第6話 夜のお話



 Side フィオ


 お2人を送り出した後、ティーロくんは洗い物と片付けは任せろと言って私達2人は客席に残されたわ。それにしてもまさかここでマギさんと会えるなんて思ってもみなかった。


「まさか〜フィオちゃんがティーロくんの面倒を見ているなんて〜思いもしなかったわ〜。」

「それは私もですよ。まさかあなたが食堂をされているとは思ってませんでした。」


 暴雷魔女テンペストウィッチと呼ばれた現代最強格の魔法使いがまさか食堂の女将さんをしているなんて誰が想像できるでしょう、私だってこの目で見た今でも信じられません。聞くところによれば多くの貴族や他国の王族が自分の軍に呼ぼうとしていたにも関わらずある時より行方知れずになっていたとか…


「私は〜ティーロくんに美味しいものを食べてもらって〜元気に生きててもらえたらそれでいいのよ〜、それ以上多くは望まないわ〜。」

「あの、ティーロくんとはどこで…?」

「えっとねぇ〜、その前に私のことはマギさんって呼んでねぇ〜? それで〜ティーロくんとは〜、あの子がパーティーを組んでいるときに出会ったの〜。彼以外のメンバーがCランクに上がったお祝いの会場を探してるときにうちに来たのが最初よ〜。予算を聞いたら原価ギリギリでお願いされちゃって〜、馬鹿にしてるのかと思ったけど〜あの頃のティーロくんは本当にお金なかったのよねぇ〜…」

「どういうことですか? 他のメンバーがCランクになった頃ですとちゃんと頭割りすればそれなりのお金は持っていたと思うのですけど…」

「あらあら〜? フィオちゃんはギルドの職員だから知ってると思ったけど〜、その頃のティーロくんって〜分け前をほとんどもらえてなかったのよ〜? ランクに差があるとか言われて〜かなり減らされてたみたいなのよ〜、それに〜そのお祝いも祝うんだからって〜ティーロくんのおごりにさせられてたみたいで〜なんとか用意した予算だったんだって〜。」


 そんな… 彼の元パーティーメンバーについては私の担当ではないので詳しくはわかりませんがそんな対応をしていたなんて… ティーロくんはそんなことは何一つ…


「あの子は〜とっても優しいから〜あなたに心配かけたくなかったんだと思うわ〜。ティーロくんの〜まっすぐな目を見たら情がわいちゃって〜お祝い会も赤字で引き受けたの〜。そうしたら〜後片付けや掃除なんかをしてくれてねぇ〜、こんないい子のためになら〜なんでもしてあげたくなっちゃったのよ〜。それで〜魔法の使い方とか〜空いている時間にこっそり狩りをするようにアドバイスとかしちゃったら〜ほんと私もびっくりするくらい強くなっちゃったのよね〜。」

「マギさんがティーロくんに裏引きを教唆したんですか…?」


 ハンターがギルドを通さずに魔石やドロップアイテムを売却することを裏引きと言って、禁止はされていないけど好ましくないこととされています。


「そうよ〜。でもそれがな〜に〜? そうしなかったらティーロくんは本当にお金なかったし、そもそも裏引きは注意されても禁止はされていないわ。武器のメンテナンス費用もなかったのよ? あのままだと武器を失って致命的な怪我をするか、犯罪に走るか、身体を売るかのどれかになっていたとか思うわよ? ティーロくんの性格から犯罪はないにしてもほかの2つなら心から身体のどちらかに大きな傷が残ることになったと思うけど?」


 マギさんは途中から間延びした喋り方をやめていました、そして二つ名を思い出させるような冷たい目で私を見ています。

 私だってわかっています。裏引きはそのハンターの評価を下げますが取り引きをしたお店の評価も下げるのです。ティーロくんはきっとそれをわかっていてそれでも取り引きをしてくれたと感謝してこのような場を設けてくれたのです。自分のためにリスクを背負わせたという負い目を感じつつ、それを私や皆さんに感じさせないように明るく振る舞って…

