第43話 当たりくじ

第43話 当たりくじ


 エレベータに乗った五人は、一旦七階で降りた。


 吉原は、丁度作業を終了した所だった。亀山は訊いた。

「吉原君、何か見つかったか?」


「防護柵からは、繊維などは全く見つかりませんでした。念の為、床の髪の毛も掃除機で回収しましたが……」

「防護柵に繊維の付着が見つからなければ、その髪の毛をDNA鑑定しても無駄だ。鑑定には回さず保管しておいてくれ。さあ八階へ行こう」



 六人になったチームは、非常階段で八階へ向かった。

 二人がそこから落ちたと思われる第二現場である。


「飯島君、どうだ?」と亀山が声を掛けると、飯島は、

「ここには、貝原のものよりも遥かに多く、竜野の衣服繊維が付着していました。それらに混じって、こいつが見つかりました」と言って、裏地が白いビニール袋を差し出した。


 竜野の繊維の方が多かったと聴いて、そうかと頷いた亀山は、受け取ったビニール袋を、明るい所でルーペを使ってじっと見詰める。そして「何だろ?」と訊いた。


 飯島は研究者らしい口調で答えた。

「持ち帰ってみて詳細に鑑定しないと、はっきりしたことは言えませんが、恐らく黒く染められた牛皮の繊維だと思います」


「皮コートか?」小湊が口を挟む。


「皮手袋の可能性も高いですよ」飯島は冷静に答えた。


「そうかもな。床の髪は集めたか?」亀山が問う。


「回収しました」


「その髪の毛は後で選別する。DNA鑑定はその後だ」


「はい」


「よし、ここはもう済んだ、九階へ行こう」



 七人になったチームは、さらに非常階段で屋上へ向かった。

 鈴木の作業は大体終了したようだ。掃除機などの片付けも、既に済んでいた。


 目を輝かせながらチームを迎えた鈴木に、亀山が期待の込められた声を掛けた。

「どうだ? 鈴木」


「亀山さん。こいつを見てください!」

 鈴木が突き上げたビニール袋は二つあった。


「二種類か?」亀山の声が思わずうわずる。


「一つは、貝原のコートの繊維に似ています」

 鈴木は、左手の袋とルーペを手渡した。亀山は先ほどと同じ様に、袋の中身をルーペで観察する。


「なるほど、やはり貝原の方か……」呟きながら亀山は、寄って来た小湊にそれを手渡した。鈴木が小湊にもルーペを与えた。


 小湊も同様の手際でそれを観察する。


「こちらも見てください」右手の袋を、鈴木が差し出す。

 亀山は、それも入念にチェックする。

「動物の毛か?」亀山は鈴木の目を見る。


 鈴木は冷静に答えた。

「多分キツネだと思います。持ち帰って調べれば直ぐわかるでしょう」


「そうか、良くやってくれた。それらは第三現場から出た証拠品として整理分析してくれ」

 亀山は、いかにも嬉しそうに、鈴木の背中をぽんぽんと叩いた。


 鈴木に返そうとしたビニール袋は、横から小湊の手で奪われた。小湊はその代わりに、貝原の分の袋を鈴木に返した。


 小湊のチェックする様子を、まぶしそうに見ていた亀山が、漸く口を開いた。

「それは女が着る毛皮のコートかな、コミさん?」

 亀山は小指を立てている。


 答える前に、小湊はチェックを終えた袋を、鑑識の鈴木の手に返した。振り返った小湊は、亀山に静かに答えた。

「毛皮のコートが女物とは限らないよ、亀さん。今は男でも毛皮のコートを着る奴はたくさんいるからな」


 そうだなと頷いた亀山は、鑑識班全員を呼び寄せ、次の様に指示した。

「死んだ二人の衣服には、二人以外の頭髪と、第三者の衣服繊維が付着している可能性が高い。帰ったら、そっちの頭髪を先にDNA鑑定してくれ。勿論、繊維の分析も頼む」


 鑑識班一同は、はいと答え一様に頷いた。


「その頭髪と同じものを、八階と九階の床で回収したものの中から、目視で捜してくれ。

 死んだ二人以外で、DNA鑑定して欲しいのはそれだけだから、大至急で頼む。科捜研には、富里警視からの最優先の要請を出しておく」


 鑑識班一同は「はい、わかりました」と答え、最敬礼した。

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