第24話 忍者vs暗殺者
「わしが、お主のバディに?」
「そうだ。それであれば、勝負を受けてやってもいい」
「よかろう。その条件で始めよう」
「戦闘時間はデフォルトの90秒、ラウンド数は1ラウンドでいいか?」
「よいぞ。制限時間内に体力を削りきれなければ、体力を多く削ったほうの勝ちじゃな」
「ああ、それでいい」
勝敗条件が確定し、勝負が成立した。
階段の踊り場という、極めて狭い空間で、イズナとダニエルは向かい合い、お互い戦闘態勢に入る。
『レディ、ファイッ!』
電子音声の合図が入るのと同時に、二人は同時に動き出した。
ダニエルはいきなり拳銃を取り出し、至近距離から、イズナの眉間に向けて狙いを定めた。
フッ、とイズナは微笑む。敵は大きなミスを犯している。一つ、近接戦闘で拳銃を使うべきではない。二つ、使う場合、的が動きやすい頭部を狙うべきではない。三つ、特にスキル「絶対回避」を持つ自分を相手に、その攻撃は無謀すぎる。
イズナは素早く上体を倒して、射線上から身をずらした。銃声が耳を貫いた。そのまま流れるようにダニエルの懐へと飛び込む。
カウンターで一気に攻めようとする。が、当たると思った拳は、空を切った。
ダニエルもまた、イズナの攻撃をかわしたのだ。
そこから、イズナの腹部を狙って、引き金を引こうとする。
「くっ!」
感覚的に、「絶対回避」が発動しない予感がして、イズナは拳銃を持つ相手の腕を払った。狙いを逸らされた銃口から、銃弾が発射されて、床にぶつかって跳ねた。
イズナは、今度こそダニエルに攻撃を当てるため、サイドに回り込んでから隙の無い手刀を放つ。高速のカウンター攻撃であったが、ダニエルはそれも避けて、またイズナに拳銃を向けてきた。
回避し、反撃し、それをまた回避し――両者ともにギリギリのところで攻撃をかわしながら、カウンターを当てようとするが、なかなか当たらない。
「やるのう、お主!」
「お前もな」
何度目かの攻防の後、ダニエルは突然、銃による攻撃をやめ、イズナの腕を掴んだ。そして、彼女の足を払い、床へと投げ倒そうとする。
イズナの「絶対回避」が発動した。投げられながら、空中で回転し、壁に両足をついて、無理やり投げ技を中断させる。それから、ダニエルの掴み手を逆に掴み返し、ひねり上げる。
「ぐっ⁉」
ここに来て、初めてダニエルは焦りの声を発した。イズナの手を振りほどこうとするも、しっかりと極められていて、ほどけない。
「せえい!」
イズナは気合いとともに、ダニエルのことを背負い投げした。
ダニエルは受け身を取り、両足を踏ん張るようにして床に着地する。イズナの掴み手から逃れ、間合いを切った後、拳銃を構えようとしたが、何も持っていないことに気が付いた。
拳銃は、いつの間にか、イズナの掌中にある。
「手癖の悪い奴だ」
「こんなものに頼らんでも、お主は十分に強かろう」
イズナは拳銃を手早く解体し、バラバラになったパーツを床に放り捨てた。
ふん、とダニエルは鼻を鳴らし、今度はナイフを抜いて、構えた。
「どうしても武器を使いたいようじゃな」
「それが最適解だからだ」
「さて、どうじゃろうか」
「お前からは、俺と同じ匂いがする。見せてもらおうか、さらなる実力を」
ダニエルは間合いを詰め、刃を閃かせて、斬りかかる。
だが、イズナの「絶対回避」には、どんな攻撃も無効化されてしまう。
巧みにナイフによる連撃をかわしたイズナは、ダニエルの顎に、掌底アッパーを叩きつけた。これが初のダメージ。ダニエルの体力ゲージが減少する。
「チッ」
ダニエルは舌打ちし、さらにナイフで斬り込んでくるが、イズナは回避し、相手のうなじに手刀を当てた。カウンターダメージが入り、またダニエルの体力ゲージの赤い面積が広がる。
流れは、ほぼイズナ有利に傾いている。それでもダニエルは淡々と、機械的に、攻撃を仕掛け続けたが、反撃のダメージを受ける一方だった。
やがて90秒が経過し、試合時間が終了となった。
カンカンカン! どこからともなくゴングの音が鳴り、勝負の終わりを告げる。
『レイカ、ウィン!』
電子音声が、イズナの勝利を宣言した。
ダニエルはやれやれとかぶりを振り、肩をすくめる。
「一筋縄ではいかないと思っていたが、まさか、ここまでとはな。クライアントも、お前の強さを甘く見ていたようだ」
「さて、答えてもらおうかの。お主を雇ったのは、何者じゃ」
「約束だ。答えてやる。俺のクライアントは、他ならぬ、運営だ」
「運営? このゲームの運営ということか?」
「お前はジャッジメントとの戦いでも生き延びた。本来ならただのラウンドガールでしかないお前が、無双の強さで好き放題暴れ回っている。この状況を、運営は危険視しているようだ。ゲームバランスが崩壊してしまうしな」
「秩序を守るために、わしを排除しようというわけか」
「もちろん、ゲームの世界だ、体力ゲージを削りきったところでキャラロストするわけではない。だが、一度でも敗北の戦績がつけば、流れは変わる」
「キャラロスト?」
「そのキャラが死ぬ、ということだ」
であれば、もしかしたら、わしは体力を削られたら死ぬかもしれんぞ……と言いかけて、やめた。そこまで情報を与えてやる必要もない。
「しかし、わからない。お前はいったい何者なんだ? このゲーム世界で何をしたい?」
「わし自身、その答えを求めているところじゃ」
フッ、とイズナは微笑んだ。
「そういうお主は、なんなんじゃ? 随分と戦い方が玄人じゃが、現実世界では何をしておるのじゃ?」
「それについては勘弁してくれ。クライアントの情報を教えたのだから、十分だろう」
と言ってから、ダニエルは、ピクリと眉を動かした。
何かに聞き耳を立てている。
「……まさか、来たか」
「なんじゃ?」
「確実にお前のことを仕留めるつもりらしい。運営が、特殊部隊を投入したようだ。外から音が聞こえる」
確かに、ヘリの音がする。
イズナはため息をついた。どうやら、おとなしく夜を過ごさせてはくれないようだ。
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