エピローグ
本日は、王国建国パーティー。
これ以上はないというほどに婚約破棄発表にふさわしい日はないと思います。
「殿下!あなたとは婚約破棄いたします!」
決まりましたわ!
わたくしは、見事なドヤ顔というものを披露しながら、殿下の前に立ちました。
効果音でいうならば「ババン!!!」といった様子かしら。
殿下は何が何だか分からないご様子。
「ど、どういうことだ。ナターシャ」
「あら。どういうことか分からないですって?ご自身の胸に手を当ててよく考えてみてくださいな」
殿下は、胸に手を当てて首をかしげました。
「分からん」
「なんですって……ああいえ、その殿下の頭が悪いのは知っていましたが、ここまでとは…」
「だが、婚約破棄か…分かった!婚約破棄されよう」
「え?ええ。ありがとうございます」
あっさりと引き下がった殿下に私のほうこそ首をかしげました。
もう少し粘るかと思いましたが、案外物分かりの良い方……。
「では、慰謝料を請求する!!!」
「そう来ましたか!!!」
漫画でしたら、ズコーとコケるところでしたわよ。
これでも淑女として、そのような粗相な真似はいたしませんが。
そこまでお馬鹿さんだったなんて。
あなたは、どこまで私を感動させれば気が済みますの。
涙が出てきそうです。
「あなたです!殿下!あなたが慰謝料を払うんです!」
「な、なんでだ!?俺が婚約破棄されたんだろう!?ならば、慰謝料をもらう義務があるはずだ」
「私に非があるのであればですけど。私に非はありません。あるのは殿下のほうです」
「俺に非はない!」
殿下は、ずいぶんと自信があるご様子。
一体、その自信はどこから来るのでしょうか……。
パーティーに出席された方々は、最初は何が始まったのか分からずに、ことの成り行きを見守っていましたが、流れが分かると、露骨に野次馬めいた視線や表情に変わっていきました。
ええ。彼らの顔には「おもしろくなってきた…!」とデカデカと書かれております。
「非はありまくりでしょうが!これを見てください!」
バッと気が付けば会場内にばら撒かれた何百という写真。
そのすべてに殿下の浮気の様子がうつっております。
「なっ!?み、みみみみみ見るなああああああ!!!!」
最初は、なんだこれ?といったご様子でぼ~っと宙を舞う写真を眺めておりました殿下でしたが、うつっているのが、自分。それもあられもない姿というのを確認してからというものの、顔を真っ赤にして写真を集めております。
一応、殿下にも羞恥心というものがありましたのね。
「貴様っ!不敬罪だぞ!死刑に値する!」
「ご安心下さいませ。陛下に許可をとっております」
「なああああっ!?ち、父上がっ!?ば、ばかな!そんなわけない!そんなはずが……」
「許可した」
裸の殿下がうつっている写真が舞う中、陛下の一声が会場に響き渡りました。
私を含め、皆が頭を下げます。
「私が許可したのだ。問題あるまい」
「も、問題ありまくりですよ!!!!なぜ、許可したのです!」
「こうでもしないとバカなお前には分からないと思ったからだ!!!」
「ひっ!」
陛下は、ずいぶんと怒りをため込んでいたご様子。
天を割くような怒号に会場がビリビリと震えるのが分かります。
「このバカ息子が!!!貴様の代わりなんぞ、いくらでもいる!お前は廃嫡だ!」
「はいちゃく……ってなんですか?」
「王子という権利がなくなるということですよ。兄さん。もっとわかりやすく言いましょうか。あなたはもう王子でも何でもないんです」
「エドマンド!貴様がナターシャをたぶらかしたのか!」
「いやいや!もうこの際ですから言いますが、先に浮気したのもあなたでしょうがっ!いい加減にしてください!」
もう飽きました。
ダラダラと殿下の…いえ、もう王子じゃなくなりましたから、ただのくずですね。
こんなくずの言葉を聞いていては、時間の無駄です。
私は、クズに向かって一言。
「あなたが、王太子になれたのは、私のおかげだったみたい。でも、婚約破棄するからしかたありませんね。これからあなたはただのクズです。」
これにて、この話はおしまいでございます。
あなたが、王太子になれたのは、私のおかげだったみたい。でも、婚約破棄するからしかたありませんね。これからあなたはただのクズです。 猿喰 森繁 @sarubami
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