第10話

「私に隠していることはないか」

「…なにも?」


今日は、珍しく無言で帰って来たお父様の様子に、おかしいなと私は、のんきに首をかしげておりました。いつもであれば「ただいま!疲れたー!」とか言って「娘セラピー」とか称して、べたべたしてきて、鬱陶しいくらいですのに。

まぁ、たまにはこういうこともありますよね。

そう思っておりました。

まさか、もう気づかれている?

……。

考えてみれば、気づかれないほうがおかしいですね。

王太子は、公私混同。

もう、城だろうが、学校だろうが、いちゃつきまくっているのは、周知の事実。

であれば、よほどの鈍感か、世間知らずでなければ、気づかれるのは、当たりまえ。

そして、お父様はというと、この国一番の金持ちで、国一番の情報通を親友に持つお方。

普通に王太子の浮気話なんて、耳に入るに決まってます。


「まだあんな男が好きなのか」


…好きではありません。

約束をしたのです。


「約束は、約束ですから。無下には出来ません」

「……お前は、こんなに約束を守れるよい子だというのに…あいつは…」


ぶつぶつと何かを言っているお父様。

もしかしたら、私が婚約者であるから、浮気されているのだ。と、馬鹿にされてしまったのかもしれません。

私に魅力がないあまり、王太子が浮気に走るのも無理はない。とか。しょせん、私と付き合う男は、金目当て。私は、金持ちの娘というステータスしかないのだとか、そういわれても無理はありません。

だって、事実ですし。

私の家がお金持ちなのは、事実です。

まず、家自体が、お金持ちです。

宝石と金の鉱山を持っている時点で、その辺の貴族なんて、目じゃありませんし、祖父は、未だに新しい事業に手を出しておりますし、父は、投資家の父とまで、言われている、いわずもがな成功者です。

そんな金儲けのサラブレッドの血を受け継いでいるにも関わらず、私はいまだにやりたいこと一つ、見つけられていません。

やることもないし、興味もないので、勉強に励んでいるし、未来の王妃の教育に励んでいるのです。


ですから、今、少しだけ楽しかったのです。

確かに王太子が浮気をしている姿を写真に撮るなんて、悪趣味かもしれません。

でも、生まれて初めて、遊んだような。

真剣になったような、そんな気がして、少しだけ楽しんでいました。

でも、それもおしまいなのですね。

父が、不愉快な思いをされているのだとしたら、このお遊びはおしまいにしましょう。

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