第5話 ちゃんこ



「こんちわー! マギさんいるー?」

「はいは〜い、いますよ〜、あら? ティーロくん?」

「はい! ちょっと今日はマギさんにお願いがあるんだけど… いいかな?」

「いいわよ、ティーロくんのお願いならお姉さんなんでも叶えちゃう! 世界征服する? それとも子作り?」

「ちょっ、なんでその2択!? それも差が激しいよ!? そうじゃなくてさ、今日の夜なんだけどお店を貸し切りにしてもらいたくて。」

「そんなこと? いいわよ、予約もないし。そもそもティーロくんがお願いしてくれたんだもの予約があってもこっちからキャンセルしちゃうから!」

「いや、そこはこっちを断ってくれていいからね!? それと今日の料理なんだけど、俺がいつも感謝してるひとたちへのお礼にしたいんだ。マギさんにもお礼したいんだけど1人じゃ回せなさそうだから手伝ってもらえないかな…?」

「まぁ! ティーロくんからまたお願いされちゃったわ! 今日は素敵な日ね、いいわよ、なんでもお手伝いするわ。」

「それじゃあ……」




「こんばんは、あら? 私が最後?」


 マギさんの食堂、魔女の大鍋に今日の最後のお客としてフィオさんが来た。貸し切りだから2組(じいちゃんとばあちゃん、フィオさん)で、先か後の違いしかないんだけどね。


「それじゃ揃ったしそろそろ始めるね。今日は集まってくれてありがとう。俺は今日Cランクになりました。これもみんなが俺を応援して、支えてくれたからだと思ってる。だから感謝を込めてこの場を用意させてもらったよ、これから寒くなってくるから体力つくものを用意したよ、しっかり食べて冬を乗り切ってね。それじゃあ乾杯!」


「「「「乾杯!!」」」」


 ふぅ、こんな挨拶なんてしたことないからこんなもんでいいのかな、ダメでももう済んだしいいよな! さて、食うぞ!


「このサラダに入ってるキノコってもしかしてマッチョ茸? ギルドで採取依頼出てると思うんだけど。」

「それは知ってるんだけど食べても美味いから使うことにしたんだ。お金より感謝を伝えたいからね。」

「もぅ…、ギルド職員としては文句言うところだけど取った素材をどうするかはハンターの自由だからね、それに初めて食べたけどこんなに美味しかったのね。」

「ガリックの根で香り付けしてソテーしてるからね。たぶんほかの店ではここまではしないと思うよ。」

「そうよねぇ〜、私もティーロくんが持ってきてくれないと使おうとなんて思わないもの〜。フィオちゃんはいいところに目をつけるわね〜。」


 今日は俺の持ち込み素材をメインに調味料とかは借りる感じで作ってるからね。ちゃんも料金もしっかり払ってるよ。


「ティーロ! お前こりゃすごいな!」


 じいちゃんが食ってるのはホーンディアのロースト。ホーンディアはDランクの鹿タイプのモンスターでドロップアイテムは角か肉だ。肉は美味いけど警戒心の強いモンスターだからそこらのハンターじゃなかなかマラソンできないんだ。俺は魔法でどうにでもなるけどね。


「香草を色々効かせてローストしたから臭みとかないでしょ?」

「あぁ! もともとホーンディアは多少の癖はあるが臭みは少ないもんじゃがここまで美味いのは初めてじゃ!」

「気に入ってもらえてよかったよ。でもこれはメインじゃないから食べすぎないでね?」

「なんじゃと!? まだメインがあるのか! そりゃ楽しみじゃわい!」



 あんまり引っ張っても仕方ないからメインを持ってきた。グツグツの煮えた土鍋に入っているのは…


「なんじゃこれは? 鍋なのはわかるが陶器でできておるんか?」


 さすが職人のじいちゃんは鍋が一般的な金属製ではなくて土鍋なことが気になるんだね。この世界では土鍋ではなく金属製の鍋が一般的だ。それにこうして鍋ごと提供する料理はないらしい。


