第15話
「父上に伝えて、父上のほうから、婚約を解消してもらう方向に行けないか頼んでみるよ」
「陛下から、動いていただけるのであれば、こちらも簡単なのですが。でも、そんな簡単にいくものなのでしょうか。それにあのヴィクターが、婚約解消に同意するとは思えません。きっと、婚約破棄されたと叫ぶのは、目に見えていますが…」
「兄上は、もう文句を言える立場じゃないから、おとなしくしているさ。それに今は、別の女性に夢中になっているみたいだし…」
「そうですね」
私は、庭でいちゃいちゃと女生徒と抱き着いている殿下の姿を見つめます。
もとより、この婚約は、王族であれば、誰とでもいいといわれていた政略的なものです。私たちの間に愛は生まれなかった。そして、殿下は私以外の女性を好きになってしまった段階で、解消すべきものだったのかもしれません。
ここが潮時といったところでしょう。
「私もお父様に相談してみます」
浮気の証拠は十分。
しかし、スキャンダル多しの殿下であろうと、さすがに王族との婚約をそうそう解消できるなんてことは、お父様でもできないはず…、
「全然いいぞ。むしろ、お前からいうのをずっと待っていたんだ」
「よいのですか?」
「ああ。あの歩く下半身のスキャンダルをもみ消すのも面倒になっていたところだ。お前というかわいい娘を婚約者にしておきながら、別の女性にうつつを抜かすなど、…お前があいつに愛想を尽くすより先に、お父様があいつの下半身をもぎり取ろうかと思っていたところだ」
「お父様より先に愛想をつかして良かったですわ…なんていうのもおかしな話ですわね」
「王族の子種など、争いのもとになるというのに、あの肩書王子には、つくづくうんざりさせられたよ」
「お父様にもご迷惑をおかけしてしまったようで、申し訳ございません」
「いや。いいんだよ。それより、例の約束はいいのかい?」
「…はい。しかたありません。彼には、ほかに好きな人ができたのですから」
私たちが、まだ小さかったころ、幼い彼は、顔を真っ赤にして私に言った。
―あなたに好きな人ができるまで、僕を婚約者にしてくれませんか?
―もしも、結婚するまでに好きな人ができなければ、僕を好きになってください。
そう言って、彼は、私と婚約してくれたけど、結局、私に好きな人はできなかった。
それどころか、彼のほうが先に好きな人を見つけてしまった…。
小さい時のことなんて、ヴィクターのことです。きっと覚えていないのでしょう。昔のことを振り返るのは、ヴィクターが、最も嫌がることなので、私もあまり昔の話をしたことがありません。
「私はほかの王族の方と、また婚約をしなくてはいけないのでしょうか?」
「そうだな…どうせなら、ほかの国の王子なんて、どうだ?隣国は女性を大事にするお国柄だ。あそこなら、お前を大事にしてくれる男性もいるだろう」
「そうですね。どうせなら、この国から離れるのもいいかもしれませんね」
「あぁ…あんまり遠くに行ってしまうのは父親として、悲しいがな…」
「ご心配なさらずとも、顔は見せに行きますよ」
「物理的に離れているということが問題なのだ…」
「お父様ったら。気が早いですわ」
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