第9話 過去回想
じいちゃんからオーガイーターを受け取って俺は森に戻ってきた。試し切りはやっぱり実戦じゃないとね。
俺の狩りは効率を考えると魔法でやっちゃうのが早いんだけどそれだと魔法に耐性のある相手には通用しなくなる。だから取れる選択肢はたくさんあった方がいい。
この世界に来てからこの半年で色々あったけどここまで来た。刀があれば俺はもっと強くなれる。今の俺で強いかと言われればたぶんそれなりには強いんだと思う。Bランクハンターはこの世界じゃ十分に強者だからね、でも上には上がいる。この町のBランクよりは強いと思うけど他では? あのひとたちがBランクの上位かも平均かもわからないけど今は最低ラインだと考えよう。そう考えたらまだまだだ。うん、俺はもっと強くならないといけない。
なんのために?
それは俺が何者かになるため。俺はあっちでは死ぬまで何者でもなかった、何者にもなれなかった。だから今度は、今度こそは何者かになりたい。どんなことでもいい、世界に俺が生きてたって印を残したいんだ。
幼稚園くらいの子供の頃、俺は何にでもなれると思ってた。親は愛してくれているし、世界は優しいと思ってた。でもそれは気のせい。親は俺を愛してなんかいなくて役に立つか立たないかだけで見ていたし、世界は残酷だった。
幼稚園の同級生が女の子をいじめていた。幼稚園児のいじめだから大したことはしていないけどその子はいつも泣いていた。それに気づいた俺はその子を守ろうと同級生に食ってかかった。あとはほんとテンプレート。いじめの対象が俺になり、その女の子もあちらに回った。別にそれでよかった。女の子が助かればそれでいいって思ってたから。
でもそれで終わらなかった。あいつらは俺が女の子をいじめていたって話をすり替えて教師に報告させた。当然親にその話が届き、親の俺への興味は消えた。食事があっただけマシかもしれない。幼稚園の費用をだしていただけマシかもしれない。殴られなかっただけマシかもしれない。
本当にそうか? 親から興味を失われ、世間体のためだけに養育される。そんな環境をマシだと思えるなら「虐待」について調べてみるといいよ。
そんな生活が何ヶ月か続いたある日、あいつは俺に言ったんだ、
「おまえがこいつをいじめたらいじめをやめてやる」
あの子は俺をいじめる側になってもいつも泣きそうな顔をしてた。好きでやってるんじゃない、自分を守るために必死だったんだ。それが見えてたから俺は受け入れてた。やっといじめから半分くらい開放されて落ち着いてきてたのにまたいじめの対象に戻される。こんな非道があっていいのか?
キレるってこういうことなんだと思う。頭が真っ白になって気づいたら全てが終わってた。
俺はあいつを押し倒してマウントで顎が割れるまで殴って、右目に鉛筆を突き刺してた。
結果としてあいつは右目を失明して、女の子は転園、俺はじいちゃんばあちゃんの家に引き取られた。親は怒ってたけど言ってる内容をまとめると、手間をかけさせられた、金がかかった、評判が下がった、この3つ。警察には女の子が本当のことを話したからか親が金を積んだのか俺には大したお咎めはなし。
事件から1月もしない間に俺は引き取られ、その先でじいちゃんに座れなくなるくらい尻を叩かれた。叩かれた後にじいちゃんは「やり方が悪い、他の方法を考えろ。」って叱ってくれたし、ばあちゃんは俺を抱きしめてくれた。
でもばあちゃん…
「この年であそこまでできるのは見込みがあるね、でもきっちり取らないとダメだよ?」
って… ばあちゃん、取るってなにを…?
うちの家系は暗殺者かなにかですか…?
はは… 当たらずとも遠からずってこういうときに使う言葉なんだね。俺は中学に上がるまで2人に勉強から剣術から徹底的に仕込まれた。同世代と関わるとまた同じことをするかもしれないってことで2人以外には近所のジジババ、郵便の兄さんくらいにしか会わないような田舎で育てられた。中学に上がるときに親元に戻されたけど、俺は外には「病気がちで田舎で療養していた」ってことになっていた。
家には年の離れた弟ができておりそちらは可愛がられていた。不思議なもので事件前の俺よりよっぽど可愛がられていて、この親にも情愛があったんだって驚いたよ。
父親の仕事の関係で半年から1年周期で引っ越しを繰り返すようになっており、ずっと田舎にいた俺にはころころと変化する環境についていけず、実質ずっとぼっちだったよ。
その頃にはもうじいちゃんとばあちゃんの身体は手が付けられない状況だったと後になって知った。
高校受験のタイミングで父親は東京勤務になり、また転勤するなら俺はひとり暮らしをしながら通学することになった。弟も中学受験は東京ですることにしているらしくそちらは母親と2人暮らしなんだってさ。
こうして転勤までの期間限定の4人暮らしをしていても1人と3人って組み合わせが変わることはなく、俺は高校に合格。じいちゃんとばあちゃんに報告をしようとしたら近所に住んでたばあちゃんから2人が亡くなったって電話が入った。
俺が親元に戻されたときにはもうボロボロで、何度か見舞いをって電話をしてくれていたそうで「あんなに可愛がってもらってたのに太郎ちゃんは情けの1つもないのかい」って寂しそうに言われたよ。
近所のばあちゃんから電話があったこととじいちゃんとばあちゃんが亡くなったこと、俺を見舞いに誘っていたと聞いたことを母親に伝えたら「お前は葬式に行く必要はない、見舞いに行ってもどうなるものでもない。お前には最低限以上の金を使うつもりはない。」それだけ言って3人で葬式に行ってしまった。
ひとってここまで残酷になれるんだね。俺は心から何かが抜けるのを感じながら1人で少しだけ泣いた…
なにをする気力もなくなって、食事も取れずにいたらインフルエンザに
こんな人生に意味があるのかって思っていたある日、車に
こっちでフィオさんに拾われたとき、俺って生きてていいんだって思えたんだ。だからフィオさんは俺の恩人。命だけじゃなくて魂も救ってくれたから。この恩は一生かけてでも返しきれないけど、返し続けることにしてる。
うん、回想してたらオーガを5匹ほど倒してた。向こうでじいちゃんが鍛えてくれた剣術のおかげで考えずに身体が動くようになってる。ひとの形をしてるなら多少背格好がデカくても基本は変わらないよ、首を落とせば死ぬ。首に届かなかったら足を潰して届くようにすればいい。普段使い用の方も試したけどこっちもいいね。
こういう技術はBランク以上のハンターしか使えないらしいけどDランクから使えてたな。こっちのじいちゃんがやり方を教えてくれたのがよかったんだと思う。絶対じいちゃんは高名な鍛冶師だと思うんだけどなぁ…
作者です
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