
ですから、みなさん私のことは遠巻きに見ていることが多かった。変に怪我でもさせたら訴えられるとでも思っているようです。そして、財力の違いから、訴えられたら絶対に勝てないと、ご両親から言い含められてると、この前生徒の一人から聞いたことがあります。
私が身に着けているものにも汚れがついたら、それを弁償させられるとでも思っているそうです。私はもちろん、父だって、そんなことは一切させたことないのに。皆さん、先入観がすごいようです。
お金を持っているのですから、代わりなんていくらでも買えるということに気づいてもいいはずなのですけど。
どんなものを身に着けていようと、そして、それが悪意や意図があって汚されない限り、弁償なんてしてもらおうとは、一切考えてないのに、どうしてそんな噂が流れてしまったのかしら。
「私たちの家をあまり知らない国に行きたいですわね」
「…確かに私たちの家は、お金持ちとして有名になりすぎたからな…。お前にも苦労をかけさせてしまった」
「いえ。単純に私にコミュニケーション能力が足りないせいですわ。仲良くなろうという努力を怠ったのは事実ですから…。お父様、やっぱり婚約破棄にしないでください。私は、婚約解消をしてほしいのです。お願いです。娘のお願い聞いてくださるでしょう?」
お父様は、私に甘いです。
私がお願いしたら、お父様は9割くらい願いをかなえてくれます。
星が欲しいと、頼んだ時だって、無理とは言わずに大きな隕石を持ってきてくれるような方ですから。子供のころの私は、夜空にきらきらと光る星が欲しいと頼んだつもりだったので、驚きましたが。
「どうしてそこまで、殿下をかばうんだ」
「かばっているつもりはありません。ただ、面倒なのです。婚約破棄などせずとも、あの人のことですから、どうせ一人で落ちていくことでしょう。それで、下手に婚約破棄などして、こちらに仕返しに来ても面倒だと思うだけです。あと、本当にどうでもいいんです。殿下は、私に女の魅力を感じなかったとしたら、私だって、殿下に男の魅力を感じなかった。それだけなのですから」
「子どもの時からの約束をお前は、律儀に守ったというのに」
「子どもの言葉です。成長して、変わることもあります。殿下も私もそれは同じだったということです」
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