第29話 海天第1回戦:マフィアのボスvsボスの右腕その1
海天側のトーナメント表は、次のような形になっていた。
第1回戦 秦月瑛vs燕飛狼
第2回戦 ダニエル・フォーサイトvs秦雲華
第3回戦 イ・チェサンvs宝条院レイカ
第4回戦 秦美龍vs昴之宮トウヤ
第5回戦 フリア・アルカラスvs秦雷虎
第6回戦 韋駄天サーヤvsアルティマ浜田
第7回戦 ディック・パイソンvs鮫島ソウジ
第8回戦 秦麗風vs葛葉ミズモ
そして、山天側は、こうだ。
第1回戦 雨菱ヘキカvs王城エレナ
第2回戦 伊勢谷カズマvs我那覇ミナ
第3回戦 ジャンヌ・ダルクvs高薙レイカ
第4回戦 堂坂リュウドウvs明神アンゴ
第5回戦 飛刀衆リノハvs浅間ライゾウ
第6回戦 クドラクvs冨原エイジ
第7回戦 マグニvs関羽
第8回戦 ロイド・クルースニクvs楊ユリ
試合は、海天1回戦⇒山天1回戦⇒海天2回戦⇒……と交互に進められていく。そして、勝ち残った者同士で第9回戦以降を戦い、最終的に海天と山天のそれぞれの優勝者同士で雌雄を決することとなる。
で、さっそく海天の第1回戦が始まろうとしていた。
「いきなり身内同士の対決じゃねーか!」
観客の誰かが叫んだ。
闘技場中央にあるリングへと、最初の対戦者達が進んでいく。
黄金色の刺繍が洒落たデザインの黒いカンフー服。長い黒髪を三つ編みで束ねており、腰には青竜刀を帯びている。鋭く細い目は、何者も信用していない証。海天の中華街のボスであり、実質、海天を裏社会から牛耳っているチャイニーズマフィアの首領、
スラリとした長身に、ピッタリと体型に合ったチャイナドレス。深いスリットから白い太ももを覗かせながら、花道を歩いていく。腰まである長い髪の毛は、群青色。切れ長の瞳でまっすぐ前を見据えており、意志の強さを感じさせる。燕飛狼の懐刀、秦家五娘の長女、
さらに、上空の立体スクリーンに、それぞれのステータスが表示される。
燕飛狼
体力:140
攻撃力:88
防御力:86
スピード:91
スキル:内部破壊
秦月瑛
体力:120
攻撃力:80
防御力:78
スピード:95
スキル:ラッシュ
首領としての格を見せるのか、それとも下剋上が起こるのか。
リングに上がった二人は、審判を挟んで向かい合った。
ジャッジを取るのは、カウガールの格好をしたダイナマイトボディの白人女性ベッキー。顔のそばかすがチャームポイントだ。
「ルールはシンプル! 体力ゲージを0まで削ったほうの勝ち! リングはあるけど、リングアウトは無いから! いいね⁉」
審判ベッキーが説明をしている間も、飛狼と月瑛は、真っ向から見つめ合っている。飛狼が余裕の笑みを浮かべているのに対し、月瑛は険しい表情だ。
「手加減する必要は無いネ。本気でかかってくるヨロシ」
「言われずとも、そうするつもりです」
会場が最高潮まで盛り上がってきたところで、審判ベッキーは少し距離を取って、右腕を振り上げた。
いよいよ、第1回戦が始まる。
「第1回戦――始めえええ!」
かけ声とともに、ベッキーは腕を振り下ろした。
「さあ、始まりました! 実況は、MMO界の声のプリンスこと、私、歌川キヨスケ! 解説は、自身も闘技者の一人であるゴードン斉藤さんです! ゴードンさん、お願いします!」
「はい、よろしくお願いします。いやあ、のっけから頂上決戦めいてますね」
実況と解説が喋っている間にも、飛狼は腰の青竜刀を外し、月瑛に斬りかかっていく。武器の使用制限はない。ゲーム世界ならでは、だ。
月瑛は初手ガードに入った。この双天戯においては、全ての処理がリアルに寄せて行われているので、格闘ゲームよろしく素手で武器を真っ向から防ぐことは出来ない。そんなことすれば大ダメージを負ってしまう。
だから、月瑛は鉄扇を取り出した。バッ! と扇子を広げて、舞を舞うような動きで、華麗に、軽やかに、飛狼の青竜刀による斬撃を次々と防いでいく。
闘技場に激しくぶつかり合う金属音が連続して鳴り響いた。