「この匂いはガリックにジンジャ… 他にも色々使われとるようだね?」


 錬金術師で薬師をメインでやってるばあちゃんはそういうとこに気づくんだね。そう、ニンニクと生姜は効かせておかないとね。


「これは… 今まで食べたことのない調味料も使ってるの?」

「そうよ〜、ティーロくんが自作したんだって〜。すごいわよね〜、私も〜こんな斬新な調味料は〜初めて見たわ〜。」


 フィオさんとマギさんは調味料に気づいたみたいだね、マギさんは作ってるところを見てるから知ってるんだけど。


「これはピリ辛味噌ちゃんこっていう料理だよ。ガリックとジンジャで香り付けしてチリの実で辛さを付けてるんだ。メインの調味料は俺が作った味噌。マギさんにはレシピ教えようか?」

「ほんと!? なら金貨1枚でいいかしら?」

「え!? このレシピにお金は取らないよ。でも味噌は買い取りでお願いします。」

「いいの? 両方お金払うわよ?」

「うーん… これは再現が簡単だからお金を取るほどじゃないと思うんだ。もし気になるなら味噌の方を買ってくれると嬉しいかな。」

「ちょっと待って! ティーロくん!? あなた金貨1枚を受け取らないの!? まだいくらでもお金は必要な時期でしょう!?」


 フィオさんに怒られちゃった、でも今日は俺の感謝を伝える日だしこの味噌ちゃんこくらいは1回食べればすぐ再現できると思うよ? それに気に入ってくれて味噌が広まる方が嬉しいからこれでいいんだ。


「まぁ、そこは食べて判断してよ。これくらいすぐ作れるからレシピ買い取りなんて必要ないと思うし。」

「うむ、わしはそんなことより早く食いたいわい。さっきからよだれが止まらんのじゃ!」

「は〜い、私が取り分けますね〜。お野菜にキノコに〜お肉はオークの薄切りと大鴨、それにオークと大鴨の肉団子まで入ってるんですよぉ〜!」

「こりゃいいねぇ、精がつきそうだよ。こんなの食べたら夜が大変だねぇティーロ?」

「ちょっ! ばあちゃん! そういうつもりじゃなく体力をつけてほしくて!」

「美味い! こいつは病みつきになるわい!」


 ちょっと… なんでフィオさんが赤くなるんだよ!? ダメだダメだ。フィオさんは恩人なんだからそういう目で見ちゃ悪い!


「ティーロくんが良ければ私がお相手するわよ〜?」

「マギさん!? やめてよ! これでもいっぱいいっぱいなんだから!」

「ふふっ、ティーロくんは可愛いんだから。」

「そうですね、ほんと可愛いです。」


 なんだよ… 2人して… 俺だって男なんだからね!?


「はぁー、食った食った。まさかシメなんてもんがあるとは思わんかったわ。ごちそうさん。」

「あたしも食べすぎちまったね、こりゃ冬場には最高のごちそうだったよ。」

「ちょっと食べすぎてしまいました… 明日からは抑えないと…」

「みんな気に入ってくれたみたいで良かったよ。みんなのおかげで生きてこれたしCランクまで上がれたんだ、その恩返しはずっとしていくから。これからもよろしくね!」

「もちろんさね、ところで会計はいくらだい?」

「あ、そうですね。でもこれだけの食材に調味料ですから… 持ち合わせ足りるかしら…」

「恩返しって言ったでしょ? 今日は俺のおごりだからこのまんま帰って大丈夫だよ。でもフィオさんは残ってもらっていい? マギさんに片付けを任せ切りにはしたくないから。終わったら一緒に帰ろ?」

「ティーロ、馳走になった。お前さんの剣じゃがさっきのアレを使おうと思う、おそらくこれで足りんかった粘り強さを補えるはずじゃ。」

「わかった。そこらへんは本職のじいちゃんに任せるから遠慮なくやっちゃってよ。」

「あたしはその剣に色々と魔術を付与しようかね。このひとがいつまでかかるかわからないけど尻は叩くわ。」

「お手柔らかにね。じいちゃんも年なんだから無理はさせないで?」

「なぁに、こんなに美味いもんを食わせてもらったんだ、少々無理したって大丈夫さ!」


 そう言って2人は帰って行った。何日かしたらまた精のつくものでも差し入れしようか…

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