第19話 魔力臓



「……地獄で待っててやるぜ…」


 エンリケは俺を睨みつけてそう言うがその程度の眼光に怯むことはない。今のこいつは死にかけ、対してこちらは魔力を多少消耗しているがさっきの兵士くらいならあと100人を相手にしても問題にもならないくらいの余裕はある。その程度はわかっているだろう。


「残念だったな、俺に地獄は似合わない。」


 苦しませるのも趣味ではないから介錯してやる。人間としては評価する気も起きないが俺がこれまで出会ったなかでは最強だったよ。


 日本人としては敵対しても死ねば皆仏、エンリケと兵士たちに少し黙祷する。



 みんなを囲っていた壁を解除して状況を確認するが、この雰囲気はかんばしくないね…


「マギさん、こちらの脅威は排除できました。フィオさんの状況は?」

「え…? もう? 相手はAランクの…」

「フィオさんの状況は?」


 Bランクなり損ないがAランクに勝ったというのが飲み込めていないのか俺の質問よりこっちの状況が気になってるみたいだ。報告は後からでもできるんだから優先順位はフィオさんの治療のはずだ。そういうことにも考えが及ばないほどAランクとBランクの実力には差があるというのは後から知ったんだけどね。


「ティーロくんが魔法で囲いを作ってくれたときに意識を失ってそのままよ… 今は体内の魔力が暴走していていつ暴発するかわからないわ。おそらく意識を落として暴発だけはしないように抑えてるんだと思うわ…」

「つまりいつ暴発するかわからないと… 対策は?」

「魔力を外から抑えてコントロールできるといいんだけどそうも言えないほどフィオちゃんの中で暴れているわ…」

「無理矢理抑えつけてもいいことにはならなさそうですね、ほかには?」

「えぇ… 1番いいのはフィオちゃんの魔力を外へ逃がすこと。ドレイン系の魔法かかなり高度な魔力操作ができるかの二択になるわ、今の私には…」


 なるほど、フィオさんの魔力暴走は目で見てわかるほどだ。仰向けに寝かされてはいるけど全身がバリバリと音を立てて帯電しているように魔力が迸っている。

 これは下手に触ると大惨事だろうね、マギさんがお手上げなのもわかるというもの。


「このまま放置するとどうなりますか?」

「死ぬと思うわ。暴走が収まるまで意識は戻らないでしょうしいつまでもこの状態を維持できるわけもないわ。何かのきっかけで暴発してそのまま…」

「じゃあ俺がやります。みんなは壁を作るんでその影に退避を。」

「す、すまんな… 魔力や魔法に関しては専門外じゃ…」

「ティーロ… フィオちゃんを頼むよ…」

「お、オレは…」

「ルイさんも離れてて、どうなるかわからないから。」

「………すまん。」

「私は付き添うわよ。」

「マギさん…」


 できればマギさんにも離れててほしいんだけどなぁ… 覚悟を決めた顔をしてるし、これは無理か。


「ティーロくんがなにをするかわからないけど邪魔はしないわ。フィオちゃんの様子を見て危なくなったら声をかけるだけよ。それに… 私にできないことをするのよね? 勉強させてもらうわ。」

「はぁ… ぶっつけ本番だからどうなっても知りませんよ?」



 それだけ言って3人の前に壁を作る。さっきのより頑丈にって考えると鉄筋コンクリートか? 鉄はその辺から砂鉄を抽出して、表面にも気休めにコーティング。5センチがコーティングかと言われたらどうかわからないけどね。


「じゃあ始めるよ、マギさんは周辺警戒をよろしく。

 フィオさん、ごめん。上手くいったら土下座するから…」


 はぁ… こんなのが初めてなんてな、医療行為でノーカンにしてもらえたらいいんだけど。


 もう一度心の中で謝ってフィオさんにキスをする。



 その瞬間流れ込んで来るのは膨大な魔力と濃密な怒りの感情。

 当たり前だ、セシルさんがフィオさんを娘のように思っていたならフィオさんだってセシルさんを母のように思っていた、そんな人が…


 怒りの感情ごとフィオさんの魔力を受け止め、そのまま飲み込んでいく。


 言葉にすればこれだけのことだけど繊細な魔力操作と自身の感情の制御が求められる、魔力は一定のペースで来るわけじゃなくて当然波があるしそれはパターン化できるようなものじゃない。感情の波に連動している気がしないでもないけどそんなことを考える余裕はない。それにしてもこの魔力量は尋常じゃないな、もうエンリケ10人ぶんは受け止めてるけどフィオさんの魔力総量から見たら1割くらいか、種族的なこともあるだろうけど多すぎないか?


「ティーロくん… 大丈夫なの…?」


 視線を向けるとマギさんが今にも泣きそうな顔でこちらを。俺は「問題ない」と気持ちを込めて手を振りフィオさんに集中し直す。

 フィオさんから流れ込んで来る魔力はすでに俺の魔力総量を超えている。それに気づいたからマギさんは心配してくれたんだと思うけど俺はこの機会を利用して自身の強化をしている。取り込んだフィオさんの魔力で俺自身の魔力総量を拡げているんだ。

 マギさんに教わりながらオリジナル魔法をいくつも作ったことからマギさんには俺の魔力総量がどれくらいなのかは知られている。ヒューマンにしては多いがエルフや魔人と比較すると当然に劣る、ならどうすればいいか。答えは単純、容量を増やせばいい。この世界の生物には物理的な臓器とは別に魔力を貯める見えない臓器のようなものがある。そこを成長させればいい。一般的にヒューマンを10としたときにエルフは20、獣人は5〜8と言われる。これはあくまで一般論で例外はいくらでもある。


 で、俺はこの魔力臓とでもいうものを一気に拡大させているんだ。通常なら魔力を流して少しずつ大きくするんだが流れ込むフィオさんの魔力で拡大再構成していく。物理的な臓器ならこんなことはできないが魔力臓は概念のようなもので理論上は無限に成長させることができるらしい。

 ただ、それでも流れ込むペースの方が早いので俺は…


「え… 嘘… まさかティーロくん!?」


 さすがにマギさんは気づいたね、拡げるペースが間に合わないなら増やせばいい。本来の魔力臓と合わせて5個の魔力臓を創りそれぞれを拡張させながら受け止めてる。それにしてもエンリケ100人ぶんはありそうなフィオさんの魔力臓ってどうなってるんだ…




「はぁー… なんとかなったか…」


 最終的に7個まで魔力臓を増やして対応したけどまさかここまでとはな…


「お疲れ様、これでとりあえず暴発の心配はなくなったけど… こんな無茶はもうしちゃだめよ…?」

「心配かけてごめんなさい、でもこれしか方法がなかったから…」

「それは… 私こそごめんなさいね、私がなんとかできればよかったんだけど…」


 いや、どうだろ? マギさんでどうにかできるならエンリケとやり合ってる間になんとかできただろうし…


「まさか魔力臓の数を増やすなんてすごい発想ね、聞いたことも考えたこともなかったわ。違和感とか大丈夫かしら?」

「今のところ大丈夫、でも疲れたぁ〜…」

「それはそうよ、魔力総量もいっきに増えたでしょうからしばらくは慣らさないと加減が大変よ?」

「うわ… まぁ、なんとかやりますよ。」





作者です


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