第12話 当身投げの秘密

「なにいいい⁉」

「レイカっち、それはいくらなんでも、無茶じゃ⁉」


 戸惑いを見せる、ディック・パイソンとサーヤを放って、イズナは敵の頭領カズマと向かい合う。


「どうじゃ? この条件で引き受けるか?」

「わけわからねーな。お前が勝った時の条件はそれでいいのか? そこのレスラーのオッサンなんて、幹部の誰かをぶつければ、瞬殺できるぜ」

「さて、どうかのう」


 ニヤニヤと、イズナは挑発的な笑みを浮かべている。


「オーケー、いいぜ。その条件で戦ってやるよ。ただし、負けたら、マジで俺の女になってもらうぜ」

「二言はない」

「90秒一本で勝負だ。どちらかの体力ゲージが切れれば、その時点で決着。時間制限の時により体力ゲージが削られているほうの負け。いいな?」

「よかろう。始めようかの」


 さっそく、コンピュータの音声が流れてきた。


『レディ、ファイッ!』


 戦い開始の合図とともに、カズマは先制攻撃を仕掛けてきた。


 体に巻き付けてある鎖を振り回すと、イズナに向かって投げつけてくる。


 「絶対回避」で鎖攻撃を避けたイズナは、そこから、カウンターで当身投げを発動させようとした。


 ところが、出来ない。


 鎖を掴んだところで、動きは止まってしまった。


「ぬう! この攻撃に対しては、当身投げが出来ぬのか!」

「ハッハァ! 残念だったな! お前の戦法は研究させてもらったぜ!」

「なんと⁉」

「マグニを倒した時の映像と、そこのディック・パイソンと戦った時のアーカイブを、密かに見ていたんだよ! お前の強さは、当身投げにある! だったら、それを使わせなければいいだけだ!」


 さらにもう一本の鎖をカズマは飛ばしてきた。


 それもまた、イズナは回避したが、気付かぬうちに鎖が脚に絡みついている。


「ぬ⁉」

「そして、これが、俺の攻略法! 鎖で身動き取れない状態になったら、そのチートスキルも発動しようがないだろ!」


 ジャッ! と三本目の鎖が飛んでくる。


 鎖は、イズナの胸部に絡みついた。豊満な乳房が締め上げられ、プルンと揺れる。ダメージを受けることは避けられたものの、それでもおっぱいを締めつけられる痛みは伝わってくる。


(いかんな、わしの体力は1じゃ! 一発でも喰らえば負け確定になる!)


「そーら! ここからどんどん攻めるぜ!」


 さらに二本の鎖をカズマは飛ばしてくる。


 イズナは、今度は身動きが取りづらい状態ながら、なんとか回避したが、鎖は体に巻きつき、さらに動きを封じてきた。


(このままでは負けてしまう!)


 一方的に攻撃を喰らい、さらには当身投げも通用しないとなれば、かなり詰みに近い。


 それでも、イズナは前へと飛び出した。


「おっと、そっちから仕掛ける気か⁉」


 カズマは余裕の表情で、あえて胸を開いて、イズナの攻撃を受けようとする。


「来いよ! お前の攻撃力がゴミみたいなもんだって、俺は知ってるんだよ! 何発喰らっても怖くねーな!」

「そうか、では、遠慮なくいかせてもらうぞ」


 宝条院レイカのスピードは999。


 キンッ! と鋭い音を発して、一瞬にして、カズマの懐へと距離を詰めた。


 ドドドドド! 高速連打でパンチとキックの嵐をお見舞いする。


「うおお⁉」


 カズマの体力ゲージが、1%程度であるが、削り取られた。


「ハッ! やるじゃねーか!」

「それでいいのかのう」

「何がだ!」

「制限時間までに、より体力ゲージを削ったほうの勝ち、なのじゃろう? わしは無傷、お主はダメージを負った。このまま、わしが逃げ続ければ、わしの勝ちじゃが」

「あっ」


 カズマがわざと攻撃を受けたのは、まさかの考え無しの行動だった。


「くそっ! だったら、当ててやるよ! お前はまだ、俺の鎖に絡みつかれているんだからなあ!」


 ギュンッ! と勢いよくカズマは鎖を引っ張り、イズナの体を空中高くへと投げ上げた。そこから、さらに鎖を操作して、イズナのことを地面に叩きつけようとする。


 が、イズナは空中で鎖を蹴って、方向転換すると、落下位置を調整し、まっすぐカズマの頭部に向かって落ちながら蹴りを放った。


 微弱なダメージ。それでも、確実にカズマの体力ゲージをまた削り取った。


「うおおお! ちょこまかと、うっとうしい奴だな!」


 ついにぶち切れたカズマは、鎖を使うのを忘れて、直接イズナに殴りかかった。


「いまじゃ!」


 カズマのパンチに対して、イズナは当身投げを発動させる。


 一瞬の交差の後、攻撃を放ったはずのカズマは、宙へと吹っ飛ばされていた。


「なあにい⁉」


 驚くカズマのことを、イズナは空中でキャッチして、必殺の投げ技・螺旋蛇を炸裂させた。


 頭から地面に叩きつけられたカズマの体力ゲージが、一気に大幅に減る。


 だが、まだ削りきるところまでいかない。


(なるほど、当身投げで、一撃で倒せる時と、そうでない時の条件がわかったぞ)


 相手の攻撃の勢いを利用する当身投げは、おそらく、このゲーム世界においては、相手の技の推定ダメージ値と比例して、威力が大きくなるのだろう。


 つまり、相手がダメージ100の必殺技を放ったなら、当身投げもまた100の威力になる。ダメージ1なら、当身投げは1の威力。しかも、同じダメージ値ではなく、どうやら倍増以上の計算式で、ダメージを与えるようだ。


 だから、マグニや雷虎の時は一撃で倒せたが、ディック・パイソンやカズマは一撃では倒せなかったのである。


(その理屈さえわかれば、だいぶ戦いやすくなるのう)


 ともあれ、この試合、勝敗はすでに決していた。


 90秒が経ち、結果が出た。


『レイカ、WIN!』


 勝者の名がコールされた瞬間、カズマは頭を抱えて「うおおお!」と悔しがり、その仲間達も悲鳴に近い叫び声を上げた。

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