第4話
「おはよう。ナターシャ」
「おはようございます。ルートヴィッヒ様」
今朝のことなど、何もなかったように笑顔で挨拶をしてくる王太子に、私は、こいつの、いえ、失礼、王太子の面の皮の厚さに驚きました。…えぇ、驚きなど、表情に出していませんけど。内心は、驚いておりました。わたくし。
私が帰ったことを使用人から、聞いていないのでしょうか。
聞いていて、この態度と言葉でしたら、驚き通り越して、恐怖です。
「今日、俺を訪ねてきたそうだが、」
あ、さすがに知っていましたか。
「何の用だ」
「え?」
「事前に連絡をするのは、マナーだろう」
「は?」
いや、お前が誘ったんだからな!
「事前に連絡…ですか?」
「ああ」
「…太子が、私を朝食に誘ってくださったのではないのですか」
「……ああ」
「……」
「まぁ、俺も忙しいからな。しかたないだろ」
「……」
「これからは、事前に連絡するように」
「…かしこまりましたわ」
私は、にこっ、と笑顔を太子に向けます。
その笑顔を見た太子は、「ああ。気をつけろよ。お前は、覚えが悪いから」とまるで、自分が許したみたいな顔をしていうものだから、早く婚約解消してーな。と私は、思います。
「それにしても、今日も、なんだかお疲れのようですわね。昨日も夜遅くまで、勉学に励まれていたのですか?」
「ああ。私は将来、この国の王となる男だからね。民のため、頑張らねばならない」
「そうですか。素晴らしき王を持てて、私たちは幸運ですね」
「そうだな」
お前が、励んでいたのは、夜のお勉強だろうがっ!このくずっ!何をすました顔で、言ってやがるっ!なにが、「そうだな」だ!お前なんか、第2王子の足元にも及ばねぇから!
見習って、他国の情勢とか勉強しに行ってこいっ!
…いや、逆に失礼な態度をとりすぎて、戦争になってしまうかもしれない。
ならば、おとなしく男爵令嬢と夜のお勉強をさせておいたほうが、この国のため…?
…おっと。
あまりの王太子の態度と言葉につい、乱暴な言葉が出てしまいました。
貴族たるもの、言葉と態度は、表に出すな。
表面は、繕ってなんぼ、スキを見せても、相手に弱みを見せるだけ。
隙間にトゲを差し込むのだ。
トゲに気づける者こそ、相手にせよ、と母に言われてきましたからね。
そう思いますと、この男は、ある意味羨ましい。
何も考えずとも相手を苛立たせ、それでいて、その立場ゆえに決して、ことを荒げられることはない。心配しなくてもいい立場ですもの。
まぁ、こんな能無しになりたいなんて、まったく思いませんが。
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