第19話 マグニのプロポーズ
とんでもないシステム改変だ。
双天における全ての飲食店を無料にするという、マグニの発言を受けて、ジャッジメントは動揺するかと思いきや、意外と冷静な反応を示した。
「わかりました。では、今日の〇時にさかのぼって、適用します。すでに支払済みのプレイヤーには返金処理を致します。また、それに伴い、宝条院レイカの無銭飲食はなかったこととします」
「それでいい、それで」
うんうん、と満足そうにマグニは頷いている。
これで、ジャッジメントは用がなくなった。しばらく、まだやり残したことがあるかのように、イズナのことをジッと見たまま動かなかったが、やがてフウとため息をついた。
「今回は命拾いをしましたね。ですが、次にまた双天の法に触れることをしたならば、容赦なくBANしに来ます。覚悟していてください」
その捨てセリフを残すと、天から降りてきた光の柱の中に入り、そのままモールの屋根を突き抜けて、上空へと消えていった。
後に残ったマグニは、あらためてイズナの前に仁王立ちする。
「さて、これで邪魔者はいなくなった。ゆっくりと話が出来るというものだ」
「わしは特に、お主と話すことは何もないのじゃがのう」
「聞け。我としては、お前に負けたままでいるのは我慢ならない。再戦を希望する」
「ここでやろうというのか?」
「ふはははは、それも悪くはない! だが、それでは面白くない。闘技場で正式に戦って、勝つ。それでこそ我の溜飲が下がるというものよ」
「なるほど。それは構わぬが、闘技場で戦うには、どのようにしたらよいのじゃ? この間のように飛び入りでも許されるのか?」
「いいや、それは我が許さん。正規の手順を踏んでこい」
そこで、マグニは空中にスクリーンを映し出した。それは、イズナにも見えるものである。何かを共有して見せようとしている。
「間もなく海天と山天、それぞれでトーナメントが開催される。そこでの勝負を勝ち抜いてこい」
そう言って、トーナメントマッチの案内画面を、空中に表示させた。
イズナはその内容を軽く読んだ後、おや、を首を傾げた。
「すぐにトーナメントに出られるわけではないようじゃの。予選があるのか」
「ふん、お前の強さなら、予選など、どうということはない。そこで敗退はあり得ないことだ」
「わかった。とにかく、わしは、海天でのトーナメントで優勝し、その後、闘技場でお主と再戦すればよいのじゃな」
「理解が早くて、いいことだ。それでこそ、我の伴侶にふさわしい」
ん? とイズナは顔をしかめる。
「聞き間違えかのう? いま、伴侶と聞こえたような気がしたが」
「確かに我はそう言った」
「わしが、お主の、伴侶じゃと……?」
「我を超える強い女、それこそが、我が求めていたものだ」
マグニは大きな顔に大きな笑みを浮かべて、イズナのことを指さしてきた。
「その強き女を、さらに我が乗り越えて、ものとする! これほど心沸き立つことはない!」
「要は、わしに惚れた、というわけか」
「喜ぶがいい! この無敗王マグニに認められたことを!」
「もうお主は無敗王でもなんでもないがの」
「ふはははは! 生意気な口をきく女だ! だが、それがいい!」
どうやら、宣戦布告をするためだけに、イズナに会いに来たようだった。言いたい放題言った後、マグニはきびすを返して、どこかへと歩き去っていった。
それまで足を止めて、イズナとマグニのやり取りを眺めていたギャラリー達も、それぞれモールの中へと散らばっていく。
「ああ、レイカっち⁉ 大丈夫⁉ なんか、ジャッジメントと戦っていた、とか聞いたけど!」
「まさか、お前、ジャッジメントに勝ったのか⁉」
間髪入れず、サーヤとディック・パイソンが駆けつけてきた。
「わしは平気じゃ。マグニが助けてくれた」
「へ⁉ マグニが⁉ なんで⁉」
「あやつ、わしのことを伴侶にしたいそうじゃ」
「プロポーズぅ⁉」
「そんなことよりも、わしにトーナメントとやらに参加せよと要求してきた。せっかくじゃから、その誘いに乗ろうかと思っておる。しかし、詳しくないので、色々と教えてくれんかのう」
「いいよ、じゃあ、一旦海天のほうに戻ろっか。ここでの用事はもう済んだし」
※ ※ ※
ファストトラベルで海天へと戻った後、一行はイズナの住居へと移動した。
五十階の高さにある、イズナの高級な住まいを見たサーヤとディック・パイソンは、口を揃えてうらやましがった。
「いいなあ、うちなんて、ボロアパートに住んでるよ」
「俺もだ。運営側の人間は、随分と優遇されているんだな」
「うむ、とても助かっておる」
ゲーム世界だから、住まいはどんな所であろうと、別に大して違いはない。普通のプレイヤーは、休みたくなったら、現実世界でゲーム機器を外して、自分の部屋で一眠りすればいいだけの話である。
だけど、イズナの場合は、このゲーム世界に実際に生きているから、寝床がどんな場所であるか、というのは非常に重要な問題だ。どうせなら気分が上がる場所がいい。
こんな最高クラスの場所に住めて、本当によかった、と思っている。
「さて、と。トーナメントのことについて、説明するね」
サーヤは空中にスクリーンを表示させて、イズナへ教え始めた。
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