第20話 トーナメントへの参戦

「わかりやすく言うと、双天のチャンピオンになるための方法は二つあるの。一つは、チャンピオンに直接挑戦する方法。これは、勝利ポイントを溜めることで権利が得られるわ。そして、もう一つが、トーナメント」


 スクリーンに、トーナメント表が表示される。どうやら過去の記録を映し出しているようだ。すでに赤い線が上書きされており、誰がチャンピオンになったか、わかるようになっている。


 当然、頂点に立ったのは、無敗王マグニだ。


「予選がある、と聞いておるが、これはどういう形でやるのじゃ?」

「それはサバイバル戦ね。挑戦者が多いから、数を絞るため、一箇所に集めて、一斉に戦わせるの」

「なかなか過酷じゃのう」

「けっこうな上位陣が、集中攻撃を喰らって、敗退することも珍しくないわ。番狂わせってやつね」


 イズナは、ふと想像してみた。


 四方八方から同時に攻撃を仕掛けられた場合、「絶対回避」のスキルは、果たして有効に機能するのだろうか。


 それこそ、抜け出す隙間もないほどの攻撃を受けたら、ヒットしてしまうのかもしれない。そして、体力がゼロになった時、何が起きるのか……。


 だが、だからこそ面白い、とイズナは思っている。


 元来、戦闘欲が強いイズナとしては、命のかかっているこの状況でも、逆にワクワクする気持ちを抑えきれずにいる。


「エントリーはどうすればいいのじゃ?」

「コマンド画面から、トーナメントのアイコンをタップして、あとは画面の指示に従って選んでいけば、出来るよ」

「お主らはどうするのじゃ?」


 イズナに尋ねられて、それまで黙って話を聞いていたディック・パイソンは、ううむ、と唸った。


「さっきの戦いで自信は出てきたが、それでもサバイバル戦を生き残れるかというと、不安はあるからな……」

「おじさんは、素早く動けない上に、体が大きいもんね。そういうアバターは、サバイバル戦では的にされやすいから、不利だと思うよ」


 確かに、ディック・パイソンの巨体では、周囲からの一斉攻撃をいなすのは困難だろう。


 それでも、イズナとしては、彼に参戦してほしかった。


「わしが戦い方を教えようかのう」

「乱戦のやり方も、わかるのか?」

「色々あってな」


 とは言っても、雷蔵や追手達との戦いで命を落としたこともあり、偉そうなことは言えない。あくまでも、ディック・パイソンならどう立ち回ればいいのか、そのことをイズナなりに考えて、多少アドバイス出来るくらいだ。


「ところで、サーヤ殿はどうするのじゃ?」

「うちはもちろん参戦するよ。チャンピオンへの挑戦権はもう使っちゃったから、また勝利ポイントを溜め直さないといけないし、そんなの待ってらんないから」

「チャンピオンになると、色々と現実社会でも、援助を受けられるそうじゃな。お主はそれを狙っておるのか?」

「単純に、お金が欲しい。それだけ」


 ちょっとだけ、サーヤの言葉に、真面目な色が宿った。それまでのあっけらかんとした調子とは、少し異なる喋り方だった。


「では、さっそくエントリーしようかのう」


 コマンド画面を開き、その中のトーナメントアイコンをタップして、画面を遷移させていく。そして、エントリーページに辿り着いたところで、ナナから限定通信が入ってきた。


『トーナメントに挑戦する気なのね』

『なんじゃ? やめておけ、とでも言うのか?』

『ううん、むしろ、今回は積極的に推すほうよ』

『ほう。それはどういう風の吹き回しじゃ』

『実は……言おうかどうか迷っていたんだけど……この際だから、あなたに協力してもらいたいことがあるの』

『なんじゃ?』


 急に黙り始めて、エントリー寸前で動きを止めたイズナのことを、サーヤとディック・パイソンは不思議そうに見つめている。


 だが、構わず、イズナはナナとの限定通信を続行する。


『前々から、うちの社内で、噂があるの。トーナメントの場を利用して、裏社会の人間達が接触している、っていう』

『なんじゃ、それは。なぜ、わざわざトーナメントで行うのじゃ?』

『システム的には、通常の双天とは異なる、隔離されたゾーンでトーナメントは実行されるの。簡単に言うと、ジャッジメントの監視が入らなくなる。秘密の会話がし放題、っていうことね』

『そのような仕組みになっていること自体が、おかしいのう』

『あなたの言う通り。そもそものゲームの設計自体に、裏がありそうな気がする。ひょっとしたら、運営も関わっているのかもしれない』

『つまり、わしに、その調査を依頼したい、ということか』

『あなたは元忍者だから、そういうのは得意でしょ?』


 イズナは頷くと、エントリーボタンをタップした。


 これで、トーナメントへの参加が決定した。


『他ならぬ、お主の頼みとあらば、聞こうではないか』

『ありがとう。くれぐれも用心して、悪い連中に気付かれないようにしてね』

『わしに任せよ。裏があるようなら、暴き出してみせるぞ』


 とにかく、これでイズナの参戦も確定した。


 ナナの話通りなら、トーナメントには、色々とキナ臭い秘密がありそうだ。けれども、それくらいのトラブルがあるほうが、イズナとしては燃えてくる。


 さっそく、最初の試合の日に向けて、準備に入ることにした。

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