第18話

「本当は、婚約破棄をされたとして、慰謝料をとってやるのも楽しそうだと思ったんだが」

「さすがに王族に慰謝料をもらうわけにはいけません」

「しかし、今回は向こうの浮気が原因なのだから、それくらいしてもいい気はするが」

「お父様だって、この国が気に入っていらっしゃるのですから、ここは穏便にいきましょう。当人の私が、どうでもいいのです。そこまで、彼らの醜聞を広めるのは、私も気が進みません」


それこそパパラッチとかが、うるさそうだし。

なんて、私が思っていることなんて、まったく思っていないのでしょう。

お父様は、私の言葉にずいぶんと感動しているようでした。


「お、お前は…そんなにいい子なのに…どうして、浮気なんてしたんだ…あの男…許さねぇ…」

「私に女としての魅力がなかったからでしょう」

「そ、」


私の言葉に、お父様はずいぶんと長いこと固まってしまいました。

そんなにおかしなことを言ったつもりはないのですが…?

だって、浮気をされるなんて、私に魅力がないとしか思えません。殿下は、私に対しては一切手を出してきませんでした。手をつなぐことすら、私たちはありませんでしたから。

私は、結婚するまでは、そういったことはしない方なのかしらと思っていましたが、浮気を知ってからは納得です。

私に魅力がなかった。あるのは、実家の莫大なお金だけ。

そういえば、殿下はずっと同世代の女子生徒にべたべたとセクハラまがいなことをしていたらしいので、女に興味がなかったわけでもなかったのです。

それを知ったのも浮気を知ってからでした。

要するに、私も殿下に興味なんてなかったのですから、ある意味お互い様なのです。

…それにしてもどうしてかしら。

小さいころ、私と結婚してほしいと約束したのは、殿下のはずだったのに。

私のことが好きだからと、言ってくださったあの小さな殿下は、いったいどこにいってしまったのでしょう。

それともやはり、小さい子どものいうことだったということなのでしょうか。

それを真に受けてしまった私も、馬鹿だったということなのでしょうか。


「お前に、そんなことを、いったのか」

「お父様?」


やっとお父様が帰ってきました。

ですが、なにやら様子がおかしいです。

言葉を途切れ、途切れに言っております。

まるで、そうとしかしゃべれない様子。


「お前に、女としての魅力がないと、あいつが言ったのか?」

「ああ…」


お父様は、ずいぶんとお怒りのご様子でした。

必死に怒りをなだめようとして、私を怖がらせないように、感情任せに怒鳴らないように、必死に自身の激情を押さえつけて、しゃべっているから、こういうおかしなしゃべり方になっているようです。


「いえ。殿下にそう直接言われたことはないです」

「……じゃあ、遠回しに言われたということか」

「お前には、金しかないとは」

「…………ふううううううう」


お父様は、ゆっくりとため息をつきて、椅子に深く沈んでしまいました。

私は、何か地雷を踏んでしまったかしら?

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