 どれだけ思いやりがあるんでしょう…


「私は… 私はティーロくんがBランクに上がったらギルドの職員を辞めようと思います。」

「あら〜? どうしてそうなるのかしら〜?」

「そんなの決まっています。私がティーロくんのパーティーメンバーになるんです。私ならあの子に悲しい思いも理不尽な思いもさせません!」

「ふぅ〜ん? なら私もご一緒するわね〜? フィオちゃんにひとり占めはさせないからよろしくねぇ〜?」

「なっ!? そ、それはティーロくんが決めることなので私から文句は言いませんが…」

「ふふふっ、大丈夫よ〜。私はひとり占めなんてしないなら〜。Bランク以上のハンターは平民出身でも一夫多妻が許されるじゃな〜い?」

「そ、そうですけど… マギさんはそれほど…?」

「もちろんよ〜、長いこと生きてきたけど〜これほど可愛い子には〜出会ったことがなかったわ〜。」

「わかりました、私たちでティーロくんを支えていきましょう。」

「あら〜? それでいいの〜?」


 よくありません! 本当は私がハンターに復帰して2人でパーティーを組んで少しずつ距離を縮めていって… と考えていたのに!

 でもマギさんの戦力は計り知れないですしティーロくんの安全を考えると悪くない選択だと思います。不本意ですが、納得はいきませんが、業腹ですが、3人でパーティーを組むことにします。


「ティーロくんのためですから。」

「ふふっ、あなたのお父様が聞いたらどう思うかしら〜?」

「父は関係ありません!」

「心配しなくても私からティーロくんに教えたりはしないわ〜、ただ〜あなたの親戚たちのことは〜気をつけておきなさいね〜?」


「言われるまでもありません。私はティーロくんしか愛しませんから!」


 え? あ、あれ? なんで…? どうしてティーロくんを愛してるなんて… え、あ、え? えぇぇぇぇ!?



 Side マギ


 あらあら? フィオちゃんが目を回しちゃったわ。でもこの子はちゃんと愛を知っているのね。こうして人の世で暮らすことを心配はしていたけれど良かったのかもしれないわね。


 でもそれは私も同じかもしれないわ。数え切れないほどの人を手にかけてきて凍りついたと思っていた私もこうしてティーロくんやフィオちゃんを可愛いと思えるようになったんですもの。でもこれってティーロくんに出会ってからのような…? あら? あらあら? もしかして私も…?


 ふふっ、この気持ちがはっきりするのが楽しみだわ。こんなにあたたかい気持ちになるのはいつ以来かしら、もしかしたら初めてかもしれないわね。


「マギさーん、片付け終わりましたー!」

「お疲れさまぁ〜、でも少しずつ声を小さくしてもらえる〜?」


 ティーロくんてば、片付けを済ませてくれたのは嬉しいけどフィオちゃんが起きちゃうわ。


「あ、フィオさん寝ちゃったのか… どうしようかな…」

「使ってない客間があるからそこに今夜は泊まっていきなさぁい? ベッドは1つしかないけどくっついて寝れば入れるはずよ?」

「えっ!? で、でも同じベッドだなんてフィオさんに悪いですよ!」


 真っ赤になっちゃって、ほんと可愛い。


「何言ってるのよ、フィオちゃんがあなたを引き取ってしばらくは同じベッドで寝てたんでしょ〜? なら大丈夫よ〜。」

「いや、あの、でも、その…」

「じゃあティーロくんは私と寝ましょ? 相手の了承なく同じベッドは気がとがめるのよね? 私ならいいわよ?」

「………はい、お願いします。」


 うふふ、さっきより真っ赤になっちゃって、ほんと可愛いわ。




 う、うぅ〜ん… よく寝た。こんなに気持ちよく眠ったのは久しぶりかもしれないわね。


 え?


 なに… これ?


 キャーーーーーーーーー!!!


 テッ、テテテテテティーロくん!?


 わっ、わたっ、私、ティーロくんと同じベッドで!?

 そ、そうだわ… そうだったわ…… 昨日はフィオちゃんがダウンしたから客間に泊めて、ティーロくんは私のベッドで一緒に寝たんだったわ… なんでこんなに取り乱すのよ、可愛い坊やと一緒に寝てるだけじゃない…

 ティーロくんも寝ぼけて私を抱きしめているだけよ、きっとそういうつもりじゃないわ。

 あ… 今胸がズキって…


 はぁ〜… こうしてティーロくんに抱きしめられて、ティーロくんの匂いに包まれてるとさっきの胸の痛みも溶けていくみたい… こんな気持ち初めてだわ…

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