「スピード対決では、ステータス的に飛狼のほうが不利ですね。おまけに、ラッシュ対決となると、月瑛にはまさにスキル『ラッシュ』がありますから、格段に有利だ」
「では、ゴードンさん、状況的に飛狼のほうが分が悪いと?」
「ただし、飛狼には一発逆転のスキル『内部破壊』があります。これが怖い」
解説の言う通り、飛狼は大技を残している。青竜刀による攻撃は、月瑛のガードを誘うための導入でしかない。
スキル「内部破壊」。
これは、現実世界に存在する、中国拳法における「気功」をモチーフとしたユニークスキルである。所持しているのは飛狼だけだ。このスキルのおかげで、海天の裏社会でのし上がることが出来たと言える。
発動条件は、超必殺の掌底技「盤古折解」を放つこと。「盤古折解」自体が、いくつかの必要条件を満たさないと放てないが、一度相手に叩き込めば、ほぼ勝ち確定となる。
「内部破壊」が決まれば、相手のステータスに異常が起こる。スキル無効化、全ステータス値の半減、さらに体力値の継続減少。
「ホアッタアアア!」
怪鳥音を叫ぶのとともに、突然、飛狼は宙に飛び上がった。空中から浴びせ蹴りをお見舞いする必殺技「天尊落脚」だ。
「飛狼様、甘いですよ」
月瑛は頭上からの攻撃に対しても、冷静に、鉄扇を振り上げて防御しようとした。
その瞬間、飛狼は蹴りを放ちつつ――同時に、青竜刀を思い切り投げ飛ばしてきた。飛び道具攻撃だ。
「ぐっ⁉」
月瑛の腹部に、青竜刀が突き刺さる。ゲーム世界だから、死にはしないけれど、判定ダメージは大きい。
月瑛の残体力は、120から、一気に80へと減った。
「ハッハア!」
勢いに乗じた飛狼は、そのまま浴びせ蹴りも月瑛に叩き込む。青竜刀が刺さったことで、月瑛は体勢を崩され、ガードが間に合わなかった。
ドゴンッ! と重い打撃音が響き渡り、月瑛は後ろへとよろめいた。
残体力は80から60へ。もう半分まで減っている。
「こりゃあ、早期決着かな」
よくわかっていない観客が、素人感想を述べたところで、急激に展開が変わった。
いきなり、月瑛の全身から赤いオーラが立ち上り始めたかと思えば、月瑛は超スピードで飛狼の懐へと潜り込み、怒濤のごとき連撃を叩き込み出したのである。
スキル「ラッシュ」。このスキル自体は特に珍しいものではなく、割と多くの闘技者が持っている汎用スキルである。
発動条件は体力が半減すること。
つまり――月瑛は、この瞬間を待っていたのだ。
「ぬ! お!」
飛狼はガードをしようと躍起になるが、もともとスピード値は月瑛のほうが高いので、完全には防ぎきれない。少しずつ、体力が削られていく。
いつしか飛狼の体力値は140から100へと減っていた。
会場から大歓声が湧き上がる。飛狼有利かと思われた状況から、一気に月瑛が逆転をかけていく。この上なく盛り上がる展開に、特に月瑛ファンの観客は大興奮状態だ。
ところが――
ズドンッ!
空気までもが振動する激しい音が響き渡った。
大ダメージ演出。月瑛の口から、ゴプッと赤い血が噴き出す。
チャイナドレスの腹部が弾け飛び、白い肌が剥き出しになっている。そこには、飛狼の掌底が叩き込まれていた。
超必殺技「盤古折解」が、放たれてしまったのだ。
その発動条件は、体力ゲージの下部に並んで表示されている闘気ゲージが100%まで溜まること。攻撃を当てることでも溜まるが、最も溜まるのは、ダメージを受けること。
すなわち、飛狼もまた、この瞬間のためにあえて月瑛の連撃を受けていたのだ。
そして、「盤古折解」が決まったことで、月瑛のステータスに異常が起きた。スキル「内部破壊」の効果だ。体力ゲージは残り10まで減少し、攻撃力、防御力、スピードは半減。
「これで終わりネ、月瑛」
勝ち誇った笑みを浮かべる飛狼。
しかし、月瑛もまた、笑った。
それは諦めや自暴自棄から来る笑いではない。
まだ勝負を諦めていない笑いだった。
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