第8話 鬼喰(オーガイーター)



「じいちゃん! 来たよ!!」


 俺はじいちゃんの鍛冶屋に走り込んだ。ばあちゃんから聞いてもう待ちきれないんだ!


「ティーロ、よく来た。まず出来を見てもらおう。お前の言う通りに組んだがこのカタナという剣はなかなか面倒じゃな。」

「そうだね、失礼して抜かせてもらうよ。」


 じいちゃんから刀を受け取り、握りを確かめて抜刀する。うん、鞘にも違和感はないしガタつきもない。初めて刀を打ってこれほどの完成度ってやっぱりじいちゃんはすごいな。

 これはいいよ…


「じいちゃん、ありがとう。俺の希望の通りの素晴らしい刀だよ。」

「うむ、わしが1本の剣にここまで苦労したのは下積み時代以来じゃわい。」

「あ、やっぱりそれくらい苦労させちゃったか… ごめんね、でもありがとう。俺が手にする最初の刀はどうしてもじいちゃんに打ってもらいたかったんだ。」


 今の俺はそれなりに持ってるから金を積めばそこらへんの鍛冶屋に頼むこともできた。でもこればっかりはダメだ。俺の最初の、この世界で最初の刀はじいちゃんに打ってもらいたかったんだ。じいちゃんの名前を世界に残したい。鍛冶師としてのじいちゃんがどれほどの評価を受けているかを俺は知らないけどこうして刀を作ってもらうことでじいちゃんの名前を残すことにしたんだ。


「あぁ、お前の気持ちは受け取ったぞ。こいつの説明をしておこう。オーガの角を中心に鉄と魔法銀ミスリルを少し加えて鍛えた。そこにばあさんが付与をかけることでこれまでわしが打った中でも上位5本に入るほどの性能になっておる。付与により切れ味と耐久性がとんでもなく上がっておる。魔法銀ミスリルにより魔法との親和性が上がり、魔法をまとわせることができるようになった。そこらの剣でこれをやると剣の耐久性からすぐに魔法に負けて駄目になってしまうがこいつはそう簡単に負けはせん。オーガの角の影響か剣自体が成長するようになったようじゃな。まさかとは思うが亜種か上位種の角ではなかろうな?」

「なるほどね、これはすごいや… ここまでの仕上がりになるなんて思ってなかったけど嬉しい誤算だよ。さすがじいちゃん! ところでこいつに名前はつけたの?」


 これほどの名刀なんだから名前くらいしっかりつけておかないと格好がつかないよね。


「うむ、オーガイーターというのを考えておるんじゃがどうかの、オーガを喰らいその力を増すという思いを込めておるんじゃが。」

「いいね! じゃあしっかり銘を刻んでおこうよ! 彫金の道具はあるかな?」

「ティーロ? メイとはなんじゃ…?」

「あ、そうか。銘っていうのは刀の作者の名前とか由来なんかを刀身の握り部分に刻んだもののことを言うんだよ。」

「なるほどのぉ、ならティーロの名前を刻むとするか。」

「いやいやいや! なんでそうなるんだよ! じいちゃんの名前にしようよ! それに今後他にも刀を打ったときに入れていけばじいちゃんの名前が1つのブランドになっていくからさ! じいちゃんの名前ってどう書くんだっけ… あれ? そもそもじいちゃんの名前ってなんだっけ?」

「わしの名前か? ここはティーロの名前でいいかと思ったが、そこまで言われてはの。今後カタナを作るときは入れるようにするか。 わしの名前はジークハルトじゃ、つづりはこうじゃな、「Sieghardジークハルト」じゃ。」

「ふむふむ、じゃあ銘は俺が刻むね。じいちゃんに任せたら勝手に俺の名前にされそうだし。」

「ちっ、バレたか。」


 じいちゃんから彫金の道具を借りて銘を刻んでいく。


 Sieghard Ⅰ 鬼喰


「うむ、わしの名前と1本目ということじゃな、後の「鬼喰」とはなんじゃ?」

「これはオーガを喰らうって意味だよ。オーガイーターのことだね。今後じいちゃんが自信を持って作れた刀にはこうやって番号を入れるといいかなって思って入れたよ。この番号もちょっと難しい規則性があるから偽物は作りにくいと思うよ。」


