第12章 第2回捜査会議
第44話 広美が知った事実、第二回特捜会議1
第12章 第二回特別捜査会議
第44話 広美が知った事実、第二回特捜会議1
県警本部に戻った刑事二チームは、二回目の現場検証を富里警視に経過報告した。
富里は即座に、本事件を殺人事件に切り替える決断を下した。
鑑識課と科学捜査研究所には、富里警視から本事件を最優先するようにと、改めて申し入れがあった。
本日午後の捜査予定が富里に報告された。
亀山警部補達は竜野広美を再訪問して、竜野信也の所持品とパソコン調査に全力を上げること。竜野の取った休暇目的の調査は、最重要項目である。
小湊警部補達は、「シャッター」の記者からの聞き込みと、黒木アユの事情聴取を予定していた。
事故から殺人事件に変わったことで、三二名の刑事増員が認められ、彼らは亀山と小湊の指揮下で、諸事万端をバックアップすることになった。
その三二名には、一度は見合わせることになった、上杉直哉の身辺調査と、事情聴取の任務が割り当てられた。その外には、貝原宅の調査と、神林英彦委員及び風見新一委員の周辺調査が割り当てられた。
十二月十一日、日曜日午後二時過ぎ。
亀山と高滝は、竜野宅を再び訪れた。
一晩休んだせいか、竜野広美の様子は昨日の朝とは随分と違っていた。精神的ショックで、やつれは加算されていたが、落ち着いた広美は、聡明な女性であるとの印象を亀山達に与えた。
広美の全面的な協力を得る為には、亀山達も、捜査状況等をある程度説明しなくてはならなかった。
その中でも、広美の心を動かしたことは、夫の竜野信也を殺した可能性のある人物が、貝原洋以外にいそうだという事実だった。
そしてその人物が男性とは限らないと指摘した時点で、事件の解明には夫の使用していたパソコン情報が必要なことを理解した。
それを理解した上で、広美は亀山に条件を出した。
信也を殺した犯人の捜査状況を、許される範囲内で自分宛に毎晩報告することである。
竜野信也もその妻広美も、亀山と同じく千葉県の職員である。それ以上に、人情家の亀山は広美に深く同情していた。守秘義務はあるが、亀山はその取引に応じた。
パソコン本体は、広美も夫と共同使用していたものなので、高滝巡査部長は、信也のパソコンのデータだけを、持参して来た機器にバックアップした。
信也の所持品からは、事件の参考になるものは、残念ながら出て来なかった。現場から見つからなかった携帯電話も、自宅には無かった。
(恐らく携帯電話は、あの現場から犯人が持ち去ったのだろう。竜野信也の携帯には、殺人犯と結び付く情報が含まれていたのだろうか……)
竜野の携帯電話の請求書は、最近の一枚しか見つからなかったが、後は電話会社の調査で、外の通話記録も全てわかるだろうと、亀山は考えた。
亀山の話から、広美が衝撃を受けた事実がもう一つあった。
今年の五月から、信也が自分には内緒で、毎月二回の休暇を木曜日に取っていたと云う事実である。
その休暇の日も、夫は殆ど定時に帰宅していたのだ。中には数回の遅い帰宅が含まれていたが、それは同僚と飲んで帰るという理由だった。
広美は、小湊と夷隅が帰った後、パソコンデスクに向かい、夫のメールデータを詳細に調査した。
そして、夫が五月から交際を始めた女の名を知った。アウトルックエクスプレスのアドレス帳には、そのフルネームも、住所も、電話番号も、誕生日も全て記載されていたのだ。
夫の付き合っていた女は、松原慧、二一歳、上智大学二年生である。
夫とは十九も歳が離れ、自分より十四も年下の娘なのだ。
三五歳の広美は、再び大きなショックを受け、その顔を両手で覆った。
小湊と夷隅は、「シャッター」誌を訪ね、そのフリー記者、横田利夫が居そうな場所を突き止めた。
横田と云う男は下衆野郎だった。ジョークのつもりなのか、情報提供の対価として、刑事に大金を要求する始末で、結局は、貝原のことも、黒木アユのことも、一言も喋らなかった。
小湊の直感は、横田が何か知っていることを嗅ぎ取ったが、彼が対価無しでは、一切協力しそうにない人物であることもわかった。
小湊は、捜査本部バックアップチームに連絡し、横田の身辺調査を依頼した。
小湊はやむを得ず、横田の情報無しに、黒木アユと会うことを決めた。
黒木アユは、六本木のマンション住まいで、未婚女性だった。
黒木は、事件の事情聴取には応じたが、貝原との親交は認めても、男女の交際は一笑に付して否定した。
小湊には、それを追求する材料も無く、合同会議と、最終選考委員会の様子を確認することに留まった。
事件が殺人事件に変更されたことを伏せている以上、追求の手詰まりは否めなかった。
その夜、第二回特別捜査会議が開かれた。参加者は前回の五名の外、本日より増員された三二名の刑事を加えて、総勢三七名になった。
捜査会議がある程度進んだ午後九時に、鑑識課を通して、科捜研から分析結果が出たとの連絡が入った。富里は、早速報告を聴きたいと答えた。
午後九時半に、鑑識課から鈴木がやって来た。参加者の目が一斉に鑑識の男へと注がれる。
富里警視は、ホワイトボードのある壇上を空け、手で示して、その席を鈴木に譲った。
「鈴木君、鑑識結果を報告してくれ」
富里は後方の席から、昔ならした良く通る大声を出した。
鈴木はその声にびくりと反応した。それに倣って鈴木は、大きな声で説明しなければならなくなった。
「はい、最初に第一現場の、貝原洋と竜野信也の死体関係から、判明した事実を報告いたします」
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