第23話
「ヴィクター。お前の王位継承権をはく奪することになった」
「…………は?」
「兄上。口を大きく開くのは、みっともないよ」
「ち、父上。今、なんと?」
「お前は、もう次期国王でもなんでもない。ただの男だ。あの子爵だか何だか知らんが、その女と一緒にどこにでも行くがいい」
「そ、そんな…あんまりです…いったいなぜ…理由を聞かせてもらわなくては、納得いきません。私が何をしたというのですか!?」
「全部だ!ばかもん!!!」
父上のあまりの声量に、二人して飛び上がってしまった。
父上からは、怒りのあまり空気が震えている。
「よくも浮気などしてくれよって!侯爵が怒り狂っておる。なんてことをしてくれたんだ…娘も他国の貴族に嫁がせると」
「なんだって!?」
父上の言葉に今度は、僕が驚いた。
ナターシャが、他国の貴族に嫁ぐ?
この国からもいなくなる?
そしたら、僕が今までしてきたことは、いったいなんなんだ…。
「ナターシャは、まだこの国にいますよね?」
「え?あ、ああ」
「僕、会ってきます!」
僕は、父上の言葉も聞かずに、さっさと城を飛び出した。
どうして、僕になにも言わずに勝手に決めてしまったんだ。
兄上のせいで、侯爵は、王族を信頼していないのかもしれない。だとしたら、兄上を殴る。でも、ナターシャまで、信頼していなかったら…。
僕は、兄上とは違うのに。
ナターシャ。僕は、いつも君を見ていたのに、結局は君は、僕のことを見てくれないんだね。
◇
「な、なんなんだ…」
いきなり走り出した弟の姿を呆然と見つめていると、これで話は終わりとでもいうように父上が俺に背を向けた。
俺のほうは、話は終わっていないのに!
「父上。それより、どういうことですか。私の身分まで、はく奪するおつもりですか?」
「そうでなければ、侯爵に示しがつかん」
「な、なぜ…なぜ、あんな男の目を気にしているのですか。あんな男、気にする必要はないです。俺たちは、王族ですよ。誰よりもえらい」
「馬鹿者!!!王族だけがえらいわけではない。お前は、あの男の発言力、影響力を知らないから、そんなことを言えるのだ。あそこの家の力をお前は、見誤った。その時点で、お前はもう必要ない。これ以上、王族の醜聞を広める前にとっとと失せろ」
「そ、そんな…だって、俺が一番優秀だから、俺が…一番偉いから…王位継承権一位だったんだ…」
「お前、まだ気づいていなかったのか?」
「え?」
「お前が、継承権一位だったのは、ナターシャ嬢が、お前を婚約者に選んだからだ」
「……。え」
「お前ではないといけないと、どうしてもいうから、しかたなくだ。本来なら、別の子にしたかったというに…まぁ、このほうが都合がいいのかもな」
「ナターシャが選んだから、僕は次期国王になれた?…どうして?ま、まるで、ナターシャに王を選ぶ権利があるといっているようなものではありませんか」
「そうだ」
「え?」
「だから、そうだ。ナターシャ嬢に、次期国王を選ぶ権利がある。それほどに、あの家は偉いのだ。…まったく馬鹿と話していると、疲れる。妃もお前には愛想をつかしたと言っていた。喜べ。お前は、晴れて自由の身だ。これからは、マナーも勉強も好きなだけさぼれる。金の援助はないが、まぁ、お前の女にでも世話になるといい」
「そ、そんな…ち、父上…父上!!!まって…おいていかないで…僕を捨てないでよ!!!」
俺の声は、父に届くことは、もうなかった。
そして、母上に会おうと願ったが、それはかなうことはなく、俺は身一つで、城から追い出されてしまった…。
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