第7話 ばあちゃんとランチ
「よし、今日はこのへんにしとくか。」
みんなにちゃんこを振る舞ってから数日。俺は狩り場を別の森に変えて毎日狩りに励んでいる。Bランクに上がるにはパーティーでオーガを倒せることが求められるんだけどそれは余裕。ただ倒すだけならいくらでもやりようはあるんだ。でもそれだと手の内がバレるし俺のやり方はほかのハンターには再現が難しいから真っ向勝負で安定して狩れるようになっておきたいんだ。
今日の成果はオーク10にオーガ3、それと動物がいくらか。モンスター以外は面倒だから動物でいいや。ちゃんと解体してあるから素材はじいちゃんばあちゃんのところに回そうかな。魔石を換金すれば銀貨で33枚、ほかのCランクだと1週間ぶんくらいの稼ぎになる。
こっちの世界の
5人パーティーで6日、1日に銀貨1枚くらいの計算だけどD〜Cランクってこんなもんなんだよね。運が良ければそこにドロップアイテムのぶんも加わるからなんとかやれるくらいかな。Dランクハンターが狩れるモンスターよりCランクハンターが狩れるモンスターのドロップアイテムの方が当然価値があるからそこで差がつく感じかな。
ちなみにDランクモンスターの代表はオークなんだけど、Dランクハンターが(パーティーを組むのは前提だけど)オークを狩れるとは限らないんだ。そのランクのモンスターに挑戦してもいいよっていうのがハンターランクのイメージかな。オークを安定して狩るのは実質Cランクハンターなんだよね、オークはドロップアイテムで食用の肉が出るからみんな狙ってる。
俺も今回は10匹までにしといたのはほかのハンターに譲る意味もあるんだ。肉も2つドロップしたしね。オーガは運良く3匹めで角がドロップしたからこれで終わり。剣だけで倒す練習もできたし必要以上に乱獲はしないよ。
まだ昼前なのに今日のぶんのノルマが終わっちゃった。じいちゃんとばあちゃん以外には俺がオーガを狩れることを教えてないから今日も納品するのは溜まってるゴブリンの魔石でいいかな。オークを出してもいいんだけど元メンバー関係がね… この間納品したオークの魔石についてだってあいつらの担当がゴチャゴチャ言ってたしほんといやになるよ。なんで抜けた後に稼いだぶんを渡さないといけないんだよ、それも俺の取り分は1/10って馬鹿にしすぎじゃないか?
あー… 思いだしたらイライラしてきた。今日の納品はやめにしよ、あの担当職員の顔は見たくないし。マギさんとこで食べてもいいけど今日はばあちゃんとこに行こ。こないだ市場でいい感じの魚があったから買い込んでおいたんだよね! 魚を喜んでくれるのって俺の知り合いだとばあちゃんだけなんだよ。じいちゃんは肉の方が好きだし、フィオさんとマギさんはなんでも喜んでくれるから魚が特別って感じはない。ばあちゃんもなんでも喜んでくれるけど魚とかのあっさりしたものを特に喜んでくれるんだよ、俺も今日は魚の気分だからばあちゃんと魚ランチにしよ!
「ばあちゃーん、今日も来たよー!」
「おやおや、今日いつもより早いね、どうしたんだい?」
「ばあちゃんとお昼を食べようと思ってさ、まだだったら一緒にどう?」
「この子はほんとに… どうせならあたしみたいな婆さんじゃなくて若い子を誘ったらどうだい?」
「若い子ねぇ… 昨日はマギさんとお茶したしフィオさんとは朝晩は一緒に食べてるから今日はばあちゃんだよ!」
「そうかいそうかい、ならご一緒しようかねえ。どこか店に行くかい?」
「簡単なのでいいなら俺が作るよ、台所借りていい?」
「あぁ、好きにしていいよ。」
台所では七輪で魚を塩焼きにして野菜と一緒にパンに挟んだ魚サンドとアイテムボックスに入れてあるスープを用意する。この世界ではスキルとしてのアイテムボックスはそこまで一般的ではないけど魔導具としてのマジックバッグはそれなりにあるからこれまでつっこまれたことはない。マジックバッグは容量に個体差があって、小さいものでバスタブ1つぶんから大きいものだと小学校のプールくらいらしい。俺のアイテムボックスは時空魔法で空間を作ってるから時間経過もコントロールできるから保温から発酵促進までお手の物。味噌はこうしてアイテムボックスの空間で作ってるんだ。
「おまたせ、魚のサンドとスープだよ。簡単でごめんね?」
「なんとまぁ、これは美味しそうだねぇ。あんたはいつも不思議な料理を作ってくれるよ。うん、美味い! 骨が気になったけどちゃんと処理されててありがたいよ。それにあたしは肉より魚の方が好きでね、これは大好物になったよ。」
「ほんと? よかったー! ばあちゃんは魚が好きだからさ、魚を食べるときはばあちゃんと一緒がいいなって思ってたんだ。」
「まったく… そういうことは女を口説くときに言うんだよ? あたしに言ってもしょうがないよ。」
「そういうときはまた考えるけど今はこのままでいいかな。じいちゃんの剣ができてBランクになるまではあんまり目立ちたくないんだよね。」
元メンバーの担当に睨まれてはいるけど俺はギルドではそこまで目立ってるわけじゃないと思う。納品はゴブリンの魔石ばっかりだし、1回オークの魔石を出したけどあれくらいはマグレだとでも思われてるさ。ソロでCランクって少ないけどいないわけじゃないし。
「気づいてくれるかい? この町のBランクパーティーが2つともあんたを入れようと狙ってるんだよ?」
「えー? そんなことないでしょ? 話したこともないし。」
「そうは言ってもねぇ、片方はここにあんたのことを聞きに来たこともあったよ。」
「うわ、なんかごめんね、迷惑かけて。」
「いやいや、あんたが料理好きとだけ教えてがっつりポーションを売りつけておいたよ。まぁ、適正価格で要りそうなもんだけにしておいたから文句も言えないさね。」
「はははっ! それくらいでばあちゃんが儲かるなら好きにしてくれていいよ。でも俺はどこかのパーティーに入るのはいやかな。」
「だろうねぇ、元のメンバーたちもあんたに売ってたのと同じ値段でポーションを寄越せって来たこともあったけどそんときは材料持ち込みで雑用もしてもらうって言ったら帰っていったよ。ほんと根性なしだったねぇ。」
「うわ… そっちもごめんね。」
ばあちゃんのポーションを安く買えてたのは頼み込んだのと、素材を用意してたから。あとたまに掃除とか調合を手伝ったりしてたからだよ。安い店だと勘違いするとかほんとあいつら頭おかしいよ…
「よいよい、それよりそろそろじいさんの店に行ってみるとよい。今日仕上げるとか言っておったよ。」
「ほんと!? すぐ行く! ばあちゃん、また美味い魚料理考えとくね!」
食べ終わって少ししたタイミングで教えてくれたってことは俺がばあちゃんとこに着いたくらいにはまだ終わってないと思ったんだろうね。ばあちゃんはじいちゃんのペースを知ってるはずだから調整してくれたんだと思う。こんな風に通じ合えるのってすごくいいな、俺にもこれくらい通じ合える相手が見つかるかな?
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