第4話 中華街にはご用心!
ある程度歩いたところで、またもやナナから通信が入った。
『なに、のんびり歩いてるのよ。ファストトラベルを使いなさいよ』
『ファストトラベルとは、なんじゃ?』
『この橋を渡るのに、歩く必要はないの。コマンド一つで、一気に「
『カイテン、とは?』
『向こうに見えている都市の名前。海辺にあるから、「海天」。そんなことはどうでもいいから、コマンドを出して』
『出し方がわからん』
『音声で出すの。「コマンド」って言ってみて』
「コマンド」
すると、イズナの目の前にスクリーンが現れた。アイコンが羅列して表示されており、さらに各アイコンの下には簡単な文字列が表示されている。
さっそく、「ファストトラベル」のアイコンに触れようとしたが、その手を途中で止めた。
「ステータス」と書かれているアイコンがある。
イズナは、まったくゲームをやったことが無いわけではない。自分では遊ばないが、忍びの里の子供達が遊ぶのに付き合って、一緒にプレイしたことはある。
だから、「ステータス」が何を表しているか知っているし、自分のステータスがどんな値なのか興味があった。
「ステータス」アイコンに触れてみる。
『ちょっと、なに勝手なことしてるのよ』
ナナが怒ってきたが、無視して、スクリーンに表示された自分のステータスをイズナはしげしげと眺めた。
体力:1
攻撃力:1
防御力:1
スピード:999
スキル:絶対回避
『なんじゃ、この極端な能力は。これがわしのステータスか』
『そうよ。言っておくけど、外の世界であなたがどんな力をもっているか、そういうのは関係ないからね。この他にも、色々とマスクデータ、表には出てこないステータスはあるんだけど、それは企業秘密』
『つまり、このスピード特化の能力は、わしがいま宿っているアバターの能力、ということなのじゃな』
『そういうことよ』
『なぜ、このバニーガールは、こんな極端な能力なのじゃ?』
『ラウンドガールだからよ』
『よくわからんのう』
『戦闘の必要はないから、攻撃力も防御力も1、体力も1。一発でも喰らえばKO負け。だけど、試合の最中に万が一巻き添え食らったりしたら、あとが大変でしょ。だから、誰がどんな攻撃を放っても、絶対に当たらないようにステータスが設定されているわけ』
『ふむ、なるほど。しかし、解せぬことが一つある』
『そうね、私も不思議に思っていることがあるの』
そこで、二人は声を揃えて、同じことを口走った。
『なぜマグニを一撃で倒せたのか?』
うーん、とナナは唸った。
『そこに関しては、調べておくわ。データ解析班に聞いてみる。本当は、データってかなりの機密情報だから、嫌な顔するかもしれないけど』
ステータスを見終わったイズナは、画面を一つ前に戻し、メニューアイコンが並んでいる画面をあらためて表示した。
「ファストトラベル」をタップすると、「海天」と「闘技場」、それに「山天」という地名が表示された。
『あ、その「山天」は触らないで』
『何かまずいのか』
『「海天」の敵対勢力だから。もっとも、ラウンドガールは単に住んでいる場所がみんな「海天」ってだけで、勢力の別はないんだけど。ただ、もう一つには、あなたはマグニを倒してしまった、その問題があるわ』
『察するに、マグニは「山天」の勢力に属する者、ということじゃな』
『そういうこと。あなたはマグニを倒したから、「山天」に確実に目を付けられているわ。そんなところへ間違って乗り込んだら、もうこれは、ただでは済まないわよ』
『了解、気を付けよう』
イズナは、順当に「海天」をタップした。
ギュン! と全身を強い力で引っ張られるような感覚が走った後、気が付けば、イズナは都市部の中に移動していた。
「ほう。なかなかに立派な都市じゃのう」
ここは、高層ビルが建ち並ぶエリアのようだ。歩いている人々は、スーツや制服の姿が多い。ビジネス街なのかもしれない。
「失礼、ここが海天なのかのう?」
試しに、通りすがりのサラリーマンへと声をかけてみたが、無視して素通りされてしまった。
『ダメよ、いまのはNPC。コンピューターが動かしている、賑やかしだけのキャラクターなの』
「なるほど、ハリボテというわけじゃな」
とりあえずイズナはマーカーを目指して歩いていく。
しばらくビル街を進んでいくと、朱塗りの鳥居のような門が現れた。
「これは鳥居……ではないな。中華街、と書いてある」
『あ、そっちは行かないで!』
「なぜじゃ」
『治安が悪いの。ストリートファイトを仕掛けられるわ』
「そうか」
あっさりとイズナは忠告を受け流し、そのまま中華街へと足を踏み入れる。
『ちょっと! 人の話、聞いてるの⁉』
「聞いてたぞ。ゆえに、入るのじゃ」
『どうして!』
「この世界で生きていくには、己の限界を知らねばならんからのう。向こうから戦いを仕掛けてくるのであれば、好都合じゃ」
『やめてよ! 私のアバターなんだから! 勝手な真似はしないで!』
中華街へと入っていく、白いバニースーツのバニーガール、という異様な光景。
あまりにも目立っているがゆえに、捕捉されるのも早かった。
「よーう、なに勝手に人のシマに入ってんだ、バニーちゃん」
横からハスキーな女性の声が飛んできた。
振り向けば、セミロングの髪の、青いチャイナドレスを着た二十代くらいの女性が、鋭い目でこちらを見ている。
「このあたりは
「その者のことはよく知らぬが、腕試しにちょうどよい場と聞いて、やって来た」
「なんだァ? その喋り方。おもしれー奴」
ククク、と笑ってから、女は、チャイナドレスを翻して、拳法の構えを取った。
「
「面白いのう。中国拳法の使い手とは何度か戦ったことがある。お主がどれほどの強さか、確かめさせてもらおう」
『わーーー⁉ なにやってんのよぉぉぉ!』
ナナの悲鳴は聞かない振りをして、イズナもまた戦闘態勢に入った。
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