 この世界にローマ数字や漢字がないことは確認してるからこれで偽物は出回らないと思う。刀について多少知ってる程度の俺の説明でここまで再現したのはじいちゃんだ。偽物なんて許せないよね。


「ティーロよ、ありがとう。わしにこれほどの仕事をさせてくれたこと心から感謝するぞ。」

「なに言ってんだよ、じいちゃんじゃないとここまでのものは作れないよ。俺の方こそ感謝してる。これからもメンテナンスとか頼むからね!」

「それは任せておけ、今はわし以外にできる者はおらんしな。それより試し切りはせんでよかったのか?」


 あ… たしかに試し切りは必要だね。あとで森に行ってくるか。


「性能はだいたいわかるよ。普通に振り回すだけでも革鎧程度ならスパっといくし、俺なら魔法を使わなくてもチェインメイルくらいはいけるね。ただ魔力を込めるだけでも鉄のフルプレートも貫くと思う。俺が魔法をまとわせると金属製の盾も切れちゃうんじゃないかな。」

「そうじゃな、わしもそれくらいだと思う。そこまでわかるとはの… ハンターになってまだ半年じゃというのにの、よほどいい師匠に鍛えられたんじゃな。」

「………うん、最高の師匠だったよ。」


 やば… 向こうのじいちゃんを思い出した…


「んんっ もしお前が大きな街に行くときに貴族には気をつけるんじゃ、相手によってはそのオーガイーターを取り上げようとするやもしれん。」

「あー… やっぱりそういうのあるんだね、なら普段使いできるような剣もいるかな…」

「ならこれを持って行くといい、オーガイーターを作るまでの試作品じゃ。鉄しか使っておらんが今の剣よりはよほどいいものじゃ。」

「ありがとう、代金は計算できたら教えてよ。手持ちで足りなかったら急いで用意するから。」

「うむ、数日かかるからな、それは持って行け。」


 ここは下手に遠慮とかしたらじいちゃんの気持ちに応えないってことになるよね、俺を信用してるってことなんだからその気持ちはちゃんと受け取りたい。


「ありがと、じゃあ何日かしてまた来るよ。」




 Side ジークハルト


 うむ、行ったな。久しぶりに本気になれる仕事だったわい。ここんところ大した物は打っておらんかったから腕が鈍っておらんかと心配したがそんなことはなくて安心したわ。

 ティーロに渡した試作品を打っていて思ったが、このカタナという剣はとんでもないの。ティーロは「折れず、曲がらず、よく切れる」と言っておったが全くその通り。他にもよく切れる種類の剣はあるがそれは表面をスッと切るようなもんじゃ。じゃがカタナは違う。わしら鍛冶師は武器を見るとどれほどのものかわかるんじゃが表面が切れるだけでは済まん、オーガイーターでなくともオーガの首すら容易たやすく切り落とすじゃろう。モンスターの骨を断つには剣にそれなりの耐久力が必要なんじゃがカタナはあの細さで大剣並みの耐久力があるということになる。ただ振り下ろすだけではなくあの湾曲した刀身を使って引きながら切ることで耐久力とは違う効果が出るんじゃな。


 ティーロが、このカタナでもたらしたものはとても大きな意味がある。本来なら馬鹿力で叩き込まねば断ち切れないものをカタナとそれを扱う技術で再現できるという事実。これは腕力の不足で行き詰まっていたハンターへの福音ふくいんじゃ。


 なんとしてもティーロを守らねばならん。あいつはこの世界に革命を起こす存在やもしれん。まずは立場と与えるかの、Bランクになればこの町から出るじゃろうし受け入れ準備はさせておこうか。




作者です


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